04-04
天国・地獄・大地獄 第四話「山吹サチ①」
ただいま毎日〈月〜金のみ〉鋭意連載中!!
「君、いくつなの?まだ子どもに見えるけど」
男がねっとりとした小声でささやく。アキハは男がいる右側にだけ、全身に鳥肌が立った。
「地獄ではねえ、生前に罪を犯した時の姿に戻るんだって。だからか、子どもの亡者ってほとんど見かけないんだよねえ。まさか君ぃ、その年頃で地獄に落ちるようなことしたのお?」
男がいちいち語尾を伸ばすのもアキハの癇に障る。
吐き捨てるようにアキハは答えた。
「高一ですが何か」
男はプッと息を吐いて笑う。
息が耳にかかってアキハの不快度が振り切れる。
「そっかあ。若い身空で大変だったねえ。こんな可愛らしい服着て、逆に苦労を感じさせるなあ」
男は天井から身体を伸ばし、頭をアキハのスカート部分あたりまで下ろす。
男の頭の位置に合わせて鳥肌が移動していくのをアキハは感じていた。
「俺、こう見えても若い子にモテてさ。最後に付き合った子は高三だったんだあ」
男が聞いてもいない身の上話を始める。
もちろん生前は違っただろうが、壁と同じ質感の肌を持つ男を好きになるなんて、異次元の性癖だなとアキハは思う。
「勤務先のバイトの子だったんだけど、その時ばかりは俺も本気になってさあ。ちゃんとしようと思って、カミさんとも離婚したんだよお。偉くない?」
――要はそれって浮気してたんだから、偉いどころかエロクズだろ!
アキハはそんな上手い返しを口にしようと思ったが、自分の太ももにざらりとした何かが触れ、気色の悪さに息を呑んで声を失った。
それは男の手の感触だった。
男は愛おしそうにアキハの生足を撫で、その手をゆっくりスカートの中へ滑らせていく。
「それなのにさあ、その子『遊びだったから』とか言うんだよお。信じられる?信じられないよねえ。俺にとって、『遊び』なんて有り得ないんだよ。他の男は知らんけどさあ、俺はいつだって本気なんだよお」
男の手が尻にまで到達する。
アキハには電車通学というものの経験がない。故に、痴漢の被害にもあったことはなかった。
それまでは世の被害女性たちの涙ぐましい訴えをどこ吹く風で聞いていたものだが、いざ自分が被害者となると、こんなにも尊厳を破壊されるものだったことに驚嘆した。
触られている部分は、男の掌から毒の瘴気でも発生しているかのように痺れと痛みが伴い、その部分を身体から切り落としてしまいたい衝動に駆られる。
アキハが体中の筋肉を強張らせているのを察し、男はより興奮したかのように言葉の速度を上げた。
「そんな純朴な男の子の思いを踏みにじったヤツにはさあ、罰を下してやったよお。でもやっぱり、死んじゃったら悲しいよねえ。泣かなかったよ、男の子だからさあ。でも心の中ではちゃんと号泣してたんだよお」
アキハに男の言葉を脳内で処理する余裕はない。だが元より、男の言っていることは意味不明であったから、その必要はなかった。
「だから、取っときたかったんだ、俺の純愛の証。壁の中に大切に隠しておいたんだよ。そしたらさあ、地獄に落ちて、壁に埋まる【業】だよ。しかも自分がね。皮肉だよねえ」
男は弄る手を止め、今度は服の上からアキハのボディラインを確かめるように手を滑らせながら、視線をアキハと同じあたりまで戻す。
「でも今じゃ気に入ってるんだあ、この【業】。名前もつけたよ。『壁抜け男』。ぴったりじゃなあい?こう見えて俺、ミュージカル好きだったんだあ」
いい加減、この男の戯言に付き合い切れなくなったアキハは、吐き捨てるように答えた。
「確かにぴったりだよ、『間抜け男』」
「は?」
男の手がぴたりと止まる。
「もっともらしく言ってるけど、殺した相手の死体を壁に隠しただけでしょ。ああ、若い子に気のある素振りをされたくらいで舞い上がっちゃった『勘違い男』か」
「違うよ」
男の口調に、静かな怒りが混じる。
「そんで今は、ここの女王様にこき使われる『奴隷男』?いや、もしかしてタダメシ食らいの『甲斐性なし男』?」
04-05 へつづく
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