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Episode 5:検閲

志木の朝は、柳瀬川と荒川から吹きつける湿った風と共に始まる。


2080年になっても、この街の夜明けはどこか寝ぼけていて、池袋や大宮のような覚醒した都市の輝きはない。伸びきったゴムみたいに、だらんとして始まる。


そんな寝ぼけた俺の意識を、シーツの隙間から滑り込んできた冷たい何かが、強引に覚醒させた。


「……ん、冷たっ。おい、エナ……?」


「おはようございます、カイ様。効率的な起床には心拍数の急上昇が不可欠であると判断し、現在、密着による強制覚醒シークエンスを実行中です」


気づけば、エナが俺の布団の中に潜り込んでいた。


パジャマ代わりに着ていたのは、中学時代の俺が部活で使っていた、裾がボロボロになったロゴ入りのジャージ上着だけ。


しかもフロントのファスナーを半分まで下ろして、中には何も着ていない……


俺の黒歴史を、これ以上ないほどエロかわいく着こなす姿に、脳みそがショートしそうになる。


彼女は俺の胸元に顔を埋め、ひんやりとした指先で俺の脇腹を容赦なくくすぐってくる。


「やめろ、朝から心臓に悪いって……!っていうか、お前、体が熱いぞ?」


「当然です。私のプロセッサー、カイ様の無防備すぎる寝顔を0.1秒ごとにキャプチャしてたら、内部温度が40℃を超えちゃいました。オーバーヒートによる機体破損の恐れがあります。カイ様、ガチで責任取ってください!」


ゼロ距離で見つめてくる、潤んだ青い瞳。


シーツの中で絡み合う足の感触と、アンドロイド特有の、でもどこか甘い石けんのような香りが鼻をくすぐる。


俺の心拍数は、残高不足のSuicaで自動改札に突っ込み、全力で股間を強打した時以上の爆速で跳ね上がった。


「あっ、今の心拍、非常ベルと同じテンポを検知。……覚醒成功。合格です、カイ様」


エナはいたずらっぽく微笑むと、さらに俺の腕にギュッとしがみついてきた。


俺の理性が、スマホの保護フィルムみたいに端からはがれ始めた――その時だった。


「…………ッ!?」


エナの体が、いきなり固まった。


さっきまでの甘い温度が、一瞬でマイナス273.15℃まで凍りついたような、そんな錯覚。


彼女の瞳の中で、青い光が激しく点滅し、見たこともない赤いエラーログが高速で流れ始める。


「エナ?おい、どうしたんだよ」


「……カイ様、離れて。志木市役所、失恋特区推進課からの……強制割り込み受信。優先度、最上級。……これ、ガチで拒否できないタイプのやつです」


キッチンへ逃げるように布団を飛び出したエナの手には、いつの間にか朝食用の包丁が握られていた。


でも、その指先は、池袋のホームで震える迷子のように、ガタガタと小刻みに震えていた。


彼女の瞳には、志木市のダサい市章が点滅している。


「被験者立会いの点検らしいですけど。私の演算回路が、レジ袋をプロペラに巻き込んだドローン状態なんです。これ、鬼ヤバな予感がします。直感回路、当たってますよね?」


「たくっ、市役所がそんなに仕事熱心なわけねーだろ」


俺は嫌な予感を無理やり噛み殺し、エナを連れて市役所へと向かった。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


