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天国・地獄・大地獄  作者: 瀬良浩介
第二話「高遠アキハ」

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02-10

天国・地獄・大地獄 第二話「高遠アキハ」


ただいま毎日〈月〜金のみ〉鋭意連載中!!

 アキハは足早に玄関へと移動し、脱ぎ散らかされていたサンダルを足につっかける。


 ドアノブの上の回転式ロックを捻ろうとするが、これも接着剤で固定されたかのように動かない。が、鍵の位置は開錠になっていた。

 恐る恐るドアノブに手をかけて捻ると、こちらは嘘のように抵抗なく回り、ドアがうっすらと向こう側へずれ動く。

 アキハはパジャマ姿であることを忘れ、勢いよくドアを外に向かって開いた。


 ドアの外の景色は、想像を絶するものだった。

 まず耳に轟音が飛び込んできた。飛行機が間近で飛んでいるような、空気を引き裂く音と振動。

 そしてドアの外に広がる、永遠に続くかとも思えるような深遠な空間。


 光は乏しく、構造物は何もない。地面も見えない。上も下もない。まるでそれは、星の存在しない宇宙空間のようだった。

 足元から吹き上がる突風と振動がなければ、アキハは自分が落下していることには気づけなかっただろう。

 『オズの魔法使い』さながら、アキハは家ごと得体の知れない空間へと落下していた。


 アキハは慌ててドアを閉めた。

 何が何だか判らない。理解の及ばない光景に恐怖を覚え、アキハは寝室へと駆け戻り、布団の中に潜り込んだ。

 夢から目が覚めたと思っていたのに、まだ夢の中にいる。アキハはぎゅっと目を(つむ)り、夢からの覚醒を願った。


 ほどなくして、衝撃音とともに部屋全体が揺れた。

 地面に着地した衝撃にしては弱いものだったが、アキハの恐怖心をあおるのには充分だった。


 アキハは布団にくるまりながら、悪夢だと思っていた記憶の内容を整理し始めた。

 祖母の死。母親の裏切り。谷に架かる橋。心の底から忘れたいと願ってやまない記憶。

 あれらは現実にあったことではなかったのか。だとしたら、今自分がいるここは一体どこなのだろう。


 あの時、確かに谷底に向かって飛び降りた。

 あの高さで助かるわけはない。むしろ助からないことを望んでアキハは飛んだのだ。

 ということは、ここは死後の世界なのか。


 アキハが想像する死後の世界のイメージは、子供の頃に描いていたものから大した進展がない。

 まずは全ての死者が一同に集められ、自分が天国行きか地獄行きなのかを、閻魔大王的なものから伝えられるといったものだ。

 それが、いきなり自宅の布団でパジャマ姿で目覚めるなんていう呑気な状況から始まるなんて、拍子抜けもいいところだった。


 それとも、これから閻魔のいるところに連れて行かれるのか。はたまた、すでに天国に来てしまっているのか。

 アキハは思考を巡らせた。

 先程の衝撃がどこかにたどり着いた際のものだとしたら、あの玄関を開けたらもうそこは天国の入口なのかも知れない。


 アキハは意を決して布団から出て立ち上がった。

 もしここが天国だとしたら、またおばあちゃんに会える。その思いだけが、アキハの心の中を明るく照らした。


 再び玄関に向かおうとして、自分がパジャマ姿であることを思い出す。


 ――さすがに着替えるか。


 アキハは自分の衣装ケースを開けた。

 その時、まっさきに目に飛び込んできたのが、フリル付きの黒いワンピースだった。


 祖母を埋めに山に向かう直前、母親に否定されてケースに押し戻したワンピース。その時のままに、ケースの手前側に丸めて収まっていた。


 山での記憶を頭から振り払って、アキハはワンピースを手に取った。

 何年ぶりかに袖を通すのは若干の気恥ずかしさもあったが、これから祖母と会うのにはちょうどいい衣装のように思えた。


 アキハはパジャマの上を脱いで肌着姿になる。

 その時、自分の左腕の異変に気づいた。

 前腕の内側、日の当たりにくいこの部位は、ただでさえ色白のアキハは雪のように白く血管が透けて見えていたが、そこに(あか)い数字が書いてある。


 500


 アキハから見ると、字の向きからして肘側から手首側に向けて読むとそうなる。

 指でこすっても消えない。インクで書かれたというより、肌に染み込んだこの風合いは、もしかすると入れ墨というやつではないかと想像された。

02-11 へつづく

※次回更新は月曜日です


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https://x.com/Koh_Serra

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