表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
天国・地獄・大地獄  作者: 瀬良浩介
第四話「山吹サチ①」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

64/79

04-04

天国・地獄・大地獄 第四話「山吹サチ①」


ただいま毎日〈月〜金のみ〉鋭意連載中!!

「君、いくつなの?まだ子どもに見えるけど」


 男がねっとりとした小声でささやく。アキハは男がいる右側にだけ、全身に鳥肌が立った。


地獄(ここ)ではねえ、生前に罪を犯した時の姿に戻るんだって。だからか、子どもの亡者ってほとんど見かけないんだよねえ。まさか君ぃ、その年頃で地獄に落ちるようなことしたのお?」


 男がいちいち語尾を伸ばすのもアキハの(かん)(さわ)る。

 吐き捨てるようにアキハは答えた。


「高一ですが何か」


 男はプッと息を吐いて笑う。

 息が耳にかかってアキハの不快度が振り切れる。


「そっかあ。若い身空(みそら)で大変だったねえ。こんな可愛らしい服着て、逆に苦労を感じさせるなあ」


 男は天井から身体を伸ばし、頭をアキハのスカート部分あたりまで下ろす。

 男の頭の位置に合わせて鳥肌が移動していくのをアキハは感じていた。


「俺、こう見えても若い子にモテてさ。最後に付き合った子は高三だったんだあ」


 男が聞いてもいない身の上話を始める。

 もちろん生前は違っただろうが、壁と同じ質感の肌を持つ男を好きになるなんて、異次元の性癖(せいへき)だなとアキハは思う。


「勤務先のバイトの子だったんだけど、その時ばかりは俺も本気になってさあ。ちゃんとしようと思って、カミさんとも離婚したんだよお。偉くない?」


 ――要はそれって浮気してたんだから、偉いどころかエロクズだろ!


 アキハはそんな上手い返しを口にしようと思ったが、自分の太ももにざらりとした何かが触れ、気色の悪さに息を()んで声を失った。


 それは男の手の感触だった。

 男は(いと)おしそうにアキハの生足を()で、その手をゆっくりスカートの中へ滑らせていく。


「それなのにさあ、その子『遊びだったから』とか言うんだよお。信じられる?信じられないよねえ。俺にとって、『遊び』なんて有り得ないんだよ。他の男は知らんけどさあ、俺はいつだって本気なんだよお」


 男の手が尻にまで到達する。

 アキハには電車通学というものの経験がない。故に、痴漢(ちかん)の被害にもあったことはなかった。


 それまでは世の被害女性たちの涙ぐましい訴えをどこ吹く風で聞いていたものだが、いざ自分が被害者となると、こんなにも尊厳を破壊されるものだったことに驚嘆(きょうたん)した。


 触られている部分は、男の(てのひら)から毒の瘴気(しょうき)でも発生しているかのように(しび)れと痛みが伴い、その部分を身体から切り落としてしまいたい衝動に駆られる。


 アキハが体中の筋肉を強張(こわば)らせているのを察し、男はより興奮したかのように言葉の速度を上げた。


「そんな純朴(じゅんぼく)な男の子の思いを踏みにじったヤツにはさあ、罰を下してやったよお。でもやっぱり、死んじゃったら悲しいよねえ。泣かなかったよ、男の子だからさあ。でも心の中ではちゃんと号泣してたんだよお」


 アキハに男の言葉を脳内で処理する余裕はない。だが元より、男の言っていることは意味不明であったから、その必要はなかった。


「だから、取っときたかったんだ、俺の純愛の証。壁の中に大切に隠しておいたんだよ。そしたらさあ、地獄に落ちて、壁に埋まる【(カルマ)】だよ。しかも自分がね。皮肉だよねえ」


 男は(まさぐ)る手を止め、今度は服の上からアキハのボディラインを確かめるように手を滑らせながら、視線をアキハと同じあたりまで戻す。


「でも今じゃ気に入ってるんだあ、この【(カルマ)】。名前もつけたよ。『壁抜け男』。ぴったりじゃなあい?こう見えて俺、ミュージカル好きだったんだあ」


 いい加減、この男の戯言(ざれごと)に付き合い切れなくなったアキハは、吐き捨てるように答えた。


「確かにぴったりだよ、『間抜け男』」


「は?」


 男の手がぴたりと止まる。


「もっともらしく言ってるけど、殺した相手の死体を壁に隠しただけでしょ。ああ、若い子に気のある素振りをされたくらいで舞い上がっちゃった『勘違い男』か」


「違うよ」


 男の口調に、静かな怒りが混じる。


「そんで今は、ここの女王様にこき使われる『奴隷男』?いや、もしかしてタダメシ食らいの『甲斐性(かいしょう)なし男』?」

04-05 へつづく


Xで情報発信中!

https://x.com/Koh_Serra

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