第31話 悩み相談
イーサンの言葉に俺は興味を覚えた。
足を組み直しながら反応する。
「へぇ、詳しく聞かせてほしいな」
「むしろ僕から相談したいくらいなんだ」
イーサンは悩ましそうに言う。
彼にとっては深刻な問題らしい。
それは当然だろう。
自分の頭がイソギンチャクになったら冷静ではいられまい。
イーサンはむしろ落ち着きすぎているほどだった。
「医務室に発生したこのイソギンチャクは、瞬く間に僕達を制圧した。寄生されると思考が支配されるんだ」
「じゃあ、どうしてあんたはマトモなんだ?」
「僕にも詳しいことは分からない。おそらくは医者としての責務が、皮一枚の差で理性を保っているのだろう」
イーサンは淡々と語る。
医者としての責務とは、また予想外の答えだった。
彼の人柄について詳しくは知らないが、かなり生真面目な性格なのだろう。
「助けを求める患者を救えなくなってしまう。頭部を蹂躙される僕が考えたのは、そのことだった。きっとその執念が理性の消失を妨げているのだと思う」
「専門家の見解は?」
俺はミアナに意見を求める。
彼女は少し考え込んだ後、何かを思い出しながら答えた。
「強靭な精神力で寄生状態を緩和できる事例は聞いたことがある。ここまで平然と会話できる者は初めて見たが……」
「それだけ医者としての意識が高いってことだろうさ」
俺はイーサンを見ながら言う。
彼の人柄には詳しくないが、経歴はそれなりに知っている。
少なくとも能力は超一流であった。
それに伴うだけの人格者であるらしい。
沈黙するイーサンを見つつ、俺は質問を続けた。
「ところで、なぜ部屋から出ると駄目だと分かるんだ?」
「医務室という場所は、否応なしに仕事を意識させてくる。これが理性の維持に一役買っているらしい。これといった根拠があるわけではないが、僕は確信している」
イーサンは室内を指しながら述べる。
俺にはまったく分からないが、本人が言うのだからそうなのだろう。
医務室そのものがイーサンの心の平穏を保っているらしい。
「この異形を自分で切除することも考えたが、それは実行できなかった」
「寸前で怖気づいたのか?」
「いや、違う」
イーサンは首を横に振る。
彼は机上のハサミを手に取ると、それを自分の頭へと運ぼうとした。
しかし、途中で腕が震えて硬直する。
イーサンは諦めてハサミを置いた。
「メスを近付けると、身体が動かなくなるんだ。他の自傷行為もできなかった。影響は少ないものの、寄生の影響が出ているようだ」
イソギンチャクの自衛本能によるものだろうか。
寄生されても理性を保つイーサンだが、僅かながら動きを制限されているようだ。
「手は尽くしたが、僕にはどうすることもできなかった。しかし、異界の人間なら何か解決方法を知らないかな?」
困った様子のイーサンは、助けを求めるようにミアナを一瞥した。




