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天国・地獄・大地獄  作者: 瀬良浩介
第三話「女王のマンション」

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03-03

天国・地獄・大地獄 第三話「女王のマンション」


ただいま毎日〈月〜金のみ〉鋭意連載中!!

「そんだけアキハの【(カルマ)】が強力ちゅうことや」


 一瞬、アキハは自分が()められたのか(たしな)められたのか判断に困ったが、地獄では罪の象徴も誇れるものとなるようだ。


「有無を言わさず相手を奈落に突き落とす能力。対策を知っとらんと回避はほぼ不可能や。初見殺しって知っとるか?」

「知っとるわ」


 どうしても関西弁につられる。


「この地獄じゃ、基本的に死んだら記憶はゼロに逆戻りや。せやから初見殺しの【(カルマ)】は絶対的に強い。間違いなくアキハは最強クラスやわ」


 記憶がゼロに、というくだりにアキハの指がピクリと反応した。以前、似たような話を今苗リュウタから聞かされたことをアキハは思い出す。

 牛鬼が言うのだから間違いないだろうが、亡者は死ぬと記憶がゼロにリセットされるらしい。


 だがアキハの場合、リセットどころか、前世の記憶を保持したまま地獄に来ていたし、何度も【(カルマ)】で死んだが、記憶がリセットされたことは一度もない。


 それについて、牛鬼に尋ねた方がいいのかアキハは悩んだ。

 ただ、牛鬼はアキハをしきりに褒めそやして鬼に向いていると説得してくるし、どうも鬼は死んでも記憶を保持できているようだから、そういう部分も含めてアキハに鬼の特性があるのかも知れなかった。


 ――まあ、そのうち聞いてみるか。


 大したことではないだろうと結論づけ、アキハの意識は牛鬼との会話に戻る。それ以降、アキハはしばらくその仕様を忘れてしまっていた。


「もしかして、それがアッシを鬼に勧誘する理由?」


 牛鬼はニンマリとした。図星のようだ。


「管轄内の亡者は好きにさせるのがワイのモットーや。けど、突出した【(カルマ)】を持つモンが現れれば興味をそそられる。そうやって様子を見にきたら、まんまと初見殺しに合うてもうた」

「なんか、ごめん」

「ええねんて。地獄じゃ亡者同士殺し合うんがむしろ正常や。鬼はそれを正しく導くんが仕事やから」


 正しく殺し合いなさい。およそ現世では聞かない訓示である。

 アキハとしては、ただ一人になりたかっただけのように思う。地獄に落ちたことに絶望し、自分から全ての情報をシャットアウトした。地獄における引きこもりである。


「それと、鬼の仕事ちゅうか、できることがもいっこあんねんけど。そっちの方がアキハ向きやと思ってな」

「アッシ向き?」


 亡者を殺しまくることに適性があると言われても釈然としないところがあるが、それ以外にもアキハが鬼向きだという理由があるらしい。

 アキハも興味をそそられる。


「表、出よか」


 牛鬼が右手の親指を立て、くいっと店のドアの方へ向けた。

 そのドアの向こう。アキハがここに来て何日何ヶ月が過ぎたか計り知れないが、まだあのドアの先には行ったことがない。

 アキハは口の中に溜まった唾を飲み込んだ。


「アッシ、そっち初めて」

「ホンマか?落ちてからこっち、ずっと行っとらんのか?」

「うん」

「引きこもったなあ」


 牛鬼は、(あき)れと感心の中間のような溜め息をついて、ドアの前へと進む。


「ほんなら、腰抜かすで」


 ドアは外に向かって押して開けるタイプだ。

 牛鬼は指を大きく開いた手をドアの中央にあて、ゆっくりと押し開いていく。

 ドア向こうからは光が差し込んでくる。それはまるで『外』に満ち(あふ)れる自然光のようだった。


 立ちすくむアキハに向かって、ドアを支えながら牛鬼が目配せをする。アキハは意を決してドアの向こうへと歩き出した。


「んッ……」


 ドア付近はまだ屋内のようだったが、数メートル先は光に満ちており、そのあまりの(まぶ)しさにアキハは両目を(つむ)ってしまう。


 ずっと引きこもっていたせいで、光に対して目の適応が遅れているようだ。ゆっくりと目を開いていき、少しずつ明るさに慣らしていく。

 そして、ぼんやりと見えてきたドア向こうの景色を認識し始めると、眩しさでおかしくなってしまったのではと自分の目を疑うような光景がそこには広がっていた。


「これ……なに?」

03-04 へつづく


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