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「天国・地獄・大地獄」-序章-
ただいま毎日〈月〜金のみ〉鋭意連載中!!
「堪忍な。念の為、動けんようしとけ言うもんやから。
そろそろ固まってんのかな、この【業】。
えらい便利やなあ」
夏服がひょうひょうとした口調で、わけのわからないことを言う。
とにかく、この両足はこいつの仕業ということか。
「おい、お前ら……」
「アッシらに見覚えある?」
俺の言葉を遮って地雷女が言葉を投げかけてくる。
アッシってなんだよ、百姓か?
「いや、ねえけど」
それを聞いた地雷女は鼻を鳴らす。
「はい。万に一つの可能性もないということで。
じゃ、行こか」
地雷女は踵を返して立ち去ろうとする。
「ちょっと、ちょっと待ってアキハさん。
さすがにそれだけじゃ」
高身長女が、慌てて地雷女の行く手を阻んだ。
地雷女は、『めんどうくさいんですわたしはやくかえりたいんです』という心境を、顔筋フル活用の顔芸で表現して高身長を見た。
「アキハさん。そういう顔になってしまいますよ」
「っさいな」
呆れ顔の高身長女に背を向け、アキハと呼ばれた地雷女は俺を見る。
そしてひとつ息を吸い込むと、一気にまくしたてた。
「あんたはもう死んでます。どうやって死んだかは知らんけど。今ある姿は人生の中で一番『自分』を感じる時のものなんだって。でも悲しいことに、その人生においてあんたは殺人の罪を犯しています。その罪を償うために、あんたはここに堕とされました。つまりここは」
そこで、地雷女は大きく息を吸い込み、両手を大袈裟に広げた。
「天国・地獄・大地獄でいうところの地獄です!」
地雷女は達成感に満ち溢れた表情で仁王立ち。
高身長女は横でサイレントに手を叩いている。
夏服男は頭を掻きながら渋い顔で口を挟んだ。
「いや最後のはアキハの独自解釈やろ」
「んなことないわ。芦辺さんだって言ってたし」
「まあ、地獄であることが伝わればよいのでは」
説明が必要な人間を完全にほったらかして、やいのやいのしている。
俺は今、とんでもない連中に絡まれているらしい。
はあ。こういうとき、どんな顔すればいいのか判らないんだよな。
「あの、笑ったらいいか?」
俺の冷笑を含んだ言葉は、地雷女の癇に障ったらしい。
「おう。笑っといた方がいいよ。これからぜんぜん笑えなくなるから」
「じゃあもっと笑わせてくれよ。そんなつまんねえ冗談じゃなくてさ」
「冗談?」
俺と地雷女の応酬が続く。
「どうせお前ら、空き巣かなんかだろ。
俺ん家に金目の物がないからって、イキってんなよ。
警察呼ばれる前に帰れ」
挑発的な言葉が口をついて出る。
なぜ俺はこんなに相手を刺激する?
よく判らないが、こいつらを見ているとむかっ腹が立つのは判る。
無性にやり返したくなってしまうんだ。
「信じないってわけ」
「信じられることをひとつでも言えよ」
地雷女は右手をあごに添えて思案ぶる。
そして、何かを思いついたようで、大きな瞳がきらりと輝いた。
「ウッシーさ。予定変更」
ウッシーと呼ばれたのは夏服男だ。怪訝な表情を返す。
「なんの?」
「セメント男、リスポーン地点でパージしようって言ってたけど、今やって」
「え?ええけど。この男、素直についてくるかな」
「言うこと聞かなかったら、また喰って」
夏服男がため息をつく。
「あんな。ひとり食うんも一苦労なんやで?」
「いいから、やって!」
「わかったわかった」
不承不承といった様子で夏服男は前かがみになり、両手でスラックスの膝をつかんで引っ張り上げた。
スラックスは引き裂かれながらめくれ上がり、その下から剥き出しになった肌が露出する。
突然ストリップを始めた男に呆然とするのも束の間、単に服を引きちぎっているのではないことに気づく。
この男が引きちぎっているのは、服ではなく『皮』だ。
服と一緒に皮がめくれ、下から恐らく本来の肌が見えてきているのだ。
19 へつづく
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