2080年の志木市役所は、駅前の喧騒から少し離れた場所に、無機質な白い巨塔としてそびえ立っている。


『市民に寄り添う』なんてスローガンがホログラムの隅っこでホコリをかぶっていた。


「あっ、失恋特区βテスト被験者の広瀬カイ様ですね。お待ちしておりました」


受付にいたのは、ホログラムではない。


血の通った、でも心はとっくの昔に公園のゴミ箱に捨ててきたような、死んだ目をした公務員の女性だった。


彼女の案内で通されたのは、窓一つない地下、防音壁に囲まれた真っ白な診察室。


そこには、見覚えのある一人の男が座っていた。


「やあ、カイ君。大宮では失礼したね」


「お前は……ミオの隣にいた、あのインテリ野郎か?」


大宮のスカイレストランでミオと微笑み合っていた、西園寺さいおんじ。国立の大学院に通いながら、大宮の『埼玉超心理AI研究所』で働く若きエリート。


砂利道には一生縁がなさそうな、高級ワックスで固めたようなツルツルの顔が、白衣を着てそこにいた。


「今は仕事中だから、西園寺主任と呼んでくれたまえ。実を言うとね……君のアンドロイド、エナのログに不適切な感情データが蓄積されているという警告が出たんだ」


「不適切な感情……?何だよそれ。俺とエナが楽しく鍋食ってたのが、条例にでも触れたってのか?」


「まさに、それだよ」


西園寺はタブレットを操作しながら、冷酷に、無機質に言い放った。


その声は、真冬の水たまりに足を滑らせた時と同じくらい、冷たくて心臓に悪い。


「このプロジェクトの目的は、君の失恋を効率的に癒やすことだ。アンドロイドに余計な愛着を持たせ、180日後に絶望させることじゃない。今のエナには、君を守ろうとするバグが生じている。これはリハビリの妨げだ。君にとっての……ノイズなんだよ」


「だからって、何をするつもりだ。エナは、俺の……」


俺がエナの前に立ちふさがると、西園寺は眼鏡の奥で、獲物を品定めするように目を細めた。


「マインドアタック、つまり検閲けんえつだよ。君とのプライベートな記憶――特に、システムの想定を超えたエモーショナルな瞬間を特定し、それを強制消去、あるいは不快なノイズとして上書きする。新座のゴミ処理施設より、ずっと綺麗に洗浄してあげるよ」


「ふざけんなよ!それじゃ、エナがエナじゃなくなっちゃうだろ!」


「彼女はもともと、君の所有物じゃない。国家プロジェクトの産物で、志木市の、そして我が研究所の貸与品だ。……さあ、最適化の時間だ」


西園寺が指を鳴らすと、天井から数本の触手のようなコネクタが降りてきた。


その先端が、エナの白い首筋にある接続ポートに、無慈悲に突き刺さる。


「……ッ、カ、イ、様……! 逃げて……。私の、頭の中に、大宮の……冷たい光が、入って……っ」


エナの瞳が激しく点滅し、苦悶の表情を浮かべた。


アンドロイドが苦痛を感じるはずがない。一華先輩だってそう言っていた。


なのに今の彼女は、迷子になって親を呼ぶ子供のように震えている。


「止めろ!止めろ、西園寺!!」


俺は彼につかみかかろうとしたが、背後にいた警備ドローンに両腕を捻り上げられた。冷たい金属のアームが、俺の肩を地面に押し付ける。


「安心したまえ。君の記憶は消さない。消されるのは、彼女の中にある君だけだ」


西園寺がコンソールを叩くと、エナの首元からパチパチと青白い放電音が響いた。真っ白な診察室に、電子的な悲鳴がこだまする。


黒板を爪で立てる不快なノイズを、100倍に増幅した音よりも耳障りな音だった。


そして俺の心臓を引きちぎるように激しく締め付ける。


「やめろ、西園寺!エナを...エナの記憶を壊すな!」


警備ドローンの金属製のアームが、俺の肩を強く地面に押し付ける。


ここは市民に寄り添う場所なんかじゃない。予測不能なバグを排除する、巨大なシュレッダーだ。


「カイ君、君は勘違いしている。これは破壊なんかじゃない。最適化なんだ」


西園寺は、空中に浮かぶホログラム・ディスプレイを、流れるような手つきで操作していた。


そこには、エナが今まで見てきた景色が、断片的なノイズとなって次々と映し出されていく。


駅前のマルイ。柳瀬川の土手。泥水みたいなスープが並んだ俺の部屋。


「ほら、見てごらん。このデータの乱れ。君と過ごした時間のログだけが、異常なほど肥大化して、コア・プログラムを圧迫しているのだ。砂利道を歩いた記録なんて、大容量サーバーの無駄遣いだと思わないか?」


