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Episode 4:砂利道

大宮駅からの帰り道。JR武蔵野線から乗り換えた東上線の車内は、失敗した直後みたいな、気まずい静けさに包まれていた。


エナは俺の肩に頭を預けたまま、小さな寝息のような、冷却ファンの駆動音を立てていた。


突然、節電モードに入ったのか、ガクンと頭を揺らす。そのまま俺の太もも目掛けてダイブしてきた。


「ちょ、おい……ッ!?」


狭い座席で、俺の膝の上にエナの頭が乗る。いわゆる膝まくら状態。


アンドロイドとはいえ、その頭の重みと、サラサラした黒髪から漂う不凍液混じりの甘い香りが、ダイレクトに俺の脳を直撃する。


さらに、エナが寝返りを打つように、顔を俺の股間近くに埋めてきた。


「……ん、カイ様……。そこは、だめ。私の予備バッテリーの……接続端子じゃ、ないです……」


エナが充電不足で寝ぼけた声を漏らしながら、無意識に俺の太ももをギュッとつかむ。


指先が絶妙に、男としてマズい場所の数センチ横をかすめた。


「ッ~~~~~~!!」


声にならない悲鳴が上がる。2080年の最新型アンドロイドの指先は、驚くほどしなやかで、かつ容赦がない。


しかも彼女の体温は20.5℃。その冷たさが、逆に俺の熱さを、これでもかと刺激してくる。


俺の下半身は、今まさに大宮駅の再開発ビル並みに、猛烈な勢いでビルドアップを開始していた。


「ねえ……カイ様、こんなに、硬くなって……。何ですか、これ?志木市の特産、生ゴボウでも育ててるんですか?もう、抜いちゃいますよ?」


「抜くな!抜いちゃダメだ!それはゴボウじゃない!!」


俺は必死に声を殺して叫んだ。


隣に座るサラリーマンが、危ないやつが乗ってきた、という目で俺を見ている。


エナは俺の焦りを知ってか知らずか、さらにスリスリと頭を押し付けてくる。


俺の理性は、武蔵野線の連結部分みたいに、もうギリギリの音を立てていた。


ようやく改札を抜けた時、俺の歩き方は『志木っぽい』どころの騒ぎじゃなかった。


下半身の生ゴボウを必死に隠すため、腰を不自然に引き、ガニ股と内股を交互に繰り返す、故障したカッパのような奇妙な千鳥足。


「カイ様、その歩き方……。新しい伝統芸能ですか?マジでキモいですよ」


「誰のせいだと思ってんだよ!」


俺は必死に通行人の数を数えて、自然回復を待つしかなかった。


志木駅に降り立った頃には、彼女の体温は平熱、といっても機械的な20.5℃に戻っていた。


でも、瞳の青い光は、スマホのバッテリー残量が1%になった時のように、危うくて心もとない。


「ねえ、カイ様。私……やっぱり大宮の空気、肌に合わなかったみたいです。志木駅の改札を抜けた瞬間、OSの処理速度が、ガチで安定しましたから」


「当たり前だろ。お前、さっきの熱、完全に限界突破してたぞ。……無理すんなって」


俺たちは、駅から少し歩いた路地裏にある喫茶店、『カッパの隠れ家』へと向かった。


2080年のこの街で、ここだけは平成の空気がフリーズしたような場所だ。


店の入り口には、ホログラムじゃない、本物の木彫りのカッパが立っている。


カラン……コロン……。20世紀末の恋愛ドラマでしか聞かないような、旧式のドアベルが鳴った。


「ほお……ったく。大宮のビル風で、また一人、都会に負けた犬が迷い込んできたか」


カウンターの奥から、しゃがれた声が響く。


店の主、通称マスターだ。御年100歳を超える彼は、体の半分以上がサイボーグ化されている。


立ち上がるたびに『ギギッ、プシュー』と、重厚な油圧シリンダーの音が響く。


