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天国・地獄・大地獄  作者: 瀬良浩介
第二話「高遠アキハ」

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02-04

天国・地獄・大地獄 第二話「高遠アキハ」


ただいま毎日〈月〜金のみ〉鋭意連載中!!

 祖母に家事の一切から手を引かせ、母親とアキハで全てを担った。


 なるべくどちらかが祖母の面倒を見られるよう、日中は祖母の行動に必ず付き添う。

 スナックでは母親がママを引き継ぎ、祖母には座ってひたすら客との会話に専念させる。


 この頃はまだ、祖母と二人で繁華街まで出かけ、一緒に牛丼チェーン店で食事をするくらいはできていた。


 しかし、日に日に症状は悪化していく。


 アキハが中学に上がる頃には、祖母はほとんど会話ができなくなっていた。

 相槌(あいづち)を打ったり、短い文章は話せても、こちらの言ったことを理解することは難しくなっていた。


 奇行も目立つようになった。

 ふと目を離したあるとき、祖母がトイレの壁という壁を糞便(ふんべん)まみれにしていた。水栓タンクの上には、団子のように丸めた便が丁寧に並べてあった。

 それを見た母親はヒステリーを起こし、祖母の頭を何度も引っ叩いた。アキハは、母親が祖母に手を上げるのを初めて見た。


 それでも、母親は祖母を医者に見せなかったし、相談員なども頼ることはなかった。母親はその理由として、アキハに認知症の事実を()じ曲げて伝えていた。


 認知症は一度かかったら治らない(これはほぼ事実だ)。

 医者に見せると、強い薬を出されて意識ドロドロの植物人間のようにされる(いきなりそんなことにはならない)。

 高齢者施設は刑務所のような場所で自由がない(解釈が(かたよ)っている)。

 私たちが頑張れば、祖母は人間らしく生きられる(負担は軽減できたはずだ)。


 アキハは母親のことを信じた。自分が頑張れば、できる限り長くおばあちゃんと一緒に暮らせる。それが、自分をかわいがってくれた祖母への恩返しだと、強く思った。


 だが、母親も変わってきたことにアキハは気づいていなかった。というより、目を伏せていた。

 トイレ事件以降、母親はアキハにも手を上げるようになったのだ。それまで一度もぶたれたことなどなかったアキハはショックを受けたが、自分が至らないためだと我慢した。

 祖母を支えるために激励(げきれい)してくれているのだと、都合よく解釈した。


 母親の変化の裏には、男の影があった。当時母親が交際していた男は、倫理観が破綻(はたん)した人間だった。

 男は母親をそそのかし、洗脳し、母親の倫理観までも麻痺させることに成功していた。


 この頃の祖母の状態を(かんが)みれば、要介護認定を受け、高齢者施設に入居することが得策だったはずだ。

 しかし男は施設の入居費用を母親に出し渋らせ、その分でもっといい暮らしができるはずだと入れ知恵をした。

 その反面、男は母親から金をむしり取っては、自分の借金の返済にあてていたのだった。

 アキハは、そんなことは露も知らずにいた。


 祖母は、ますます目が離せなくなっていた。勝手に家から出て徘徊してしまうからだ。


 中学校では、授業が終わるとすぐにスーパーへ買い物に行き、帰宅。仕事に出かける母親とバトンタッチして、祖母の面倒を見る。

 食事を作り、食卓に並べるが、祖母が箸やスプーンをうまく持てなくなったので、介助して食べさせる。

 突然、下衣を降ろして排泄しようとすれば、急いでトイレに連れていき、風呂も一緒に入って髪や身体を洗う。

 布団に寝かせてもなかなか寝ないことが多く、薄暗い明かりの中で祖母の様子を見ながら宿題をした。


 伝えたいことがうまく伝わらず、もどかしいこともあった。機嫌を損ねた祖母に、小突かれたり、つねられたりすることもあった。

 しかし、祖母は母親よりアキハに心を許す傾向があった。母親は何かと祖母を叩くため、恐怖心が根付いてしまったのだろう。

 母親が在宅していても、祖母の面倒を見るのはアキハ、という風に役割が固定化していく。

02-05 へつづく


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https://x.com/Koh_Serra

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