03-12
天国・地獄・大地獄 第三話「女王のマンション」
ただいま毎日〈月〜金のみ〉鋭意連載中!!
牛鬼は悠然と通路の中央へと歩みを進め、階段から距離を取る。
狭い通路だ、挟み撃ちで不覚を取られない限り牛鬼のパワーを妨げる者はいないだろう。
反対側の階段からも男たちがわらわらと通路になだれ込んでくる。そこに狙いを定め、牛鬼は再び走り出した。結果は先ほどと同じだった。
しかし、亡者をなぎ倒して通路端に辿り着いたとき、異変が起こった。
アキハの耳にパンパンと乾いた破裂音が聞こえてきたかと思うと、何かが空気を切り裂いてすぐそばを通り抜けたのだ。
「あたっ」
そのひとつは、牛鬼の尻に命中したらしい。
振り返ったアキハが目にしたのは、中央のエレベーターホールあたりに立って拳銃を構えている男の姿だった。
「あっ、鉄砲!銃!銃!」
アキハは上手く文章が組み立てられず、ひたすら単語を繰り返した。
牛鬼も体を返し男を見やる。その間にも男は発砲を続けていた。
が、銃身の造りがずさんなのか単に男の銃の腕が下手くそなのか、弾は牛鬼にかすりもしない。
最初に尻にヒットしたのはまぐれ中のまぐれだったようだ。
「銃か。おもろいな」
そう言うと牛鬼は男に向かって走り出した。
自分に脅威が向かってくるのを見た男は、慌ててもう一丁のオートマチックピストルを取り出し連射する。
一発か二発、牛鬼の体に触れた弾があったが、かすり傷を負わせるに留まった。
男の一メートルほど手前で牛鬼は前脚を上げて飛びかかったが、今回は蹄で押しつぶすわけではなかった。
いつの間にか前脚の蹄は人間の手に戻っており、牛鬼はその手で男の両腕を掴んで床に押し倒したのだ。
「突進ばっかしとんのも疲れるからな」
そう言うなり、牛鬼は口を大きく開けた。中から牛独特の大きく長い舌が覗く。
口の端はさらに切れ上がっていき首元を抜けて肩のあたりまで引き裂かれていく。
背後から見ていたアキハには様子がわかりづらかったが、牛鬼の顔の上半分が異様に上へ反っていき、目が合った時にはぎょっとした。
一番恐怖を感じていたのは、目の前で牛の顔が上下に裂けていくのを目撃した亡者の男だろう。
情けない悲鳴を上げる男を、両腕ごと上半身を掴んだまま持ち上げ、牛鬼は口の中へと運んでいく。
男は頭から牛鬼の腹の中へ放り込まれていき、牛鬼が口を閉じると見事につま先まで口の中へと消えていった。
背中という死角にいて、幸いにも嚥下の瞬間を直視しなかったアキハだが、目の前から男が消えたことと、「げぇっぷ」という牛鬼のおくびを聞いて、男が牛鬼に食われたことを理解した。
「そいつ、食ったの?」
恐る恐る質問するアキハに、どこ吹く風といった様子の牛鬼。
「今コピーすんで。ちょい体縮むぞ」
そう言った牛鬼の体は、その通りに縮み始めた。
二足歩行をしていた時よりもやや小柄になり、ボロ布もその姿を変え、食われた男の着ていた衣服となって全身を包んでいく。
牛鬼が上半身を起こしたため、自然とアキハは後ろへずり落ちて、床に足をつけた。
ずっと牛鬼の背中で揺られていたため、地面が揺れているような錯覚を覚える。
牛鬼はすっかりと変身を終え、アキハの目の前には上下カーキ色のスウェット姿の男が立っていた。
髪は短く刈り込まれていて、ややずんぐりした体型。
先ほどまで下手な鉄砲を撃ちまくっていた男そのものだ。
「……ウッシー?」
あまりの変貌ぶりに不安になったアキハだが、それを払拭するように男は笑顔を見せる。
「コピー完了や。こいつの【業】は」
牛鬼は背中側に手を回し、ボクサーパンツのゴムに挟んで固定されていた拳銃を取り出した。
「いつでもケツから拳銃を取り出せる能力やな」
「ケツって言うな、ケツって」
言葉通りに、尻の割れ目から拳銃が出てくる様を想像しそうになって、アキハは眉をひそめた。
牛鬼はにやりと笑うと、振り向いて通路の先にたむろする亡者たちを見る。
牛鬼が男を食った一連のやりとりを見て、動揺して立ちすくんでいるようだった。
牛鬼は拳銃を握った右手を肩の高さに上げ、亡者たちに狙いを定めて発砲した。
発砲音に驚いて亡者たちが身をすくめたが、どうやら弾は大外れしたようだ。
「なるほど、こりゃ当たらんわ」
粗悪な造りの拳銃だったらしく、狙い通りに弾が発射されないらしい。
牛鬼は左手も添えて、拳銃を両手持ちした。
パンパンパンと三発撃つ。その最後の一発が、一番手前にいた亡者の額を撃ち抜いた。
「おし」
03-13 へつづく
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