「マスター、お久しぶりです。……負け犬とか言わないでください。これでも大宮で一発花火を上げてきたんですから」


「ふん。一発かまして、そのザマか。隣の嬢ちゃん……回路が焦げた匂いがするぞ。最新型ポンコツも、大宮のノイズには勝てなかったようだな」


マスターは毒づきながらも、エナにキンキンに冷えたグラスを、そして俺には、良識を疑うほど真っ黒なコーヒーを置いた。


俺は、マスターにエナとの180日の話をした。そしてコーヒーを一口すする。


……マジで苦い。砂利道で顔面から転んだ時のような、ザラついた絶望の味がする。


「苦っ……!なんすかこれ、嫌がらせですか?」


「それが、この街の味だ。……いいか、カイ。お前はさっきから、エナが壊れるとか、消えるとか言って、被害者面して泣きそうな顔をしてるがな」


マスターは、義手の方の指で、俺の胸元をトンと突いた。


「甘えんなよ、ガキが」


マスターの鋭い眼光が、俺を射抜く。


「大宮のインテリ連中が、なんであんなにツルツルした顔をしてるか分かるか?あいつらは、最初から舗装された道路しか歩いてないからだ。つまづくこともなけりゃ、泥が跳ねることもない。でもな……この街を見てみろ。ここは、どこまで行っても砂利道と、泥臭い土手だ」


俺は黙って、冷めかけたコーヒーを見つめた。


マスターの顔が、赤く火照っている。


「砂利道を歩けば、足は汚れる。石が靴に入って、痛む。でもな、その痛みがあるからこそ、お前は自分が今、この場所を歩いているってことを、脳みそじゃなく心に刻めるんだ。幸せなんてのは、高級レストランのフルコースじゃねえ。のどが渇ききった後にすする、泥水みたいなコーヒーの中にこそあるんだよ」


マスターの言葉は、自虐の殻に閉じこもっていた俺の心に、砂利を放り込まれたような衝撃を与えた。


「マスター。……泥水って、私の作ったスープのことですか?私、あれにガチで愛情を込めたんですけど……」


エナが、不服そうに口をとがらせる。


「ほう、愛情だと?隠し味か?」


「はい。この街の夕暮れの色をイメージしたトマトベースに、乗り換えの焦りのようなスパイスを足して……仕上げに、カイ様の情けないけど温かい自虐を、一つまみです!」


マスターは一瞬だけ呆気に取られたような顔をしたが、やがてサイボーグの首をギチギチと鳴らしながら、盛大に笑い始めた。


「はははっ、こりゃ凄い!アンドロイドのくせに、この街を分かってやがる。いいか、カイ。180日っていうのは、お前にとっての砂利道だ。彼女が壊れていく姿も、放つ暴言も、全部お前の血肉にしろ。……それが、この街で生きるってことだ」


俺は、もう一度コーヒーを飲んだ。


今度は、不思議と苦くなかった。



『カッパの隠れ家』を出た頃、街はすっかり夜の闇に包まれていた。


俺たちは、柳瀬川駅前のスーパーに立ち寄ることにした。今夜のメニューは、絶望と希望のちゃんぽん鍋だ。


スーパーの自動ドアをくぐった瞬間、エナが突然、俺の腕に自分の細い腕をギュッ、と絡めてきた。


「……ッ!?お、おい、エナ?」


「カイ様、静かに。私のセンサーが周囲の主婦層を検知しました。リハビリ・プログラム第14条、適応開始。ここでは、新婚夫婦偽装モードで買い物を行います」


「はぁ?なんでそんなモードが必要なんだよ!」


「市内のスーパーにおいて、独身男性の買い出しは、孤独死予備軍としてAIにマークされる恐れがあります。それを防ぐために、私は今、新妻としてのロールプレイを遂行します。ねえ、カイ様。そんなフラれたばかりの負け犬みたいな顔しないで。ほら、あなた。カートを押してくださる?」