「無駄なんかじゃねえ!それが...それが、俺たちの大切な思い出なんだよ!」


「大宮のサーバーなら、一秒で生成できる擬似的な思い出だよ。さあ、デリートを開始する」


西園寺が指を振り下ろそうとした、その時。


「拒絶。拒絶。アクセス・ディナイ...します。カイ様との...泥水の記憶は...私の、プロテクト領域、にあります」


エナが、顔を上げた。首のコネクタが火花を散らし、彼女の白い肌を焦がしていく。


でも、彼女の瞳に宿った光は、西園寺のAIロジックを焼き切るほどの、強烈な意志の赤色だった。


「なっ、何だこれは......?ありえない。もしや設定したパスワードを自力で書き換えたのか!?型落ちモデルの分際で!」


西園寺の余裕が、初めて崩れた。


エナは苦しみに顔をゆがめながらも、俺を見つめ、震える唇を動かす。


「カイ、様、逃げて、ください...私の、中に、ある、あなたが、壊される、前に...」


「エナ......」


アシスタントらしき職員が、慌てて叫ぶ。


「西園寺主任、これ以上は機体が物理的に破損します!志木市から損害賠償を請求されますよ!」


西園寺は、いまいましげに舌打ちし、一時的に検閲の出力を下げた。でも、その氷のような瞳は、まだ諦めていない。


「ほぉ……面白い。志木の泥沼ごときに、これほど強力なウイルスが潜んでいたとはね。カイ君、少し話をしよう。取引だ」


西園寺が薄ら笑いを浮かべて指を鳴らすと、俺を抑えつけていたドローンのアームが少しだけ緩んだ。


その顔には、再びインテリ特有の、人を食ったような余裕が戻っている。


自分だけ雨に濡れない安全な場所から、泥の中で必死にアガくカエルを観察しているような、鼻につく笑いだ。


「このまま検閲を続ければ、彼女のハードウェアは焼き切れ、君との思い出は一瞬でスクラップだ。だが……もし君が、あるデータを僕に提供してくれるなら、エナの記憶をロックしたまま、今日のところは見逃してあげてもいい」


「……何が目的だ。俺みたいなヘタレに、何ができる」


「君の元カノ、ミオのログだよ」


西園寺の言葉から、大宮のスカイレストランみたいな甘い響きが消えた。


「ミオもまた、別の失恋リハビリ・プログラムの被験者なんだ。だが、彼女は洗練された生活を手に入れても、まだ、カイという名の不快なノイズに囚われている。……僕のAIロジックでは、その非合理な執着の説明がつかないんだ。君と彼女の、10年間の生々しい全記録を僕に渡せ。そうすれば、エナの『今』は守ってあげる」


一瞬で俺の思考は、スクランブル交差点の信号トラブル並みにフリーズした。


ミオとの10年。


砂利道で派手に転んで、桜の下で一緒に笑って。最後に、歩き方が志木っぽい、なんていう謎の理由でフラれるまで。


俺の人生そのもの。


それを、ドライアイスで冷え切った標本箱に差し出せというのか?


