03-11
天国・地獄・大地獄 第三話「女王のマンション」
ただいま毎日〈月〜金のみ〉鋭意連載中!!
「コピーした【業】って、何個まで持てるの?」
「残念ながらひとつだけや。食った亡者を吐き出して、次の亡者を食うかワイが死ぬと、前の【業】は失われる」
再度、牛鬼の口から語られた『食う』というワードを受けて、アキハは想像を巡らせる。
どうやら亡者の【業】をコピーするには亡者を食わなければならないらしい。
そして今、『吐き出して』とも言った。
一度食べた亡者を吐き出すなんて場面は見たくもないが、牛鬼がロープの【業】をコピーしていた時、人の姿をしていたことをアキハは思い出した。
コピーされた外見も吐き出すことによって解除されるのだろうか。
吐き出された亡者は?果たして生きているのか。いやここは地獄だから生きているという表現は誤解を生むが……。
――まあ、そのうち見ることにもなるか。
混乱し始めた頭をアキハがリセットさせたところで、ちょうどエレベーターが五階に着いた。扉がガタつきながら開く。
「よっしゃ、蹂躙したろ」
普段使いできない言葉をさらりと吐いて、牛鬼がハコの外に足を踏み出したその時、エレベーター出入り口の左右の死角から、二人の男が同時に刃物を振り下ろした。待ち伏せだ。
察知した牛鬼はトンッと前脚で地面を軽く蹴り、体を半歩後ろに下げる。
直前まで牛鬼の額があったあたりを二振りの刃が通り過ぎ、床のコンクリートに当たって甲高い音を立てた。
舌打ちをして体勢を立て直そうとする二人の隙を見逃さず、牛鬼はハコから飛び出して左側の男の土手っ腹に頭を潜り込ませ、勢いよく天井に向かってかち上げる。
左の男が天井に激突して落下する間に、今度は右の男の胸に角を突き立て、そのまま走り出す。
その先は外通路になっているようで、胸の高さまである手すり壁が迫る。
その壁に激突するやや手前で牛鬼はくいっと頭を上げ、急停止した。
男は慣性の法則でふわりと浮き上がり、そのまま外通路の手すり壁を超えて虚空へと投げ出され、悲鳴を上げて落下していった。
アキハはというと、急発進と急制動で体が浮き上がらないようにしがみつくのに必死だ。
「なんだあ、この牛はぁ!?」
外通路の左右には、数名の男たちがいた。
それぞれが何かしらの刃物を手に持ち、それぞれが漏れなくチンピラ顔だった。
まるでこのマンションはヤクザの巣窟か何かだ。
騒ぎを聞きつけたのか、部屋の玄関扉を開け、さらに数名の男が姿を現す。
それを見た牛鬼は、まるで興奮した闘牛のように鼻息を荒げ、右前脚の蹄で床を数回引っ掻いた。
牛鬼の体が通路の右側を向き、哀れな男たちに突進の狙いを定めようとした次の瞬間、反対側にいた男の一人が奇声を発しながら襲いかかってきた。
どうやら狙いは背中のアキハのようだ。
しかし牛鬼は慌てず両前脚を床に押し付けて踏ん張り、両後ろ脚を振り上げて迫ってきた男の顔面に蹄をクリーンヒットさせた。
アキハの視界の隅で、男の頭部がザクロのように弾けて天井に赤い染みを作った。
それを合図にしたように、通路右側にいた四、五人の男たちが牛鬼に向かって駆け出す。
同時に牛鬼も走り出し、向かいくる男たちを跳ね飛ばしながら突進していく。
最後の一人は突き当りの手すり壁に叩きつけられ、残りは十五メートル下へと落下していった。
マンションの両端はそれぞれ外階段になっている。
牛鬼は階段前のスペースを利用して体を転回させ、今度は反対側の男たちに向かって突進する。
犠牲となる男たちの中には、果敢にも牛鬼の体に日本刀を突き立てようとした者もいたが、牛鬼のぶ厚い皮膚に弾かれて折れるのが関の山だった。
「下で侵入者が暴れてるぞ!」
「上で騒いでやがんのは誰だ!」
上下の階から男たちの怒号が聞こえる。
マンション内のネットワークは正確に機能しているようだ。監視カメラでもあるのだろうか。
五階に留まっていても全フロアの住人が集まってきそうな雰囲気だ。
「五階で迎え撃つ感じでええか」
いいかどうかの判断などアキハにできようもない。ただひたすらアキハは頷くだけだ。
やがて階段を駆け下りる音、駆け上る音が聞こえ、上下階の亡者たちが押し寄せる。
しかしどの男たちも牛鬼の姿を見るやその場で足がすくみ、後ろから来る者に追突されて姿勢を崩している。
そりゃマンションの中で牛を発見したら、誰だって思考停止するだろう。
03-12 へつづく
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