第81話 名医の説得
ドラゴンの死に様に満足していると、ミアナとイーサンが駆け寄ってきた。
「大丈夫か」
「この通り元気そのものさ。今すぐ祝杯をあげたいくらいだ」
俺が気楽に応じると、ミアナは苦笑してみせる。
ジョークを叩ける程度の状態だと察したようだった。
ところがイーサンは真剣な顔で俺の腕を掴んでくる。
「見せてくれ。かなり無理をしていたが……」
「心配ないぜ。それくらいは分かる」
「しかし、どう変化するか分かったものではない。念のために診察させてもらう」
「了解だ。自由にチェックしてくれ」
俺は両手を上げて降参のポーズを取り、そのままイーサンの診察を受けた。
彼としては、どういった容態なのか確かめたいのだろう。
自らがアドリブで改造手術を行ってこうなったので、その責任を感じている。
もっとも、彼の機転を利かせなければ、俺は四肢を失ったガラクタになっていた。
これだけ便利な四肢をくれたことには感謝しているし、そもそも何の不具合もない。
ちょっと心配性が過ぎるのではないか。
診察を終えたイーサンは難しい顔をして唸る。
「少し成長しているな……負傷と再生を繰り返すたびに進化しているようだ」
「そいつは朗報だ。もっと便利になってくれる分には大歓迎さ。ほら、さっさと行こうぜ。脱出へのチケットが待っている」
俺は二人を促してヘリポートへと向かう。
最大の脅威であるドラゴンを排除した。
結局ヘリも壊されなかったので、あとは脱出するのみである。
こんなクレイジーな地獄をさっさと抜け出して、どこかで休暇を楽しみたい。
ネットで情報を集めたのだが、迷宮の被害を受けていない国も少なくなかった。
今後どうなるか分からないものの、そういった地域に避難した方がいい。
現在のアースタワーよりは安全だろう。
そうしてヘリに乗り込もうとした時、イーサンが目の前に立ちはだかってきた。
「待ってくれ。他の生存者を待とう。彼らを置き去りにはできない」
「まだ生きていると思うか? グループはとっくに破綻したって話だったが」
「それでも、誰かがここまで辿り着くかもしれない……せめて、あと三十分だけ待ってほしい」
苦い顔のイーサンは懸命に俺を説得する。
彼だって馬鹿ではない。
ここはすぐにでも脱出すべきだと理解している。
しかしながら、まだタワー内にいるであろう生存者を見捨てられないようだ。
イーサンという男は、どうしようもなくお人好しで愚かな性格をしている。
ただ、その性質を頭ごなしに否定することはできなかった。
小さくため息を吐いた俺はミアナを一瞥する。
「どうする?」
「私は特に異論はない。状況的には即座に脱出するのが最適解だが、見捨てない選択も立派だと思う」
腰に手を当てたミアナは、いつも通りの口ぶりで述べた。
特に嘘をついている様子もない。
発したままの意見が彼女自身の本音だろう。
どちらかと言うと俺寄りな性格をしているミアナだ。
基本的にはドライだが、イーサンを尊重するだけの余裕があるようだった。
二人の見解を考えを聞いた俺は、少々の思考を経て肩をすくめる。
煙草をくわえてヘリにもたれかかると、イーサに向けて答えを返した。
「――分かったよ。三十分だけだからな」
「ありがとう。恩に着るよ」
「気にしなくていいさ。互いに迷惑をかけていこうぜ」
俺はライターを取り出しながら苦笑する。
いつもならここでイーサンとミアナを射殺し、邪魔者を排除してから堂々と一人で脱出に移っただろう。
今回の結論は、言わば気まぐれである。
まあ、たまにはこういった選択も悪くないと思った。




