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ボスを倒したのに攻略失敗? ~元現場監督、補助職だけの会社でダンジョンの難関依頼を片付けます~  作者: 他力本願寺


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第29話 同じ勝利を分け合う

D74。北支柱迷宮の戦闘は、まだ続いていた。


 高峰は部隊を東へ下げ、魔物を支柱から引き離した。広間の向こうで盾が鳴り、足音が遠ざかる。退避帯へ入った朔たちは、そこで初めて移動を止めた。


「中止した西側の通路には戻らない。白稜は東の区画からこちらへ帰還する」


 朔は連絡機で高峰と確認した。新しい帰還路は偵察済みで、通常の仮設架台を据えてある。白稜がその範囲を越えて追撃するなら、再び退避する条件だ。


 大きな衝撃が一度、岩盤を伝わってきた。


 慧は自分の立つ通路でレンチを鳴らし、土煙の中の支持材を測った。


「左の接合部、位置がずれています。二十メートル以内、あの足場の上です」


 朔のライトが、指定された箇所を照らす。


 仮設鋼材は、二つの受け座で荷重を受けていた。その脇の連結板が傾き、留め具が緩んでいる。板の重さは二十キロ。柱でも、天井でもなかった。


 冬佳が組立図と見比べた。


「荷重を受ける座は残っています。でも、このまま板が外れれば、横ずれ止めが利かなくなる。予備の締結材へ替えます」


 朔は通路上の人を下げ、鋼材を既設の機械式保持具で押さえた。板を外す間も、大きな荷重を魔法へ預けないためだった。


 冬佳が保持具の状態を見て頷く。


「今なら、板の自重だけです」


 彼女は板を取り直し、正しい位置へ合わせた。


「《仮固定》」


 魔法が受け持つのは、その二十キロだけ。保持具と受け座が鋼材を支えている間に、朔が準備してあった新しい固定具を通す。


「一本目、保持」


「残り五秒」


 冬佳の声に、朔は二本目へ移った。ナットを掛け、板が外れないところまで締める。


「二本目、保持した」


 冬佳が確認し、魔法を解く。八秒を待ち切る必要はなかった。板は普通の固定具で留まり、二人は落ち着いて残りの本締めを終えた。


「荷重を戻します。離れてください」


 保持具をゆっくり緩めると、鋼材は受け座へ落ち着いた。冬佳が接合部の印と計測値を確かめる。仮設の支持経路が戻った。


 朔が次の確認地点へ向きかけた時、慧が手を上げた。


「待ってください。右上から、別の金属音です」


 彼は壁に耳を押しつけなかった。同じ通路に露出した梁を指し、もう一度、測位に使う短い打音を鳴らす。


「梁の下の固定具が、前の記録より下がっています。原因までは分かりません。そこへ行く前に、見てください」


 朔は照明の位置を変えた。慧が示した先に、緩んだ配管支持金具が見えた。天井の崩落を魔法で読んだのではない。落ちそうな物が、すぐ近くにあった。


「了解。下は通行止め。先に右を処置する」


 冬佳が通常の支持金具を取り付ける間、朱里は確認した通行側へ路標を置いた。澪が退避者の点呼と白稜の帰還人数を照合し、深雪が通路へはみ出した資材を所定の置き場へ寄せる。


 誰も、亀裂のある主柱へ戻ろうとは言わなかった。


 前線の音が、不意に変わった。


 連続していた爆音が止み、一度だけ鋭い衝撃が響く。続く魔物の叫びは長く、最後は岩盤の下へ落ちていくように消えた。


『こちら白稜。討伐完了。追撃はしない。東の帰還路へ移る』


 高峰の声だった。


「こちら継路。指定路を保持している。右上の処置箇所は通行側を絞ってある。誘導に従ってくれ」


 やがて、土煙の中から白稜の隊員が現れた。


 先頭の盾役は、通行帯を示す光を見て立ち止まり、後ろへ指示を渡した。朱里が振る照明に合わせ、一人ずつ支持材の脇を抜けてくる。


 澪は数えた人数を消さず、名前の一覧と照らし合わせた。


「白稜、帰還人数一致。こちらも全員います」


 高峰が最後に通路へ入った。剣を収める前に、処置した接合部と、使われなかった西側の退路を見比べる。


「そちらへ戻らなかったのか」


「中止条件を超えたままだ。直すには別の準備が要る」


「正解だ。あの柱の近くでは、俺も部下を止め続けられなかった」


 高峰は疲れた声で言い、朔へ向き直った。


「東へ下がる道が開いていたから、最後の一撃を選べた。助かった」


「こちらも、敵が追ってこなかったからボルトを締められた」


 朔が答えると、高峰は短く笑った。


 二人が同じ方角を振り返る。魔物のいた広間は静まり、帰還路には、最後の隊員の足音が残っていた。


 地上へ出てから、双方の記録を合わせた。


 討伐時刻。退避命令。経路変更。補修箇所。誰が何をしたかを分けて書けば、勝利は一枚の報告書に収まった。


 高峰はその検収欄を見て、ペンを止めた。


「この形式でギルドへ出そう。うちの名前の下へ、まとめて入れるな」


 朔が頷くと、澪が会社名を独立した欄へ入力した。


 明日から他の人間が目にする実績に、継路の名前が残る。その画面を、彼女は保存した後でもう一度見た。

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