6月3日
「幼稚園はどう?」
「緑色」
「壁の色じゃなくて。幼稚園楽しい?」
「うん。いつもりっくんと遊んでる。今日も遊ぶんだ」
「そう………じゃあ、バスに遅れないようにしないとね」
「うん」
りっくんは正しくは「律」君で、優人の親友の子です。
大親友がいるから幼稚園に行くのは好きらしいです。
でも、心配だし、幼稚園にも本当のことは言えず、いつか迷惑をかけるかもしれないし、もう行かなくていいんじゃないかって、夫と話し合ったりしました。
ただそれを優人にどう説明していいかわからないし、何より本人が行きたがっているので行かせてあげたいという気持ちもあったり。いや、でも…。
本人の幼稚園に行きたいという感情も、子供なりに将来を見据えての感情かもしれないし、本当のことを知ったという仮定で、それでも「行きたい」というのかはわからないし…。
この世で生きるということの何が大切なのか……。
わからないです。
私たちがやっていることは正しくないのかもしれない。夫婦でそんな思いを抱えています。
「ロケットパンチ!!」
「え?何?何?」
「ロケットパンチ!ロケットパンチ!りっくんの家に行ったときに、りっくんのロボギガマンのロケットパンチ、ポッケに入れたまま帰ってきちゃったから返さないと!取ってくるーーー!」
そう言って、2階にあるおもちゃ部屋に取りに行く。今おもちゃ部屋と呼ばれている部屋は、いつかそこにベッドを運んで、優人の部屋になる予定の部屋でした。
空っぽになったその部屋を想像しそうになり、慌ててやめました。想像するのは怖いです。その「からっぽ」に押しつぶされそうな予感を、考えないようにしなきゃ…。
優人が慎重に階段を下りて戻ってくる。
「あった?ロケットパンチ」
「ううん。ない」
「こないだ予備のロケットパンチ買ったじゃない。とりあえずそれを持っていけば?」
「ふっはっ、ふっはっ、ふっはっ、ふっはっ、ふっはっ!」
めっちゃ鼻で笑ってる。鼻爆笑してる。
「いやいやいや、同じロケットパンチでも、違うロボギガマンだと、同じロケットパンチではないのですよ。ふっはっ、ふっはっ、ふっはっ!」
「そうなの?」
「そうなのです。りっくんのロボギガマンは僕のより少し大きいやつだから、ロケットパンチも僕のロボギガマンのやつよりちょっと大きいし、僕のロケットパンチよりちょっと飛ぶし」
よくわからないがそうらしいです。多分、ちょっと高いやつなんでしょう。
「そうなんだ……じゃあ、今度、優人にも大っきいロボギガマン買ってあげよっか?」
「いらない」
「え?」
「僕のロボギガマンは最強だから……」
その時、優人は優しく笑いながらそう言って、何の感情もないような。いや、どんな感情も超えたような。自信というか、威厳というか、達観というか、愛というか、とにかくそんな。なんか…何だかの全ての思いを注いでいて、ロボギガマンと繋がっているような。そんな迫力を感じました。
簡単に言うと、優人はロボギガマンが大好きで、特別ということだと思います。
ロケットパンチは見つからないまま、バスが来る時間なので家を出ます。雨が降っているので優人が気に入っている傘を開きます。ふと、「今年、何回この傘を開いただろう」と思いました。
あと何回、この傘を開くのだろう。




