03-13
天国・地獄・大地獄 第三話「女王のマンション」
ただいま毎日〈月〜金のみ〉鋭意連載中!!
牛鬼は感覚を掴んだようだった。
続いて二回発射すると、最初に倒れた両隣の亡者がその場へ崩折れた。
まるで映画のワンシーンだ。
凄腕ガンマンの主人公が敵をバッタバッタと撃ち倒すアクションシーンであるのだが、惜しむらくは上下スウェットずんぐり体型の無精髭では、ハリウッドからお声がかからないだろうというところだ。
前衛の三人が倒れた後、後ろに控えていた亡者たちは気勢を上げて牛鬼へと向かい走り出した。
それを見た牛鬼は、冷徹に引き金を引き、亡者たちに致命傷を与えていく。
次々倒れていく亡者たちを見て、アキハは違和感を覚えていた。
真っ当な神経を持つ者が、拳銃を持った相手に無策で突っ込んでくるだろうか。
文字通りの無鉄砲なその姿は、頭の弱いチンピラか、よく訓練されたチンピラに見える。
これこそが、女王様による恐怖統治の為せる業ということなのだろう。
アキハの背後から亡者たちの奇声と足音が聞こえてきた。
アキハが振り向くより早く、牛鬼が体の向きを九十度転回して、右手で拳銃を背後の標的に向ける。今度は片手持ちだ。
そのまま銃弾を放とうとするが、すでに弾倉は空で、引き金を引いても撃鉄が甲高い音を上げるだけだった。
咄嗟に牛鬼は右手の拳銃を手すり壁の向こうへと放り投げ、腰のボクサーブリーフから新たな拳銃を取り出した。
さらに左手でも同じようにもう一丁の拳銃を取り出すと両腕を左右に広げ、右手と左手で器用に両サイドの亡者たちを銃撃し始める。
――二丁拳銃で左右同時撃ちとか、どこのスタイリッシュアクションだよ。
たくましい、とはお世辞にも言えない、だらしない背中に守られ、アキハは苦笑するしかなかった。
そういえば、とアキハは亡者たちの得物について疑問が頭によぎる。
マンションに入ってからこちら、拳銃を持っていた亡者は牛鬼が食った男だけで、それ以外はみんな刃物だ。
牛鬼が【業】をコピーし、拳銃を尻から出し放題になったということは、亡者が振るう武器は生前の罪が具現化しているものということらしい。
なるほど、考えてみれば殺人に使用される凶器といったら、刃物が上位にくるのだろう。
しかし、アキハの感じた疑念はそこだけではない。
【業】というものは、ただ単に自分に利する道具となるのか、という点もだ。
亡者は己の【業】によって死ぬ、と先刻牛鬼は説明していた。
だとしたら、この拳銃の【業】も何かしらの『副作用』があるのではないのか。
「あたっ、たたっ!」
急に牛鬼が発砲を止めてたじろいた。見ると、牛鬼はこめかみのあたりから出血している。
発砲が止んだことで、牛鬼を襲った風切り音がアキハにも聞こえた。
それは外通路の左右から牛鬼に襲いかかってきているようだった。
「あかん、そっち避難や」
牛鬼はアキハを押し込むようにしてエレベーターホールへと身を隠す。
そのスウェットには点々と赤い染みが広がりつつある。
「撃たれたの?」
「ちゃう。撃ち殺した亡者の死体から、弾が返ってきたんや。この【業】の特性らしい」
【業】のマイナス面。アキハが懸念したものが、まさに形となったわけだ。
「かったるいなあ。撃った後、いちいち隠れなあかんわ」
言いながら、牛鬼は角から通路に身を乗り出して亡者を狙撃し続けた。
案の定、この【業】にもデメリットがあったわけだが、わかってしまえば使い勝手のいい能力ともとれる。
アキハの【業】である穴も、最初のうちは自らも落下していたが、コントロールできることを学んでからは最強の初見殺しとなったのだ。
ただし、だからといってこの地獄でそれが有利なのかというと、そうでもない。
自分が死なないということは、それだけ刑期が伸びるということなのだから。
ふと、アキハは靴底で砂を踏んだような感触を覚え、視線を下げて床を見た。
足元には焚き火の後に残るような灰に似た砂が、床から数センチの層を作っていた。
アキハの足元から離れていくにつれ砂は山を作り、セメント袋を二袋ほどぶちまけたくらいの量がエレベーターホール中央に積もっている。
――さっき、こんなものあったっけ?
アキハが記憶を巡らせると、さっきまでそこにあったはずのものが思い出された。
それは、エレベーターから出て最初に牛鬼が仕留めた亡者の死体だ。
突き上げられてできたヒビも、真上の天井に残っている。
そこにあったはずの死体が、砂に変わり果ててしまったと考えるのが妥当だった。
「ねえ、これって……」
03-14 へつづく
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