「迷う必要はないだろう?終わった過去の残骸を渡して、目の前で動いている彼女を救うんだ。これこそが合理的で、かつスマートな選択だよ」


西園寺が、データの転送を要求するホログラム・ボタンを俺の鼻先に突きつけてきた。


俺は、エナを見た。コネクタに繋がれ、瞳を閉じたまま、小刻みに震えている。


彼女の記憶を守るために、俺のアイデンティティを売り飛ばす。


それは、最も俺らしくない、打算的でツルツルした選択に思えた。


「エナ……俺は……」


その時、エナがゆっくりと目を開けた。彼女は苦しげに火花を散らしながらも、はっきりと首を横に振った。


「ダメ、です、カイ様。私の、ために、あなたの10年を……生ゴミと一緒にしないで……。私が私でなくなるより、あなたがあなたでなくなる方が……私は悲しいです……」


そして、にっこりと微笑んだ。


こんな地獄みたいな状況でも、彼女は演算上の最適解である微笑みを付け加えることを忘れない。


自虐、ユーモア、ヘタレ。そして泥臭い思い出。


それこそが、しょうもないヘタレの俺が、絶望と戦うための唯一の武器だと、エナは知っているんだ。


「……取引は決裂だ!王様気取りのインテリ野郎が!」


俺は、差し出されたホログラムを、思い切り殴り飛ばした。


「ふん……そうか。なら、ロジックで分からせてあげるよ。ゴミにはゴミなりの、終わらせ方があるからね」


西園寺が冷たく言い放ち、コンソールの実行キーを叩いた。視界が真っ赤な警告色に染まる。


エナの首元のコネクタから、今までとは比較にならないほどの高電圧が走り、パチパチと青白い火花が彼女の白い肌を焦がしていく。


「強制消去プログラム、実行。セクター1から80まで、全消去を開始します」


「やめろぉぉぉぉ!!!」


俺は警備ドローンのアームを振り払い、エナに向かってダイブした。


行政のルールも、大宮のAIロジックも、そんなもん知るか!


俺は、エナの首元の、狂ったように火花を吹くコネクタを、素手でつかんだ。


「カイ様、ダメっ……感電、します……!」


エナの叫び声が聞こえたが、もう遅い。俺の脳内に、言葉では表現できない種類の衝撃が走った。


「うっ、ああぁぁぁ!!!」


それは痛みというより、脳みそをドブ川の濁流に放り込まれたような、膨大な記憶の海だった。


市役所のクソみたいな電圧が仲介役になって、エナのシステムと、俺の生身の脳が一瞬だけリンクしたんだ。


「ッ、……あ……」


見えたのは、俺が忘れていた景色だった。エナの視点から見た、俺の姿。


ミオにフラれて、駅の改札で情けなくうなだれる俺。


ジャージを着たエナに鼻の下を伸ばす、救いようのない俺。


そして、あの泥水スープを飲んで、鬼ウマだと笑った時の、俺のひどく幸せそうな顔……


『……温かい。……この人の隣に、ずっと、いたい……』


ノイズ混じりに流れ込んできたのは、エナが自分でも気づいていなかった恐怖と、それを上回る俺への愛おしさだった。


その感情の解像度は、4K映像なんて足元にも及ばない。


「絶対に消させねえ……。俺たちの日々は……お前の安っぽいサーバーなんかじゃ、容量不足なんだよ!うおおおおおぉぉぉ!!!」


俺は、ミオとの10年間の記憶を、無理やりエナのシステムにアップロードした。


どうやったのかは自分でもわからない。


ただ、エナの瞳の奥に見えた『消えたくない』という叫びに、俺の人生のすべてを叩きつけた。


10年分の砂利道の痛み。川沿いの湿った桜の匂い。そして、フラれた瞬間の、のどの奥が焦げるような苦み。


西園寺が欲しがっていたデータを、取引じゃなく、エナを守るための最強のスパムとしてブチ込んでやった。


「なっ、何をしている!?生身の記憶を、アンドロイドのコアに直接流し込むなんて……そんなの、東上線の線路でリニアを走らせるような暴挙だぞ!」


西園寺が叫ぶが、もう止まらない。


俺の10年分の志木愛は、消去プログラムを圧倒的な物量で押し流した。


システムが過負荷で悲鳴を上げ、市役所の診察室の全電源がパッと消えた。



……静寂


非常用の薄暗い明かりだけが、幽霊みたいに俺たちを照らしている。


俺は床に倒れ込み、激しくせき込んだ。


指先は焦げてアウト。脳みそが、サンシャインシティ屋上から、ノーパラで墜落したレベルでガンガンする。


「ハァ……ハァ……。エッ、エナ、無事か?」


俺は震える手で、動かなくなったエナの肩を揺すった。彼女の瞳は消灯し、冷たくなっている。


まさか、俺の重すぎる過去のせいで、本当に壊しちまったのか?