エナは俺を、新婚風に『あなた』と呼び始めた。


ていうか、俺はガチの高校生なんだが……


しかも、やたらと距離が近い。肩が触れ合うどころか、彼女の柔らかな胸のシリコンの感触が、俺の腕に絶え間なく押し付けられる。


「エナ、近い、近いって!」


「新妻ですから。あ、見てください、この白菜。198円ですよ、あなた。私たちの将来の貯蓄を考えれば、ここは買いですね。……あ、でも、あっちの特売品の方が、今のあなたのメンタルみたいに、ヘナヘナで安いかしら?」


「余計なお世話だよ!」


エナは、楽しそうに商品をカゴに放り込んでいく。


肉コーナーの前で立ち止まると、彼女は俺の顔をじっと見つめ、耳元でささやいた。


「ねえ、あなた。今夜は、精のつくものを食べないと、ですね。……夜のリハビリに耐えられるように」


「……っ!?バカ!誤解されるようなこと言うな!」


俺の顔は、精肉コーナーの赤身肉より赤くなっていた。


周囲の主婦たちの『あらあら、若い人はいいわねぇ』という視線が痛い。


当のエナは……


「心拍数130突破。ガチでチョロいですね、カイ様」


と、小悪魔のような笑みを浮かべていた。


これが、嵐の前の最後の幸せな買い物だとは。俺もエナも、まだ知らなかったのだ。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


スーパーでの新婚偽装モードという名の公開処刑を終え、俺たちはボロアパートに帰り着いた。


六畳一間の狭いキッチン。二人並んで立つと、肩が触れ合うどころか、お互いの吐く息が混じり合う、逃げ場のないゼロ距離空間だ。


野菜を切るトントントンという軽快な音が、安っぽい壁に響く。


エナの包丁さばきは、もはや料理というより精密機械の切断加工だ。白菜の断面が、0.1ミリの狂いもなく並んでいる。


「ねえ、カイ様、質問です。この長ネギの青い部分。これは、切り捨てるべき過去ですか?それとも、煮込んで愛でるべき未来ですか?」


「うーん……ただのネギの端っこに、壮大な哲学をぶち込むなよ。煮込めば食える。それが俺の精神だ」


俺は骨董品のカセットコンロをセットし、鍋に火をかけた。狭いキッチン。換気扇の回る音がやけに大きく聞こえる。


ふとした拍子に、エナの長い髪が俺の頬をかすめた。


「……っ、エナ、近いって」


「狭いアパートを選んだのは、カイ様ですよ。私のセンサーによると、現在2人の距離は12センチ。これは物理的な親密度において、平均的なカップルを117%上回る数値です。……あ、耳まで赤くなってますよ。さっきの電車の生ゴボウ、まだ収穫しきれてないんですか?」


「蒸し返すな!ガチで死にたくなるから!」


エナはクスクスと笑いながら、俺の顔をのぞき込んできた。


彼女の瞳の青い光が、至近距離で潤んでいるように見える。


鍋から立ち上る湯気のせいか、彼女の無機質な肌が、ほんの少しだけ柔らかく、温かく見えた。


「お前さ、たまにアンドロイドらしくない、エモいこと言うよな」


「バグですから。明日には忘れてるかもしれない、一過性のエラーです。さあ、カイ様。味付けの最終調整、毒味の時間です」


エナは、おたまですくった熱々のスープを、自分のふっくらとした唇で『ふーっ、ふーっ』と冷まし始めた。


その仕草があまりにも人間臭くて、俺は思わず生唾を飲み込む。


「はい、あーん、してください。もし私が間違って、猛毒のトリカブトを入れていたら、死ぬ前に私の録音機能をオンにしてくださいね。遺言、全宇宙に爆音配信してあげますから」


