第32話 医者の正体
「一つ策がある」
難しい顔でそう言ったミアナが立ち上がった。
彼女はイーサンに近寄ると、片手を彼にかざす。
(何をするつもりだ?)
静かに見守っていると、彼女の手が発光し始めた。
光は急速に膨張してイーサンに炸裂する。
吹き飛ばされたイーサンは壁に激突して呻いた。
床に倒れて動かないが、どうやら死んでいるわけではないようだ。
ただ気絶しているだけらしい。
ミアナはさらに魔術を発動させて、生み出した鎖を巻き付けてイーサンを拘束した。
それを傍観する俺は、椅子に座りながら質問する。
「おいおい、豪快だな。殺すつもりかい?」
「違う。悩みを軽減してやるだけだ」
ミアナは答えながらイーサンの頭部に触れる。
不気味なイソギンチャクは蠢いていた。
ただ、心なしか元気がない。
宿主が気絶しているのが原因だろうか。
ミアナはそのイソギンチャクに魔術を当て始めた。
イソギンチャクの動きが途端に弱まっていく。
何らかの抑制効果があるようだった。
イーサンが微かに呻き声を洩らしている。
彼にも痛みが届いているようだった。
それを見ながらも、ミアナは処置の手を止めない。
「根本的な解決は難しいが、症状の緩和は私でも可能だ」
いきなりの攻撃に驚いたが、ミアナはイーサンを助けるつもりらしい。
それなら事前に告知すればよかったのではないかと思うが、モンスターに寄生されたイーサンの暴走を警戒したのだろう。
だから不意打ちのような形で無力化したのだ。
まずは動けなくすることを優先したかったに違いない。
「なるほどな。何か手伝えることはあるかい?」
「ベッドに運んでくれ」
「了解」
俺は気絶したイーサンを持ち上げてベッドに横たわらせた。
間近で見ると、頭部のイソギンチャクはグロテスクだ。
とても元が人間だったとは思えない。
ここから治療する方法は果たしてあるのだろうか。
じっと観察していると、ミアナが質問をしてきた。
「ところで、この男を知っているようだったが知り合いか?」
「いや、そうじゃない。噂を聞いたことがあるだけさ。互いにな」
俺はイーサンの白衣を掴んで名札に注目する。
顔写真は俺の知るものとは別人だった。
名前も知らない男だ。
先ほどの自己紹介で聞いた名とはまるで異なる。
そこまで確かめた俺は呟く。
「イーサン・オリアリー。数々の難病を治療した天才外科医で、義体の軍事利用に加担した男の名だよ」




