第82話 脱出の切符
俺は屋外プールの端でリラックスしていた。
パラソルの下に設けられた椅子に腰かけて、気ままに煙草を味わう。
死体を漁るうちに、好きな銘柄を発見したので大切に吸っている。
「ん」
煙草が短くなってきたところで、片腕の甲殻部分に押し付けて火を消す。
吸い殻を血みどろのプールに投げ捨てた。
マナーのなっていない行為だが、それを叱る者はいない。
大量の死体のせいで、プールは既に手遅れなほどに汚れ切っている。
吸い殻が投入されたところで誤差の範囲だろう。
俺は割れた腕時計を確認する。
デジタル表示が一部文字化けしているが、しっかりと機能していた。
ちょうど約束の三十分が経過したところだった。
「さて、脱出の時間だ。点呼は必要かい?」
俺は近くにいる面々に呼びかける。
そこにはミアナとイーサンの他に、三人の生存者がいた。
この待機時間にヘリポートまでやってきた者達である。
俺達と同じくカジノフロアからやってきたのが二人と、下のフロアから単独で上がってきたのが一人。
職業の内訳としては、富豪の娘とホテルマンと銀行員だ。
ただし銀行員の男は、目付きや仕草からして経歴を詐称しているようである。
大方、どこかの組織のエージェントだろうか。
彼らは幸運にもここまで辿り着いたらしい。
イーサンの説得も無駄ではなかったというわけだ。
正直、三人も現れたのは意外だった。
とは言え、特に問題もないので、彼らを連れてさっさと脱出しようと思う。
そんなわけで俺達はヘリポートへと赴く。
運転は俺が担当することになっていた。
待機中の燃料が十分に残っていることは確認済みだ。
過信はできないものの、どこかしらの安全地帯に着くまでは持つだろう。
地上なら放置車両もあるし、移動手段には事欠かないはずだ。
今後の計画について脳内で練っていると、突如として銀行員が駆け出して先頭に立った。
そしておもむろに拳銃を持ち上げて、俺達に向けてくる。
「動くなッ! 全員、ゆっくりと手を上げろ!」
銀行員が血走った目で叫んだ。
かなり必死な形相だ。
神経質そうに銃を動かして、俺達を順に狙ってくる。
「や、やめろ! どうしてここで争う必要が――」
「黙れェ!」
ホテルマンが制止しようとすると、銀行員が遮るように発砲した。
弾丸がホテルマンの額を貫通し、少量の血を散らして崩れ落ちる。
「きゃあああぁっ!?」
富豪の娘が甲高い悲鳴を上げた。
パニックに陥った彼女は、転びながら踵を返し、そのまま室内へ逃げようとする。
そこに銀行員が銃撃を浴びせた。
背中に穴の開いた富豪の娘は、床に衝突してそのまま動かなくなる。




