02-01
天国・地獄・大地獄
第二話「高遠アキハ」連載開始です!
初見の方はぜひ第一話からご覧ください!
ただいま毎日〈月〜金のみ〉鋭意連載中!!
「はい、反省会」
高遠アキハは、牛丼チェーン店によくあるタイプのカウンタースツールに飛び乗った。
アキハの身長からすると、この手の椅子は腰掛けるときに少し背伸びをする必要がある。
生前、数えるほどではあるが来店した際に、なんて座りにくい椅子だろうと思った記憶が残っている。
「ちょ、待てや。まだ終わっとらんって」
ウッシーこと牛鬼は両手を高く掲げ、厨房から移動させた冷蔵庫とトイレドアの隙間に、セメントを流し込んでいる。
セメントは水練りされた状態で、牛鬼の長く伸びた爪の先からジョウロのように流れ出るが、いかんせん排出量が少ないため時間がかかっている。
セメントの【業】の元の持ち主――今は床に転がされている――は、無意識の発動であったものの、天井から大量のセメントを出現させていた。
しかしいざ牛鬼が【業】をコピーすると、指先からしか出せない。
罪に身を委ねられているかどうかの差のようだが、まあこれでは劣化コピーである。
「あかん、横から漏れる。ここも塞がな」
牛鬼はその巨躯に似合わず繊細な動きで、きびきびとトイレドアを封印していく。
アキハはその筋骨隆々な肩が動くのを眺めながら、子供が砂場で作ったダムに水を溜めている様子を連想して口元がゆるんだ。
「まだ時間がかかりそうですね」
山吹サチがアキハの隣のスツールに静かに腰掛けた。
サチは動作音をほとんど立てないため、ときおり急に視界に現れてはアキハを軽く驚かせた。
「ま、頑張ってもらお」
アキハはカウンターに頬杖をつく。
「しかしあの【業】は神引きだったなァ。
今後は厄介な亡者を監禁しとけるじゃん」
「ちょっと人権的にかわいそうですけど」
「ここには憲法も裁判所もないから平気」
もう片方の手をひらひらさせる。
「セメントの【業】、名前考えなきゃな」
アキハは大きく息を吐き出した。
頭の中でうまく考えがまとまらない。
「なんか今回、考えること多くて疲れた」
左肩をさする。
「ぶら下がられたのも、まじエグかったし」
「私が臨機応変に弱くて。すみません」
サチが殊勝な顔つきになった。
「そんなことない。
サッチンは私に判断委ねてくれてんだもん。助かってる」
「とんでもないです」
でもさ、とアキハは心の中でつぶやいた。
言っても聞かないとは思いつつ、アキハは口を開く。
「でも、あんな状況でわざわざカウント取りに行く?
落下死確定のやつを刺し殺すって、業界では慈悲深い感じなの?知らんけど」
罪をかぶってくれたことに対して素直に感謝できず、相手をおちょくるような口調になってしまう。
サチのことを傷つけたくはないのに。アキハの胸の中には自責の念が充満した。
「それはあります。アキハさんが作り出す『穴』、どのくらい落ちるか判りませんので、落下の恐怖は和らげられたでしょう」
対して、どこまでも素直に実直に、言葉を返してくるサチ。アキハはサチから目を逸らし、向かいの壁に貼られた新作メニューのポスターを見つめた。
「でも、そうでなくても、もうアキハさんに人は殺させませんよ」
顔を見なくても、サチが微笑んでいることはアキハには判った。
切れ長の目が細まり、形の良い唇の端が嫌味なく上がる。
その表情と柔らかな声は、人を安心させるのだ。
アキハはそれを『人誑しのテクニック』と揶揄したこともあったが、今ではサチがアキハにかける言葉に裏がないことは理解していた。
アキハは照れ隠しで鼻を鳴らす。
「余計なお世話。アッシが鬼になるの邪魔しないで」
「だめです。鬼にはさせません」
邪魔をしないでというのはアキハの本心だったが、サチもそれを本気で邪魔しようとしている。
アキハは小さくため息をついた。この話はいつも平行線になるので、早く切り上げたかった。
02-02 へつづく
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