第50話 盤外戦術
通路は数分とせずに終わり、カジノのエントランスに到着した。
見張りの立つ扉は閉ざされている。
扉の向こうには大勢の人の気配がした。
生存者グループはエントランスを拠点のメインにしているようだ。
その中で各フロアを順に開拓し、安全地帯を増やしつつ、物資を確保していたのだろう。
「まずは皆に紹介をする。少しだけ待ってくれ」
男が扉を開けて先行して姿を消す。
俺達の到来を説明するのだろう。
見知らぬ人間を招き入れるのだから、反発も予想される。
事前に通達することで、混乱を軽減するつもりらしい。
実に真っ当な考えだと思う。
その間、俺達は他の生存者と共に待機する。
説明だけなら数分とかからないだろう。
暇なので俺は生存者達を観察する。
一様に疲労しており、顔色はお世辞にも良くない。
心身の負担が大きいのだろう。
観察を終えた俺は、彼らのうちディーラー服の青年に注目する。
どことなく挙動不審で、俺の視線を居心地悪そうに気にしていた。
「やあ、そんなに俺が信用ならないかい?」
「えっ……」
青年が身体を震わせて驚く。
焦っているのが丸分かりであった。
他の生存者からも怪訝そうに見られて、青くなった顔で俯いてしまう。
俺は気にせず指摘を続行する。
「ポケットの銃だよ。隠しているつもりだろうがお見通しだ」
「いや、これはその……」
「別に怒ってないから安心しろよ。あんたの不安はよく分かる。こんな三人組だからな」
俺は自嘲気味にフォローした。
悪名高い傭兵に異世界の魔術師、それに頭部がイソギンチャクの医者だ。
改めて考えると異様なトリオだろう。
何事も無く案内されていることが奇跡に近い。
そんな三人組でも歓迎されるのは、生存者達が追い詰められている証拠だ。
見るからに怪しい俺達の助力を欲するほどにピンチなのである。
「ふむ」
俺はふと閃いて懐を探る。
そして取り出したものを青年に投げ渡した。
「ほれ、やるよ」
「こ、これは……」
「ガムだよ。少しは気分も落ち着く。ミント味は嫌いかい?」
「いえ……ありがとうございます」
礼を言った青年は、銀紙の包みを開けてガムを口に運ぶ。
疑心暗鬼は気疲れする。
素人なら尚更で、正常な精神状態を保てなくなる。
ガム一つで少しでもリラックスできるのなら安いものだ。
一連のやり取りを見ていたミアナが俺に囁く。
「優しいな。どうしたんだ?」
「見張り役とコミュニケーションを取るのは鉄則だろ」
「……彼らが裏切ると?」
「どうだろうな。ただ、想定はしておいた方がいい。この状況だと、どう転ぶか分からない」
モンスターも厄介だが、人間はそれ以上である。
どんなトラブルが発生するか分かったものではない。
最悪、殺戮パーティーが開催する恐れだってあった。
そうならないように祈るしかないが、今のうちに打てる手は張っておくべきだろう。