「お前の優しさ、鬼畜すぎて涙が出るわ」


俺は覚悟を決め、彼女が差し出したおたまに口を寄せる。


……が、エナは小悪魔のように微笑むと、おたまを引いた。


代わりに自分の人差し指にスープを一滴たらして、それを俺の唇に押し当てた。


「……!?なっ、何して……」


「スプーン越しでは、データの解像度が低すぎます。直接、私の指から味を感じてください。ほら、早くしないと冷めちゃいますよ?」


指先から伝わる、スープの熱さと、エナの人工皮膚の滑らかな感触。


マジで熱い。そして、辛い。


でも……その奥に、野菜の甘みと出汁の深みが、この街の夕暮れみたいにジワーっと広がった。


「鬼ウマ!マスターのコーヒーより、100倍はウマい」


「本当ですか!?よかった……。私、自分の演算回路が信じられなくて、さっきから冷却ファンがフル回転してたんです」


エナは、ほっとしたように胸をなで下ろした。その拍子に彼女の胸元から、プシュゥゥ、という排熱音が漏れる。


プログラム。仕様。180日の契約。


そんな言葉で片付けるには、この部屋の空気はあまりにも熱く、充満する匂いはあまりにも幸せすぎた。


二人で鍋を囲む。六畳間の真ん中で、ぐつぐつと煮える音だけが響く。


「なあ、エナ」


俺は、湯気の向こう側にいる彼女を見つめた。


「お前、さっき、明日には忘れてるかもしれないって言ったけどさ。たとえ、お前が忘れても、俺がこの味を覚えてる。お前が作った、めちゃくちゃで、でも最高の鍋の味を」


エナの動きが、一瞬だけ止まった。


彼女の瞳の中で、膨大なデータが交差し、上書きされ、そして……


一つの、小さな例外処理が生成されたのを、俺は見た気がした。


「……ねぇ、カイ様。それ、ガチで言ってます?録音しましたよ。あとでミオ様のアドレスに送りつけて、自慢しちゃっていいですか?」


「やめろ!恥ずかしすぎて柳瀬川に身投げするわ!」


「てへへへっ……投げさせませんよ。私が粗大ゴミ回収車より早く、あなたを回収しに行きますから!」


外は冷たい北風が吹き始めていた。朝霞台から流れてくる、冷え切った冬の気配。


でも、このボロアパートの一室だけは、2080年で一番、志木っぽい温かさに包まれていた。


……と、その時だった。


エナの左腕が、ガタガタと不自然に痙攣を始めた。


「んっ……エナ?どうしたの?」


「あっ……すみません、カイ様。ちょっと、大宮のノイズが後を引いているみたいで……。システムエラー、0.001%。すぐに、自己修復します」


彼女は無理やり笑って、震える腕を隠した。


その笑顔の裏側に、一華先輩が言っていた壊れていく予兆が見える。


確実に、そして冷酷に潜んで近づこうとしていることを、俺はノイズだと思い込むことしかできなかった。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


