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「天国・地獄・大地獄」-序章-
ただいま毎日〈月〜金のみ〉鋭意連載中!!
皮は胸元までめくれ上がり、へそから下の胴体が露わになった。
奇妙なことだが、皮の下にボロ布を着込んでいたらしく、申し訳程度の布が局部や胸周りを隠している。
そして今度は手の皮を片方ずつめくり始め、腕の皮が肩に向かってめくれていく。
肩あたりまでくると、その大きさが収まっていたとのかと驚愕するレベルの肩幅が現れた。
腰から下、腕の先はスリムなのに対して、胸・肩周りが異様に筋骨隆々になっている。
男はうなじに手をかけ、頭皮を剥がしにかかる。
中から現れた頭部はつるりとした禿頭、額には角ような突起が一対。
落ち窪んだ眼下に収まる真っ黒な瞳は牛を想起させる。
最後に、一番恐ろしい光景が待っていた。
口が開いたかと思うと、首から肩にかけて一気に裂けて巨大な口が現れ、肩まわりでだぶついていた全身の皮を手で口内に押し込んだ。
そしてそれを嚥下するやいなや、すぐに口に手を入れ、巨大な塊をずるりと引っ張り出した。
ベッド上に吐き出されたその塊は、人の形をしている。
それはよく見ると、さっきまでここで立って話していた夏服男だった。
小さくむせ込んでいるので、生きているらしい。
つまりは、目の前の怪物がこの夏服男の皮をかぶって、人のマネごとをしていたということなのか。
「これでええか?」
怪物が地雷女にうかがいを立てている。
その身長は皮をかぶっていた時よりはるかに高く、地雷女の倍くらいはある。
怪物を見上げながら、地雷女が親指を立てた。
「うん。いつ見てもキモい」
「そんなこと聞いてへんねん」
目の前で繰り広げられた怪奇ショーに、俺は魂を引っこ抜かれたような感覚になっていた。
わけがわからない。わからないが、ひとつだけわかることがある。
俺は、この怪物を知っている。
失われた記憶の残像が、脳裏で現実の映像と重なる。
喰われる、喰われる、喰われる!
俺は恐怖の感情に支配され、絶叫しながら怪物に背を向けて窓の方へと這いずった。
閉め切られたカーテンを引き裂くように開け、窓の外に飛び出したい一心で鍵を回す。
が、回らない。びくともしない。
はっとして、窓の外の夜景を見つめる。
はたしてそれは、ガラスを透かして見る『外の夜景』ではなかった。
向かいに見えるアパートも街灯も立てかけた自転車も、全てが窓に貼られた精巧な静止画だったのだ。
「壁だよ」
地雷女が静かに言った。
「全ての部屋は壁で囲まれてる。穴も塞がれてる。
ここは、そういう場所。
一度堕ちてきたら、出られないの。ご理解?」
俺は窓――のふりをした壁――に背中を預け、地雷女たちを見た。
さっきこいつなんて言っていた?地獄?
俺は本当は死んでいて、地獄に堕ちた?罪を償う?
それが真実なのだとしたら、地獄で罪を償うには、一体何をすれば……。
その時、急にバスルームから水の音が聞こえてきた。
あれはシャワーの音か?
さらに耳元に冷たいものを感じて天井を見上げると、一面に染みが広がっていて水滴が落ちてくる。
「始まりましたね」
高身長女が、憐れみを含んだ表情で俺を見ている。
20 へつづく
※次回、-序章-最終話です!
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