04-08
天国・地獄・大地獄 第四話「山吹サチ①」
ただいま毎日〈月〜金のみ〉鋭意連載中!!
外階段を通って四階になだれ込んでくる亡者たちを屠る牛鬼の背中で、アキハは小さな異変を目にした。
「ウッシー、見て」
動きを止めた牛鬼が、アキハの指さしたあたりを見る。
一見ただの壁だが、マンションの法則性を無視した違和感がそこにある。
左右を見ると、規則正しく居住スペースに入るための玄関ドアが並んでいるが、そこだけ設置し忘れたかのように無い。
「お、ドアがあらへんな」
「うん。ちょっと前まであった気がするんだけどね」
「消えたか」
ポータルの消失、それが意味するところは、マンションという形をとる女王の記憶から、接続していた亡者の記憶が剥がれたということだ。
亡者を葬り続けたことの効果が見えてきている。
「ほんなら、少し中を覗いてみよか?」
ちょうど亡者たちのウェーブもひと区切りついて、四階廊下には動きを見せる亡者はもういない。
適当にくぐったポータルの先でいきなり女王様と出くわすなんて豪運は引かないであろうから、中の様子を見てみることはアキハも賛成だったが。
「あ、ちょい待って」
ただひとつ、『壁抜け男』との戦いの中で判明した『心の虚穴』のクセが懸念事項となっている。
「女王様をアッシの【業】でわからせるって話だったけどさ。さっき見た通り、下の階があるところで使うと、落下死させる底なし穴じゃなくて、単に床に穴が開くだけになっちゃうんだよね」
「確かに、せやったな」
「とするとさ、このマンションの中で女王様を仕留めようとするなら、一階で使わないと意味なくない?」
「ああ……。いや、たぶん平気や」
牛鬼は少し考えてから、アキハの懸念を否定する。
「今立っとるマンションの外通路は、アキハが作った巨大記憶空間の内部や。扉で区切られとらんやろ。だから床に穴が開くだけやったんちゃうかな」
「そっか」
アキハの中で、この街全体がひとつの『部屋』だという認識が未だ落とし込めていない。
「外見はマンションでも、それぞれのポータルをくぐった先は独立した空間てことね」
「ポータルて、扉か?まあ、そういうこっちゃ」
それを確認できたアキハは安心した。
いざ女王様を穴に落としたところで、下の階に移動させるだけでは愚の骨頂である。
アキハと牛鬼は、手近な玄関扉の前に立つ。
牛鬼がドアノブに伸ばした手をいったん止めて、アキハを見た。
なぜ見る?アキハはアイコンタクトの意図がよくわからず、眉間にシワを寄せて口をへの字にした。
それを受けた牛鬼は、寄り目をしながら口をすぼめて鼻をおっ広げた。
ただでさえ人間離れした顔つきの珍奇な表情にアキハは吹き出した。
「変顔しとる場合か」
アキハはにわかの関西弁で牛鬼にツッコむ。
「そっちが先やろ」
「アッシは変顔してねーよ」
牛鬼はニヤリと笑ってドアノブに手をかけた。
アキハの緊張をほぐそうとしたのかも知れない。
ただ、当のアキハはガチガチに緊張していたかというと、そうでもなかった。
自分の【業】の有用性と可能性に気づき、『壁抜け男』の脅威を振り払えたことが自信に繋がっていたのだ。
昔ながらの円筒状をしたノブが牛鬼の手で回転させられ、カチャリと小さく音を鳴らしながら掛け金が引っ込む。
アキハはドアに隙間ができるのを待った。が、牛鬼はなかなか開こうとしない。
「んっ、おっ?」
鍵がかけられているのかと思いきや、そうではなかった。
ドアは、室内の方へと開いていったのだ。
牛鬼は最初、一般的な住居の玄関ドアを開けるつもりで手前に引こうとしていたが、意外にも反対向きの作りになっていたわけだ。
「こういう玄関って、外側に向かって開くもんちゃうの?」
「普通そうだと思う」
アキハは自宅のドアや、住居以外の出入り口を頭の中でイメージしたが、トイレの個室以外で内側に開くドアというものに出会った試しはない。
ドアの先には、想像を絶するまでではないものの、絶妙に感覚のずれた光景が待ち受けていた。
そこには玄関ではなく、住居のリビング空間が広がっていたのだ。
04-09 へつづく
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