02-19
天国・地獄・大地獄 第二話「高遠アキハ」
ただいま毎日〈月〜金のみ〉鋭意連載中!!
「なんや、泣いとったんか?
ワイに助けられて滂沱の如しか」
「うそ、あんた、さっきの人?」
アキハは涙を拭って居住まいを正した。
まさかこんなに早く戻ってくるとは想定外のことだ。これまでも、葬った亡者と再会することはあったが、相当なスパンが空いてのことだった。
だが、空々しい関西弁と話の内容からするに本人らしい。少し声色が違って違和感ははあったが。
「せや、ワイや。戻んのが早すぎるて?
仰る通りやが、他の亡者と違ってワイは好きなとこで復活できるようになってん。亡者は『始まりの部屋』って決まってんけどな」
仰るも何もアキハは言っていないが、男はペラペラとまくしたてる。
アキハは、あまりの準備期間の短さに内心慌てていた。
彼女は人と話す時、まず言うべきことを整理するタイプだった。子供の頃から、直感的に話し出すと内容が脱線したり相手を不快にさせてしまうことがよくあったためだ。
戻ってきたら話をしようと思いはしたものの、あまりに急展開で心の準備が間に合っていない。
「あの、さっきは、ごめん」
さしあたり、アキハは謝罪した。それが適当だと感じたからだが、その後に何を続けたらいいか判らない。
「ほお、殊勝な感じ、ええね」
男の声には、意外だという感想を隠すつもりが微塵も感じられない。
「まあ、ワイもアプローチを間違えた感はあってんな。すまんかった」
そうかな、とアキハは思う。男は充分に慇懃な態度でアキハに接しようとしていた。
それを一方的に撥ねつけたのはアキハだ。
次の言葉が思いつかないアキハだったが、男がドアを数センチしか開けないことが気になり出した。
「ねえ、なんでドア開けないの」
「ああ、それなんやけど」
ドアの隙間から咳払いがひとつ聞こえる。
「細かい説明は省くんやけど、一回死んだことで、外見がちょっと、な」
外見がどうしたというのだろうか。奈落の底に墜落して顔がへしゃげた?
アキハは首を捻る。これまで複数回出会った亡者は、特に外見の変化はなかったはずだ。
「驚かんでくれるか?」
「そこまで言われちゃうとビビるけど、頑張る」
「助かるわ」
ゆっくりとドアが開きはじめる。念押しをされたアキハは固唾を呑んで見守った。
しかしドアの向こうから現れた男は、想像の遥か彼方をいく外見をしていた。
まず現れたのはつるりとした禿頭、大きな漆黒の瞳、やや尖った耳、頬骨まで切れ上がった口。
その頭が開いたドアよりさらに高く立ち上がった。
二メートル超えのデカブツが、だいぶ屈んでいたらしいことがわかる。
ドアノブを握る手と逆の手が、ドア枠の横を掴む。その指には鋭い爪が並んでいた。
外見がどうとかいうレベルではなかった。これは、異形の怪物だ。
アキハは恐怖にかられ、反射的に右手で床を叩く。しかし、床に穴は開かない。
「発動せんよな。ワイが立っとるの、まだこっちの部屋やしな」
確かに怪物はドア枠に手をかけただけで、跨いではいなかった。
「意地悪い仕組みやろ。【業】って自分がいる部屋の中でしか発動せんねん」
「【業】……って、なに」
アキハは怪物の外見の恐ろしさに打ち勝とうと必死だった。
怪物はそんなアキハを見て恐怖を和らげようとしたのか、口角を上げてにいっと笑った。
かなり逆効果ではあったが。
「知りたいか。ほな、今度こそ落とさんでくれるな」
アキハは無言で頷いた。好奇心が、恐怖心を追い出そうと懸命に戦っていた。
何故外見が変わったのか。部屋の外にいれば安全だったなら、さっきは何故わざわざ入ってきたのか。
「よし」
怪物はドアを開けきり、ゆっくりとドア枠を跨いだ。
アキハが【業】を発動させないことを確認し、怪物は玄関土間にあぐらをかいて座る。
ただでさえ手狭な土間が、さらに狭小に見える。
02-20 へつづく
次回、第二話最終回となります!
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