04-10
天国・地獄・大地獄 第四話「山吹サチ①」
ただいま毎日〈月〜金のみ〉鋭意連載中!!
女性は牛鬼を見て少したじろいたようだったが、悲鳴を上げるほどではない。
あからさまに人外の容貌をした牛鬼を見て、ここでは三人が三人とも平常心を保っていることにアキハは驚いていた。
「ええと、お宅さんらはここで何を?」
牛鬼が爪で後頭部あたりを掻きながら尋ねると、初老の男が答える。
「生活をしています」
「生活ぅ?」
牛鬼が素っ頓狂な声を上げる。
ここは地獄やぞと言わんばかりだ。
「私と彼の使命は、その人を守ることなんです」
初老の言葉に、若い男が頷きながら言う。
「そうすれば、ここで静かに暮らせるんですよ」
アキハにはちっとも話が見えてこない。牛鬼も同じようだった。
「ほな、あんたは?」
牛鬼に尋ねられた女性は、閉めたドアにもたれかかりながら答える。
「私は、守られることが仕事みたいな感じかな。勝手なことはできないけど、ここで安全にいられるのがメリット」
「まさか」
牛鬼はそれを聞いて、自分の頭頂部をぴしゃりと叩いた。
「それ、女王様に言われたんちゃうか」
「女王様?」
女性が怪訝な表情でオウム返しする。そこに若い男が口を挟んだ。
「山吹の姐さんのことじゃないですか?」
「その呼び方はやめなさい」
「はい」
初老の男がたしなめる。
山吹の姐さん。『壁抜け男』が口にしたその呼び名。
『山吹』というのがこのマンションを統べる女王の名で間違いないのだろう。
アキハは、これまでの女王に対するイメージを覆すような仮説を口にした。
「その山吹さんが、あなたたちに安全を提供してるってこと?」
初老の男が微笑む。
「はい。この家と『家族』を提供してくださいました」
「『家族』やと?」
その言葉は、この家にいた三人を指しているのだとアキハは直感でわかった。
恐らくは何の繋がりもなかった三人が、落ちた地獄のこの場所で集められ、山吹という一人の亡者に安寧の地を与えられたのだ。
そんなことが可能なのだろうか、アキハの頭の中は疑問符だらけだった。
「あなたたちの【業】は?」
もし亡者が一つの場所に集まれば、お互いの【業】によって無事でいられるとは思えない。
「そこも山吹さんの計らいで、男性陣は、守るべき女性が危機に陥らない限り【業】が発動しないようになっています」
「じゃあ、あなたは?」
アキハに問いかけられた女性は、気恥ずかしそうに鼻の頭を掻く。
「私の場合、守ってくれる二人がいなくなった時、発動するんだって」
牛鬼が鼻を鳴らす。
「ずいぶん、女性が優位やないか」
「知らないわよ。山吹さんが決めたことだし」
確かに、女性は守られるばかりで、男性のことを守る術を持たないということになる。
だがアキハにとって、それは些末なことだった。
女性が決めたのなら、女性が優位なのは当然だろう。
「あと、なんでウッシーを見ても驚かないの?」
アキハの言葉に初老の男が目を丸くする。
「ウッシーと仰る」
「いや、牛鬼な」
さすがにアキハ以外には呼ばれたくない通り名だったようだ。
「あなたが牛鬼でしたか。話には聞いています。まあなんにせよ、山吹さんの教えで外見に惑わされないようにはしています。地獄では、外見になんの意味もない。【業】が全てを物語るのだ、と」
若い男が、椅子に片足を乗せ、その膝を抱えながらアキハを見る。
「君みたいな子がいい例じゃない?そんなナリで一体どんな【業】を抱えてんのか。鬼と行動を共にしてる時点でだいぶヤバいし」
男の言うことはもっともだった。
アキハは改めて、自分が客観的にどう見られているのかを知ることになった。
年齢と地雷ファッション、二つの特異さが存在を際立たせている。
どうして出会う人皆、地味めな服装なのだろうか。
和装の女性とか出てきてくれないかな、アキハは内心で文句を言う。
ワンピースのフリルを指でいじるアキハを横目に、牛鬼が初老の男に問いかける。
「そんならこのマンション、こういう家が他にもあるんか?」
「はい。男二人女一人の組み合わせで、何十戸かあると聞いています」
もしアキハが、その情報を伝聞で得ただけだったとしたら、単純に不気味に思っただろう。
しかし今、目の前で実際にその一組を見ていると、そこに後ろ暗さなどは見当たらない。
04-11 へつづく
※次回の更新は月曜日です。
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