第76話 竜の力
刹那の睨み合いを経て、ドラゴンが咆哮した。
鼓膜が痛くなるほどの大音量でヘリポート全体が震える。
さらにドラゴンが息を吸い込み始めた。
腹が膨らみ、口内で赤い光が煌めいている。
今にも爆発しそうなエネルギーが渦巻いていた。
「隠れろッ! ブレスが来るぞ!」
ミアナの警告の直後、ドラゴンの口から火炎が放たれた。
それは地面を舐めるように迫ってくる。
「おっと、危ねぇな」
俺はイーサンを引っ掴んで退避し、屋外プールのスペースへと戻る。
そのまま火炎の範囲外へと身を隠した。
ミアナは魔術で火炎を受け流しながら退避していた。
直接受けるとバリアーを粉砕するので、角度を付けることで上手く凌いでいる。
そうして俺達は屋外プールの壁の陰に隠れた。
ちょうど身体を晒さずにヘリポートが見える位置だ。
とは言え、決して油断できる間合いでもない。
俺は焦げた衣服の端をつまみつつ、深々と嘆息する。
「まさかドラゴン対峙をする日が来るなんてな。光栄すぎて涙が出そうだ」
ぼやきながら拳銃の弾を確認し、次にドラゴンの動きを観察する。
ドラゴンは微妙な高さをキープして、翼を上下させて滞空していた。
幸いにも脱出用のヘリは炎の範囲外だ。
今のところは無事だが、既に故障した一機のようにいつ壊されるか分からない。
さっさとドラゴンを片付けて乗り込みたいところだ。
俺は呼吸を整えるミアナに尋ねる。
「いつもみたいに魔術で吹っ飛ばせないか?」
「無理だ……竜は高い魔術耐性を持っている。私の術では決定打になり得ないだろう」
「そいつは朗報だな」
望ましくない情報に辟易していると、ドラゴンがヘリポートに着地した。
そして焼け焦げた死体を食らい始める。
「トカゲ野郎め、ウェルダンがお好みかよ」
ここでようやくドラゴンの目的が分かった。
あいつがヘリポートを占拠しているのは、自然と餌が集まるからだ。
たぶんどこかで監視しているのだろう。
ヘリを求める人間が立ち寄るのを待っているのだ。
そこまで計算しているのか分からない。
狩猟本能によるものだろうか。
とにかくはっきりしているのは、俺達がドラゴンの罠に引っかかったということである。
ヘリが放置されている理由もこれで判明した。
実にシンプルな答えで、誰も手出しできないのだ。
実情は若干異なるものの、ドラゴンはヘリの守護者となっていた。
(クソッタレが、ぶち殺してやる)
舌打ちした俺は、咆哮するドラゴンに向けて拳銃を連射する。
弾丸は鱗に命中したが、甲高い音と共に弾かれた。
ダメージが与えられた様子はない。
サイズがサイズなだけあって、たとえ貫けたとしても大した傷にはならなかったろう。
(さて、どうするかね)
脱出手段が目の前にあるのに届かないのがもどかしい。
潔く撤退するのも賢明だろう。
怒り狂うドラゴンを見て、俺は苦笑するしかなかった。




