04-01
天国・地獄・大地獄 第四話「山吹サチ①」
連載開始いたします!
【登場人物】
●高遠アキハ … 本作の主人公。毒親から逃れるため自殺し地獄へ落ちたJK。底なし穴を床に開けられる【業】を持つ。
●牛鬼 … 十六鬼のひとり。アキハに鬼の座を譲ろうと接触する。亡者を食うことで【業】をコピーできる。
●山吹サチ … 多くの亡者を葬り、自らの記憶世界として巨大マンションを構築した鬼候補の亡者。
●壁の男 … 壁や床の中に入り込み、触った者を固定する【業】をもつ亡者。アキハの記憶世界を狙う。
毎日〈月〜金のみ〉鋭意連載中!!
恐怖を乗り越えれば人は自由を得る。
乗り越え方には二通りあって、目を閉じて越えるか、見開いたまま越えるかだ。
ただし、得られる自由は正反対の性質のものとなるだろう。
高遠アキハは『上』で生きていた最後の時、目を瞑って恐怖へ身を投げた。その結果がこの地獄行きだ。
恐怖に屈した末に得た自由は仮初めだったのだ。
目を開いていなければ、恐怖の先の未来を見定めることなどできない。
アキハはまだ、未来を見たいと強く感じている。
だから今回は目を閉じなかった。
手すり壁から手を離すぎりぎりまで足の指の踏ん張りをきかせ、数センチでも落下距離が短くなるよう身体を階下に向けて下げてから、アキハは両手と両足先を壁から離した。
身体全体が自由落下へと委ねられ、まるで枷から解放されたかのような喜びが体中の恐怖を掃き散らしていく。
しかしそれは偽りの喜びだということをアキハは知っている。
アキハはしっかりと目を見開いたまま、四階の手すり壁に手を伸ばす。
脳内に覚醒物質が溢れ出し、スローモーションの中で動いているような精密さで両手を壁の端にかけて掴んだ。
次は両足だ。壁を掴む両手を支点にして身体を引き寄せ、両足の先を壁に当てる。
五階にもあったように、壁から数センチ飛び出した出っ張りがあるはずだった。
直後、足の指が出っ張りを感じた瞬間に、渾身の力を足指に込める。
両手両足の踏ん張りで身体の落下を止めなくては、重力の見えざる手がアキハを地面に叩きつけるだろう。
五階で靴を脱ぎ捨てていたため、ソックスを履いただけの足指は出っ張りに引っ掛けられるだけの柔軟さがあった。
しかしその反面、靴よりも滑りやすい。
――止まって!
アキハが心の中で叫んだ瞬間、左足指が耐えきれず出っ張りから滑り落ちる。
しかし右足が負けじと踏ん張りをきかせたことで、アキハの身体は四階外廊下の外壁に留まった。
安堵が全身の筋力を緩める前に、アキハはもう一度左足を出っ張りにかける。
そして両腕の力で身体を手すり壁の上まで引っ張り上げ、胸を手すりの端に乗せ、天日干ししている布団のように壁に身体を預けた。
「なんとかなった……」
今度こそ全身の筋肉が弛緩するのを感じ、アキハは溜め息を漏らした。
しかし四階に移動することができたというだけで、安全が確保されたわけではない。
すぐに顔を上げ四階の状況を確認する。
エレベーターホールの床では、五階からアキハの穴で落とされてきた亡者が、最後の力を振り絞って蠢いている。
ほふく前進で手すり側へと進もうとしているが、もはや目的を持って動いているようには見えない。
通路両端の階段のあたりでは、五階へと移動していく数名の亡者の背中が見えた。
それ以外、外廊下に亡者の姿はない。
亡者が四階を自由に移動できていたということは、四階の床は、壁男ならぬ床男――どちらでもよいのだが――の【業】が及んでいないことを示している。
【業】が見せる超常現象に物理法則はあまり関与していないようだった。
どちらかと言えば、人の思い込みや『罪の再現』が深く作用していて観念的だ。
例えばアキハの【業】の発動条件は、床に手を触れるだけではなく、足でも可能なわけだが、ソックスや靴を履いていても発動することから、肌が直接触れなくてもいい。
また、壁男の【業】が引き起こす『壁への接着』も、服の有無は関係なく、触れたところから身体が離れなくなるものだった。
さらには発動箇所が『壁』『床』と、半ば抽象的に区別されている。
例えそれらが同じ材質で繋がり合っていたとしても、壁男が移動しない限り、【業】の発動はその一面だけなのだ。
先ほどアキハが感じた、「床と階段がつながっているのでは」という懸念は払拭された。
亡者たちが階段を登っていけていることから、『五階床』『階段』『四階床』は独立したものと定義されている。
つまりこのまま手すり壁を乗り越え、エレベーターまで移動できることが立証されたのだ。
04-02 へつづく
Xで情報発信中!
https://x.com/Koh_Serra




