04-07
天国・地獄・大地獄 第四話「山吹サチ①」
ただいま毎日〈月〜金のみ〉鋭意連載中!!
このマンションは百戸前後の住居から成り立っている。
さらに、ひとつひとつの住居に寝室、トイレ、風呂場など、ポータルとなり得る扉は四から六枚程度ある。
マンションがどこまで詳細に再現されているかは不明だったが、ここには千に近い数の記憶が接続されているはずであった。
そのうち、いくつくらいの記憶を剥ぎ取っただろうか。
アキハと牛鬼は亡者狩りを続けていた。
基本的にアキハは手出ししていない。なんだかんだで、左腕の数字を増やすことに良い気持ちはしないからだ。
『壁抜け男』を仕留めた後、アキハは靴を取りに五階へ戻った。
その際、アキハが床ギロチンで足を切り落とした六人は、全員出血多量で絶命していることを確認した。
四階に落としていた亡者も、動かなくなっていたのはやはり息絶えていたからであった。
アキハが新たに六人の亡者を葬ったことになるので、これでアキハの紅い数字は17853となった。
牛鬼が五階に群がっていた亡者たちを相手にしている間に、アキハはポケットにしまっていた包帯を左前腕に巻いて端を留めた。
『壁抜け男』のように、地獄のシステムを理解している者の目に留まることはもう避けたかったのだ。
ただ、地雷ファッションという周りから浮いた格好をしている上、わざわざ数字を隠しているということはお察し、ではあるのだが。
ちなみに、牛鬼がこのマンションへとアキハを案内している道中、どうしてそんな服を着ているのかと質問をした。
その際にアキハはしばし考え、「おばあちゃんのための喪服」と答えた。
それがアキハにとって、一番しっくりくる答えだった。
数字を隠すこともそうだが、『壁抜け男』はアキハにいくつかのひらめきを与えた。
床以外にも穴を開けられるという起死回生のアイデアもそのひとつで、そのうち最も衝撃を受けたのは男が自分の【業】に名前をつけていたことだった。
【業】は自らが負う罪の具現化であり、恥ずべきものだという認識でスタートしていたアキハにとって、『壁抜け男』がそれをまるでファッションのように扱っていたことは、反発する心がある反面、目からウロコの発想転換でもあった。
【業】とは【能力】だという考え方。
穴を開ける能力、天井からロープを垂らす能力、能力をコピーする能力。
他人の皮膚を自分に移植できるという毒にも薬にもならなさそうなものもあったが、要するにこれは地獄における特殊能力、異能と言っていい。
――マジ、アッシの得意分野だったじゃんよ。
祖母の介護のため家に籠りがちだったアキハにとって、もっぱらの娯楽はゲーム、マンガ、アニメ等のサブカル分野だった。
それらの作品において主人公たちが特殊能力を駆使して敵と戦うのは、もはやありきたりと言っても過言ではないジャンルである。
それらの能力・技には、当たり前のように名前がつけられている。
その名前は一体誰が名付けているのか。アキハは改めて考えたことなどなかった。
他人に名付けられたり、授かった時から決まっていたりもする。
しかし、その多くは能力の持ち主が好き勝手に決めていたのではなかったか。
『壁抜け男』が得意げに自分の【業】の名を披露したとき、「ミュージカルが好きだった」と言った。
そういうタイトルのミュージカルがあることをアキハは知らなかったが、能力を象徴するような名前を趣味嗜好の作品名からもってくるとは、クズ男にしては洒落たセンスだとアキハは内心嫉妬する。
――せっかくなら、他の亡者と被らないような命名法がいい。
自らの特殊能力に自ら命名するという喜びに心を躍らせながら、アキハは考えを巡らせる。
この頃より、アキハが好んで聴いていたミュージシャンの曲名から、『心の虚穴』という名前が心の中に生まれていた。
そのミュージシャンとは、もともと祖母が教えてくれてアキハも好きになったという、思い出の深いアーティストなのであった。
04- へつづく
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