04-09
天国・地獄・大地獄 第四話「山吹サチ①」
ただいま毎日〈月〜金のみ〉鋭意連載中!!
その空間はキッチンスペースやダイニングと一体化した、リビング・ダイニングとなっていて、十畳程度の広さがあった。
家具は必要最低限のものしかなく殺風景。
数枚の座布団と二十インチ程度の古めかしい液晶テレビが床に直置きされている。
アキハたちが開けた玄関ドアは、こちら側だと居住スペースの一室に入るドアになっていたのだ。
リビング・ダイニングの先の方にはちゃんと玄関スペースが見えているのに、なぜかこのポータルはちぐはぐな接続をしている。
壁沿いのキッチンスペースの前には四人がけのテーブルセットが置かれ、そこの椅子に二人の男が座してアキハたちの方を見ていた。
一人は二十代くらいの青年、一人は初老の男という組み合わせだ。
二人ともそれぞれ、休日の普段着といったような格好をしている。
当然ながら二人とも亡者であろうが、外廊下で出会った亡者たちのような殺気は感じられない。
身構えるアキハたちに向かって、初老の男の方が声をかけた。
「やあ、こんにちは」
「こんにちは」
若い男も続いて挨拶をする。気勢を削がれたアキハは、ワンテンポ遅れて返事をした。
「こ、こんにちは」
油断させて【業】で攻撃してくるのかも知れない。
アキハは緊張を緩めないよう努めたが、二人の男から一切の闘争心を感じられないことにより、自然と肩の力が抜けていってしまう。
「変やな」
牛鬼が首を捻っている。
「前来たとき入った部屋は、普通に玄関に繋がっとったが」
「ここは特殊ってこと?」
「特殊なのか……、なんやろ」
小声で話す二人に、優しい口調で初老の男が注釈を挟む。
「こういう部屋は、このマンションにたくさんあります。なんてことないですよ」
若い男も無言でうんうんと頷いている。
「お、おう、そうか」
さすがの牛鬼も、二人の亡者の特殊性に調子を乱されているようだ。
「ちょっと部屋の中、見さしてもろてええか?」
鬼が亡者にへりくだる様は滑稽であったが、この状況では自然に見えるから不思議だ。
初老の男は柔らかい表情で答える。
「どうぞ」
牛鬼とアキハはドアを後ろ手で閉め、室内に上がり込んだ。
アキハは、二人の男がスリッパ履きなのを見て、慌てて靴を脱ぐ。
その様子を見て、初老の男が申し訳なさそうな顔をした。
「すみません、予備のスリッパがなくて」
「あ、いえ、おかまいなく」
アキハは靴を指に引っ掛けて、室内を見渡した。
前述の通り殺風景な部屋だ。
キッチンのある壁と反対に面するところは窓になっており、外の景色が見える。
しかしその風景もビルの側面ばかりが見え、外階段やエアコン室外機など味気のないものばかりだ。
アキハは何の気なしに窓に近づき、景色の見え方に違和感を持つ。
――ここも同じか。
アキハの自宅を模した部屋と同じだ。
見えている景色は窓に貼り付けられたポスターのようなもので、本物ではない。
恐らくこの窓も、はめ殺しのようなもので開きはしないのだろう。
「窓は開かんか」
牛鬼がアキハに声をかける。
「うん、たぶんね」
「ほな扉は五つか、結構あるな」
牛鬼はポータルの数を数えていたようだ。
リビング・ダイニングに面したポータルが二つ、その内の一つがアキハたちがくぐってきた扉。
そして玄関に一つ、トイレと風呂に通じていそうな扉がそれぞれ一つずつ。計五つだ。
ファミリー向け2LDKといったところだろうか。
――ファイブ・ポータル、略してファイボ。
アキハは心の中でそう唱えた。
リスポーン部屋がワンポで、祖母の店のような部屋がツーポ。
スリポ以上に分岐する部屋もあるんだなと感心しそうになるが、アキハが創った街自体が無数のポータルを備えた一つの部屋なのだということを思い出して腑に落ちる。
「あ、そこは」
にわかに若い男が声を上げた。
牛鬼がダイニングに面したポータルのひとつに近づいたためだ。牛鬼が動きを止めて男を見る。
「なんやの?」
「大丈夫」
初老の男が若い男を安心させるように言う。初老は牛鬼に顔を向けた。
「女性がいます。ノックしてあげてください」
牛鬼が戸惑いを隠せずにアキハを見るが、アキハは白目をむいて答える。
アイコンタクトには変顔で返すからなという意思表示だ。
牛鬼は小さく溜め息をついてドアをノックした。
数秒と経たずドアが開き、中から女性が姿を見せる。
「どうしたの……わっ」
女性は三十代半ばといったところだった。
化粧っ気はなく、男二人と同じように飾り気のない服装、よそ行きでも部屋着でもないような、近くのコンビニへ買い物に行く時のような格好をしていた。
04- へつづく
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