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天国・地獄・大地獄  作者: 瀬良浩介
第二話「高遠アキハ」

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21/40

02-01

天国・地獄・大地獄

第二話「高遠アキハ」連載開始です!

初見の方はぜひ第一話からご覧ください!


ただいま毎日〈月〜金のみ〉鋭意連載中!!

「はい、反省会」


 高遠アキハは、牛丼チェーン店によくあるタイプのカウンタースツールに飛び乗った。


 アキハの身長からすると、この手の椅子は腰掛けるときに少し背伸びをする必要がある。

 生前、数えるほどではあるが来店した際に、なんて座りにくい椅子だろうと思った記憶が残っている。


「ちょ、待てや。まだ終わっとらんって」


 ウッシーこと牛鬼(ぎゅうき)は両手を高く掲げ、厨房から移動させた冷蔵庫とトイレドアの隙間に、セメントを流し込んでいる。

 セメントは水練りされた状態で、牛鬼の長く伸びた爪の先からジョウロのように流れ出るが、いかんせん排出量が少ないため時間がかかっている。


 セメントの【(カルマ)】の元の持ち主――今は床に転がされている――は、無意識の発動であったものの、天井から大量のセメントを出現させていた。

 しかしいざ牛鬼が【(カルマ)】をコピーすると、指先からしか出せない。

 罪に身を(ゆだ)ねられているかどうかの差のようだが、まあこれでは劣化コピーである。


「あかん、横から()れる。ここも(ふさ)がな」


 牛鬼はその巨躯(きょく)に似合わず繊細(せんさい)な動きで、きびきびとトイレドアを封印していく。

 アキハはその筋骨隆々(きんこつりゅうりゅう)な肩が動くのを眺めながら、子供が砂場で作ったダムに水を()めている様子を連想して口元がゆるんだ。


「まだ時間がかかりそうですね」


 山吹サチがアキハの隣のスツールに静かに腰掛けた。

 サチは動作音をほとんど立てないため、ときおり急に視界に現れてはアキハを軽く驚かせた。


「ま、頑張ってもらお」


 アキハはカウンターに頬杖(ほおづえ)をつく。


「しかしあの【(カルマ)】は神引(かみひ)きだったなァ。

 今後は厄介(やっかい)な亡者を監禁しとけるじゃん」


「ちょっと人権的にかわいそうですけど」


「ここには憲法も裁判所もないから平気」


 もう片方の手をひらひらさせる。


「セメントの【(カルマ)】、名前考えなきゃな」


 アキハは大きく息を吐き出した。

 頭の中でうまく考えがまとまらない。


「なんか今回、考えること多くて疲れた」


 左肩をさする。


「ぶら下がられたのも、まじエグかったし」


「私が臨機応変に弱くて。すみません」


 サチが殊勝な顔つきになった。


「そんなことない。

 サッチンは私に判断委ねてくれてんだもん。助かってる」


「とんでもないです」


 でもさ、とアキハは心の中でつぶやいた。

 言っても聞かないとは思いつつ、アキハは口を開く。


「でも、あんな状況でわざわざカウント取りに行く?

 落下死確定のやつを刺し殺すって、業界では慈悲深(じひぶか)い感じなの?知らんけど」


 罪をかぶってくれたことに対して素直に感謝できず、相手をおちょくるような口調になってしまう。

 サチのことを傷つけたくはないのに。アキハの胸の中には自責の念が充満した。


「それはあります。アキハさんが作り出す『穴』、どのくらい落ちるか判りませんので、落下の恐怖は和らげられたでしょう」


 対して、どこまでも素直に実直に、言葉を返してくるサチ。アキハはサチから目を逸らし、向かいの壁に貼られた新作メニューのポスターを見つめた。


「でも、そうでなくても、もうアキハさんに人は殺させませんよ」


 顔を見なくても、サチが微笑んでいることはアキハには判った。


 切れ長の目が細まり、形の良い唇の端が嫌味なく上がる。

 その表情と柔らかな声は、人を安心させるのだ。


 アキハはそれを『人誑(ひとたら)しのテクニック』と揶揄(やゆ)したこともあったが、今ではサチがアキハにかける言葉に裏がないことは理解していた。

 アキハは照れ隠しで鼻を鳴らす。


「余計なお世話。アッシが鬼になるの邪魔しないで」


「だめです。鬼にはさせません」


 邪魔をしないでというのはアキハの本心だったが、サチもそれを本気で邪魔しようとしている。

 アキハは小さくため息をついた。この話はいつも平行線になるので、早く切り上げたかった。

02-02 へつづく


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