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天国・地獄・大地獄 第二話「高遠アキハ」
ただいま毎日〈月〜金のみ〉鋭意連載中!!
「【業】はな、生前に犯した罪が形になったもんや」
怪物は、その筋骨隆々な肩が壁や靴箱に当たらぬよう、上半身をすくめて肘を膝の上に乗せる。
「嬢ちゃんなら『穴』や。もう思い出しとると思うが、ここに落ちてくる前、つまり生前、なんか『穴』に関することで後ろめたいことないか?」
アキハには大いに心当たりがある。
おばあちゃんを埋めた『穴』。そして橋から飛び降りた谷底も、ぽっかりと空いた『穴』のようだった。
アキハは、告解を迫られているのかと勘違いし、チラリと怪物に目をやった。
「ああ、別に無理して言えっちゅうんやない」
怪物は大仰に両手を顔の前で左右に振った。
「ワイかて、こんなナリやけど元は亡者や。ただ落ちてきたんがあまりにも昔で、もう生きとった頃なんて覚えてへんのよ。聞いといて答えれんの不公平やろ」
つくづく、社交性の高い怪物であった。アキハとは正反対の、気の利くタイプ。
「ちなみにワイの【業】は、亡者の【業】をひとつだけ模倣できる」
「模倣って、コピーだっけ」
「せや。ちなみにさっきのロープの【業】の男な。生前に片思いした女の部屋に忍び込んだあげく、無理やり首吊り心中したらしい。そういうんが【業】として現れるんよ」
「あ」
おぞましいストーカー殺人の話だったが、アキハには閃いたものがあった。
「なんや」
「だから、ロープ二本までなの?」
怪物は怪訝な表情をする。
「ああ、男と女の二本か。確かにそうかも。って、あれ?ワイさっき、二本しか出せないって説明したっけ?」
「いや、アッシを助けてくれた状況から、そうかなって」
怪物はただでさえ大きな瞳をさらに大きくしてアキハを見つめた。たじろくアキハ。
「なに」
「いや、なかなかの洞察力やと思て。すごいわ」
怪物は右手の親指と人差し指で顎をさすりながら、しげしげとアキハを見つめる。
「嬢ちゃん、名前は?」
「高遠アキハ」
「アキハか」
怪物はひとつ頷き、両手で膝を叩いて音を鳴らした。勢い余って肘が靴箱にあたる。
「よし、決めたで!
あ、ワイは牛鬼。牛の鬼や。よろしゅう」
「ぎゅうき」
アキハは復唱しながら納得した。
怪物ではなく鬼だった。地獄に鬼か、なるほど。
「アキハに提案があるんやけど」
鬼の提案とは何か、アキハには見当もつかない。鬼といったら、亡者を痛めつけ虐めぬく存在ではないのか。
そんな地獄の獄卒が亡者アキハにする提案、それは。
「ワイの代わりに、鬼にならんか?」
「アッシが、鬼……?」
第02話「高遠アキハ」・了
第三話「山吹サチ」へつづく……
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