02-02
天国・地獄・大地獄 第二話「高遠アキハ」
ただいま毎日〈月〜金のみ〉鋭意連載中!!
「ま。今のカウント数、語呂よくて気に入ってるから、一応感謝しとく」
アキハは左腕の包帯をさせすりながら、座ったままスツールを一回転させた。
「へえ、どんな語呂ですか?」
数字を変えたくないというのはアキハにとって方便に過ぎなかったが、これでようやくサチの義侠心に礼が伝えられた。
なんとも遠回りなことである。
「ナイショ。てか、ウッシーまだかよ」
四苦八苦している牛鬼を遠目に眺めるアキハとサチ。
「手伝いますか」
「ないない、手伝えることなんて。んなことより水の【業】の方、先に名前つけよ」
アキハは右手の親指と人差し指を顎に添え、左手で右肘を持って支え、大袈裟に考えるポーズを取った。
そんなことをしなくとも、選択肢は絞られていたのだが。
「っても、『スプラッシュ!』一択かなあ」
「格好いいですね」
アキハはスツールごとサチの方へ向き直る。
「カッコ良すぎて逆にダサくない?」
「そうでしょうか」
アキハは腕を組んで天井を見上げる。
「でもアッシのネーミングセンスだと、それ以上は出てこないんだよなあ」
アキハの中で、名付けの不文律は確たるものがあったのだが、それを他人に説明する気はなかった。
しなくとも、アキハの名付けにサチが異論を差し挟むことは決してない。
「本当に格好いいです。私の【業】に『月光』と名付けてくれたのも、センス良くて」
サチは右の掌を頬に当て、小首をかしげて微笑んだ。
サチの【業】は、手にしたものをなんでも日本刀に変化させられる。発動するときに一瞬、銀色に輝くことから、アキハが名付けたのだ。
アキハ自身も、なかなかセンスが良かったと自負している。
「気に入ってくれてんならさ、発動するときに『月光』!って叫んでよ」
「いや、さすがに恥ずかしいです」
サチはアキハに全て委ねると言ってくれても、そういうところは譲らない。
アキハは口を尖らせた。
「なんでよ。せっかく刀の【業】なんだからさ。
射し照らせ、『月光』!とか。
なんかこう、力を解放する感じ出せばいいじゃん」
「私の【業】は、少なからず苦痛を生みますので」
サチが長いまつ毛を伏せたのを見て、アキハは一気に気勢を削がれた。
――地雷系女が他人の地雷踏んでちゃ世話ないや。
急に押し黙ったアキハを見て、慌ててサチが明るい表情を作る。
「そういうアキハさんは、【業】を発動するとき叫んでますか?」
自分で踏んだ地雷のフォローもできない情けなさを振り払い、アキハはニッと笑った。
「ったりまえ!
堕ちろ、『心の虚穴』!ってね。
堕ちろ、のとこは状況によって変えてる」
「私なら舌噛みます」
くすくすと笑うサチの優しさに、アキハの心は和んだ。
地獄に堕ちておいて、誰かと肩を並べて談笑できようとは、アキハでなくても想像だにできまい。
そればかりか、アキハの今の心の落ち着きようは、はじめて彼女の【業】が発動した頃の精神状態とは比べ物にならないものだ。
その頃の高遠アキハは、少なくとも今よりは鬼に近しいものだった。
※ ※ ※
「――天国、地獄、大地獄。天国、地獄!
あははっ、ケイちゃん地獄行き!」
アキハが小学校低学年の頃、こんな遊びがいっとき流行った。
その人の姓と名を一文字ずつ親指から、指先、指間、指先、指間……と辿っていき、到達した箇所が「天国」か「地獄」か「大地獄」かを占うという、占いというには稚拙すぎる遊びだ。
「――天国、地獄、大地獄。天国!
わあ、アキハちゃん天国。いいなあ!」
高遠アキハは七文字だったので、占いの結果は天国行き。
こんな毒にも薬にもならない遊びでも、子供心にはとても喜ばしく、羨ましがられた。
片や、占い結果が地獄や大地獄であった子供たち――三分の二の確率で悪い結果になるのだが――は、からかいの種になる。
慰めも何もあったものではない。
中には、まるで運命を決定づけられたような気分になり、落ち込んでしまう子供もいただろう。
アキハも、周りの「地獄・大地獄組」を心の中で憐れんだ。
――かわいそうにね。天国に連れていってあげたいけど、きっと天国は狭いから、行ける人は少ないんだよ。
いつか自分は天国に行ける。そんな優越感がアキハの心を安心させ、明るくさせた。
02-03 へつづく
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