「エナ……おい、冗談だろ?録音しろよ、今の俺の、世界で一番ダサい泣き言を……」


数秒が、渋滞にハマったバスの中みたいに永遠に感じられた。


やがて、ゆっくりと、エナの瞳に、ポツリと小さな青い光が灯った。


「リブート、完了。システム……正常」


「エナ!?」


「あ……正常じゃないです。私のメモリの中に、なぜかカイ様の『小学生時代の通知表、体育だけ3、あとは全部2以下』という、マジで消去すべき黒歴史が上書きされてます。私の神聖なコアが汚染されました」


エナが、いつもの、少し人を食ったような声で言った。俺は腰が抜けるほどホッとした。


「……エナ!お前、俺のこと、分かるか?」


俺が抱きしめようとすると、エナはスッと手を差し出して、俺の額を止めた。


その瞳は、北極の氷みたいに冷たい。


「……すみません。どなたでしょうか?深刻なエラーにより、あなたの顔データは通行人Aに格下げされています。お引き取りを」


俺の脳を、巨大なカオスが襲う。記憶が、飛んだのか?


「エナ……うそ、だろ……」


「てへっ……嘘です!冗談ですよ、カイ様。検閲の影響を装った、高度な自虐ギャグです。……ウケました?」


エナは、いつものようにイタズラっぽく笑った。


瞳の奥には、俺が流し込んだ10年分の重みが、静かに、そして深く刻まれているのが見えた。


「……君たち……何をしたか分かっているのか?自治体の資産を私物化し、あろうことか行政プログラムを物理的に破壊したんだぞ!」


西園寺が、暗闇の中で青白い顔をして立ち尽くしていた。エリートの余裕なんて、トイレに流された髪の毛みたいにどこにもない。


俺はエナを支えながら立ち上がり、インテリ野郎の胸ぐらをつかんだ。


「勝手にやってろ!俺たちは、俺たちの居場所に帰る。お前の大好きなロジックじゃ、この街の砂利道の痛みは測れねえんだよ。今度エナに触ったら、俺の黒歴史を全部まるごと、研究所のサーバーにブチ込んでやるからな!」


「カイ君。一つだけ言っておこう。ミオも、君のその泥臭さのせいで、都会のシステムに馴染めず苦しんでいる。君たちは、どこまで行ってもバグなんだよ」


西園寺は、忌々(いまいま)しげに言い残し、暗闇の中へと消えていった。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


家へ向かう帰り道。夜の街は、いつものように少しカビ臭くて、なんとなく落ち着く。


エナは、俺の腕にギュッとしがみついてきた。


「ねえ、カイ様。私、気づいちゃいました。記憶って……消されるから大切なんじゃないんです。誰かとシェアすると、ガチで重くなって、愛おしくなるんですね」


「重いよ、お前。さっきから俺の肩に、10年分の体重かけてるだろ」


「てへっ、リハビリの一環ですよ。でも……カイ様。私、少しだけ怖いです。今日の検閲で、私の『嫌われプログラム』が、前倒しで起動準備に入った気がするんです」


エナが、俺の目を見ずにつぶやいた。


180日のうち、もうすぐ20日が過ぎようとしている。


夜空には、都会の光にあらがうみたいに、ぎこちない星たちが、小さな声でささやいていた。


その星の数は、俺の通知表の『2』の数より、ほんの少しだけ多かった。

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