02-16
天国・地獄・大地獄 第二話「高遠アキハ」
ただいま毎日〈月〜金のみ〉鋭意連載中!!
自分が何のためにここへ来たのか、理由を思い出すこともない。ただひたすら出会う人間を穴へ堕とす。それを義務のように感じるようになっていた。
――どいつもこいつも罪人なんだろ。なら、アッシがお前らに相応しい罰を与えてやるよ。
いつからかアキハの繰り返し作業は、目に映った者全てを闇に堕とす作業ゲーへと成り代わったのだった。
どのくらいの時間が過ぎたか、アキハには判らなかった。
ここでは腹も空かなければ眠くもならない。そうなると時間という概念は頭から消えた。
延々と続く作業の合間、自宅のドアを誰かが開けるのを待つ合間、ひたすらアキハは膝を抱えて座っていた。
無心。何かを考えても、ここが地獄だという結論に行き着くだけなので、無駄であるということを遥か以前に悟っている。
そんなある時、一人の男がドアを開けたときに、転機が訪れた。
「ちょっと、タンマ!穴、開けんでくれる?」
その男は、玄関ドアを半開きにした状態で、顔だけをこちらに覗かせながらアキハに話しかけてきた。
「ワイは知っとる。あんたが床に穴を開けられんの。ちょい前に落とされたからな」
アキハに話しかけてくる亡者は数あれど、アキハに落とされたことを覚えていた者は初めてだった。
「なあ、話がしたい。悪いようにはせえへんから。入ってええか?」
アキハは男を視界に入れながらも黙っていた。
男は沈黙が了承のサインと受け取ったのか、ゆっくりとドアを開く。
「入るで」
二十代半ばくらいの男は中肉中背で、イケメンでもブサイクでもない、差し障りのない容姿をしていた。
見ようによっては、人を助ける聖職者にも見えたが、逆に詐欺師かと言われたらそうも見えた。
男はアキハを刺激しないよう、ゆっくりとドアを引いて全開にし、一歩、二歩と慎重に玄関の中へと入る。
男の背後でドアが自然と閉まっていく中、男はできる限りの笑顔をアキハに向けた。
「お邪魔しまぁす」
男が言い終えたとほぼ同時にドアが閉じ、さらにほぼ同時にアキハが膝を組んでいた手を解いて床を叩き、「堕ちろ」と言った。
その瞬間、男が立っていた九十センチ四方の土間部分が闇への開口部となり、男はかすかな残像を残して落下していった。
「待てやあ!」
穴の中から男の声が響いたかと思うと、突如、穴の真上の天井を突き破ってロープのような紐状のものが出現し、穴の中へと勢いよく伸びていった。
そのうちロープはぴんと張って動かなくなり、今度はゆっくりと天井の中へ引き込まれていく。
するすると天井の中に滑り込んでいくロープの先には、男がしがみついていた。男の全身が穴から出きったところで、ロープの巻き取りは止まる。
「問答無用なやっちゃな」
ロープの先端は輪になっており、男はそこに片足をかけていた。
「言うたろ、前に落とされてるて。だから対策してきたんや」
男は言いながら、振り子の要領で体を揺らしている。
「な、話しよ。ほんまに危害は加えへんから、な」
男がロープにかけた足と逆の足を上がりかまちに乗せる。
その勢いのまま「よっ」と男がロープを離して床に降り立つと、ロープはすぐさま天井の中へと引っ込んでいった。
その瞬間を狙ってアキハは再び床を叩いた。
玄関の穴は瞬時に男の立つあたりまで広がり、男は再び穴の中へと姿を消した。
しかし、今度も即座に天井から新しいロープが飛び出してきて穴の中へと降りていく。
「ふざけんなや!」
穴の中から叫び声が聞こえ、再度、するするとロープによって男が引き上げられる。
男は笑顔を作ることをやめ、アキハを睨みつけていた。
「話の通じん嬢ちゃんやな!どうあっても落とす気か!」
アキハは何の感情も生まれていないかのように、無表情で答えた。
「だって、土足で上がったから」
男は自分の足元を見て、再びアキハを見た。
「確かに。そら悪いことしたわ」
今度は作り笑顔ではなく、男は心から笑った。
「面白いやっちゃ。てっきりもう心が死んどるんかと思とったが、ちゃんと生きとんな」
02-17 へつづく
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