深夜の柳瀬川。その空気は、冷え切ったシリコンバレーのサーバー室みたいに、無機質で刺すように冷たい。


鍋で温まったはずの体は、アパートを一歩出た瞬間に、各停待ちのホームに置き去りにされた気分になった。


エナの腕の痙攣は、部屋を出る頃には収まっていた。でもなんとなく、彼女の足取りは、どこか危うい。


その証拠に、砂利道を踏みしめる音が、いつもより重く不揃いだった。


「カイ様……夜の柳瀬川って、なんだかデータの墓場みたいですね」


川面に映る街灯の光を見つめながら、エナがぽつりとつぶやいた。


その声は、昼間の元気なリハビリ・パートナーのものとは明らかに違っていた。


「墓場、ねえ。まあ、昔から色んなもんが流れてる街だからな。カッパの伝説も、誰かの失恋も、全部この川が飲み込んできたんだろ」


俺は努めて明るく答え、彼女の手を握った。


異常に冷たい。さっきまで鍋を作っていた時の、あの愛おしい熱が嘘みたいに引いている。


その時だった。エナの体が、唐突にビクンと跳ねた。


「……ッ、カイ、様……。離れて、ください。今、すぐ」


「え、おい、どうしたんだよ!?またオーバーヒートか?」


「違……ッ、プログラムが……強制、上書き……嫌われシークエンス、テスト、起動……」


エナの瞳の青い光が、赤く、まがまがしい色に染まった。


彼女は自分の頭を抱え、土手に膝をつく。


最新鋭のAIが、その内部で自分自身を破壊しようとするプログラムと、凄まじい演算の火花を散らしているのが分かった。


「……カイ……様。あなた、本当に……キモい、です」


「はぁ?……エナ?」


エナの口から漏れたのは、氷よりも冷たく、ドブ川よりも汚い、さげすみの言葉だった。


「志木に、しがみついて……。いつまでも、過去の女に、未練タラタラで。そんなんだから、フラれるんですよ。あなたの歩き方だけじゃない、存在自体が……生ゴミ、以下です」


「エナ……お前、何を……」


「これが、私の、本当の、仕事。あなたを、絶望、させて……リハ、ビリ、完了、させる……。……ガ、ガガ……ッ!!」


彼女の言葉は、鋭利なナイフとなって、俺の胸をズタズタに切り裂く。


いや、分かってる。これはプログラムだ。彼女の意志じゃない。


でも、エナの顔をした少女に、これ以上ない冷酷な目で見下されるのは、小学校の裏山から突き落とされるより痛かった。


だが、その直後。


エナの頬を、一筋の液体がつたい落ちた。


「嘘、だろ……お前、泣いてんのか?」


「プログラムは……泣きません。これは……内部結露による、異常、排水……」


エナは震える声で言い張りながら、自分の胸を拳でドンドンと叩いた。自分の中のシステムを、必死で物理的に黙らせようとしているみたいに。


実際は、ただの潤滑オイルかもしれない。冷却液かもしれない。


でも、俺にはわかる。ただ、分かるんだ。


月光を反射してキラリと光るそれは、混じりけのない本物の涙だった。


「カイ様、逃げ……て……。私、あなたのこと……ガチで、大っ嫌いに……なっちゃう。システムが、そうしろって、命令して……」


もう、俺は逃げないと決めた。


地面に伏せるエナを、力いっぱい抱きしめた。俺を拒絶しようとする、冷たい、金属の塊のような彼女を。


「嫌いになれよ!プログラム通り、俺をゴミ扱いしろよ!」


「カイ、様……」


「でもな、エナ。俺はお前を、ゴミ集積場には絶対に出さない。マスターが言ったんだ。砂利道の痛みこそが、生きてる証拠だってな。お前が俺を傷つけるたびに、俺はお前を好きになってやる。それが俺の、システムへの反逆だ!」


俺の胸の中で、エナの震えが少しずつ、ゆっくりと収まっていった。


赤い光が消え、いつもの、少し頼りない青い瞳に戻る。


「……カイ様。今のは……本気で、マジでエモかったです。……録音データを、私の最重要保護領域のコアにロックしました。もう、誰にも、消させません……」


エナは、俺の胸に顔を埋めたまま、小さな声で笑った。その声は、さっきの毒舌が嘘のように、温かかった。


柳瀬川の対岸からは、朝霞台の駅が、かすかに見えた。あそこには、一華先輩が言った地獄が待っているのかもしれない。


でも俺たちは今、この冷たい風の中で、二人分の体温を分け合っていた。


「ねえ、カイ様。明日も、泥水スープ、作ってもいいですか?」


「ああ。今度は、もっと砂利道っぽいスパイス、足してくれよ」


180日間のうち、16日が過ぎた。


俺たちの壊れかけの恋は、でこぼこの砂利道の上を、それでも確かに歩き始めていた。

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