03-08
天国・地獄・大地獄 第三話「女王のマンション」
ただいま毎日〈月〜金のみ〉鋭意連載中!!
その根城というのは、アキハの祖母の店から歩いて十五分程度のところにあった。
その前にまず、アキハが無意識に築いていた空間のことを説明しておかなくてはならない。
アキハが地獄に落ちてから葬った亡者の数、一万七千以上――重複して葬った亡者もいるので、厳密な人数はもっと少ない――の記憶を糧にして構築されたこの空間は、アキハが住んでいた街ひとつ分を再現するに足りていた。
亡者の最小記憶単位は、ひとつの部屋または密閉空間として地獄に持ち込まれるが、アキハに取り込まれて再解釈された記憶は、アキハの住んでいた街の建造物をそっくり模倣したのだ。
記憶の継ぎ目は『扉』であり、アキハは自分ルールでこれを『ポータル』と呼ぶことにしていた。
ゲーム等でよく見る、場所移動のための装置をイメージしてのことだ。
なお、建物の外観は現実に即して再現されていたが、内部構造はアキハの記憶に委ねられていた。
すなわち、アキハが現実で入ったことのある建造物であれば内部もその通りだが、そうでないものは扉があっても開かない、もしくは他亡者の記憶と接続することとなる。
後にアキハ自身が調査して判明するが、アキハの自宅から祖母の店、さらにはアキハが通う高校までと、アキハが生前に行き来していた生活範囲がそこには再現されていたのだった。
ちなみに地獄に落ちた当初から、アキハの自宅玄関と祖母の店とが繋がってしまっていたため、記憶空間の自宅――公営住宅の一階部分に位置する――の玄関ドアはポータルとして機能してはいなかった。が、このズレは後々解消することになる。
根城の話に戻ると、それはアキハの記憶空間の端に位置していた。
自宅からだいぶ離れた、生前にあまり立ち入らなかった方面。
アキハが記憶を辿っても曖昧で、実際に記憶空間を歩くと道がループしたり袋小路になっていたりと、それ以上先には進めないようになっている。
そんな記憶端に、明らかに周りの住居から浮いた外観のマンションが鎮座している。
十階建てのそれは半世紀近くの築年数を思わせるレトロさを醸し、その地の主であるかのような威容をもって下々の住居を見下ろしていた。
「このマンション?」
「せや。彼女も千超えの亡者を屠っとるでな、だいぶ記憶の構築が進んどる。マンションちゅう記憶が具体化し過ぎて、アキハ側の記憶世界に侵食しとるんや」
外観だけを見れば、単に住んでいたマンションを作り上げただけともとれるが、牛鬼が鬼候補として挙げる亡者のことだ、ただのマンションでないことはアキハにも察せられた。
「正面からお邪魔して平気なの?」
「お勧めはせんな。彼女に接続させられた亡者は、マンションの中で彼女を守るよう強いられとる。望んで守っとるヤツもおるっぽいが」
「ふうん、女王様と親衛隊か」
「話の通じん女王様やで。マンションに入った亡者は問答無用で攻撃され、殺されればそれでマンションの一部や」
まるでB級ホラーのような響きに、アキハは鼻を鳴らした。
「呪いのマンションてとこね?」
「ま、ここはワイが一肌脱いで手伝ったる。ホンマは亡者同士のいざこざには介入せんのがモットーやねんけどな」
言うなり、牛鬼は肩を怒らせてマンションの正面玄関に向かって歩き出した。その背中を追いかけてアキハも続く。
「ウッシーは女王様と会ったの?」
「いやまだや」
牛鬼は振り返らず答えた。
「にしちゃ、色々と詳しいじゃん」
「何回かマンションの中を散歩したことはあるけど、まだ会えとらんな。詳しいのは、ここの亡者を二人ほど食ったからや」
「食った?!」
アキハは牛鬼が亡者の【業】をコピーする際、文字通り食べることをまだ知らない。
「ロープの【業】もここで拝借したんや。そいつの記憶の中に、女王様の情報も少しあった」
「いや、ねえ、食ったってどゆこと?」
「どゆことって、食わなきゃコピーできへんやろ」
できへんやろと言われても、アキハの頭ではコピーと貪食行為が結びつかない。
そういうピンク色のやつがいたかも知れないが、アキハはネタ動画での浅い知識しか持ち合わせていない。
そうこうしているうちに、ふたりはちょうどマンションエントランス前に辿り着いた。
「さて、アキハが女王様なら、マンションのどこに立て籠もる?」
03-09 へつづく
Xで情報発信中!
https://x.com/Koh_Serra




