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6月4日



「ロケットパンチの別売りのやつ買ってあげようか?」

「え!うそ!やったー!!予備のロケットパンチ!!うおおおおおーー!!」

「ん?ちょっと待って、買うのは昨日言ってた、なくしちゃったりっくんのロケットパンチだよ?」


「ぉえぃ?」


 優人の顔色が変わっていく、どうやら自分のロボギガマンのロケットパンチを買ってもらえると思ったらしい、目の前で絶望のドラマが繰り広げられている。ロケットパンチを買ってもらえると思い有頂天だった主人公の開かれたその口から、次のセリフが紡ぎだされる。


「ぉえぃ??」


「いやいや、りっくんのロケットパンチなくしちゃったんでしょ?」

「いやいや、りっくんのロケットパンチは見つかりましたが…」

「え!そうなの?なんだ、よかったね」

「へえ。そうでございます」

 主人公の脚本がちょっとおかしい。表情も、深みのある演技をしている。

「いいよ。買ってあげるよ。予備のロケットパンチ」


「おっしゃーーっ!!すごい!うれしい!夢にまで見ましたかーーーー!!!」


 脚本下手だな…。


 本当の事を言うと、昨日「いらない」と言われたことで、逆に、「買ってあげたい」という親心が収まらなくなっているのです。


「でも、予備のロケットパンチ、もう10個くらいあるんじゃない?」

「まだ8個だよ」

「いっぱいあるじゃん」

「全然だよ!ロケットパンチもいつか製造中止になるかもしれないし、中のバネが弱くなっちゃうかもしれないし、いっぱい欲しいし」

 確かに、ロケットパンチが消耗品であることは否定できないです。

 いつだったか、朝食のホットケーキのはちみつにロケットパンチを誤射してしまい、運悪く中の方まではちみつが入り込んでしまった。それでも、きれいに洗ったのでベトつきは取れたのだが、若干の甘いにおいを放ち続けているため、そのロケットパンチは「予備の予備」という降格処分を受けた。

 いつか、すべての予備ロケットパンチが消費され、はちみつロケットパンチが活躍する日は来るのだろうか?


「しょうがないな、じゃあまたネットで注文してあげるよ」

 と、私のセリフは諦めや困惑のセリフのはずなのだが、実際は、私の表情はおそらく苦笑いではなく満面の笑みだったと思います。不気味だったと思います。買ってあげられる事がうれしかったんです。優人に。

「わあ!やったあ!ロボギガマンだ!ロケットパンチだ!予備の!!!うれしい!ロボギガマン!!ママだーーーい好きっっ!!!」

 最高にうれしいはずです。優人が笑っていて、喜んでいて「ママ大好き」と言ってくれて、こんなに幸せなことはありません。

 ……ただ、私はロボギガマンに嫉妬をしてしまいます。

 優人の、その全ての笑顔も、喜びも、「ママ大好き」の声も、ロボギガマンのために生まれてきたのだという事実。もちろん分かっています。

「わーい!うれしい!ママ天才!ママ最強!ママギガマン!!」


 嫉妬してしまう。


「ロボットダンスしてあげる!「今だロボロボローボ燃えろ~」」


 急に息子がロボットダンスを始めました。


 ロボギガマンはアニメのヒーローで、そのエンディングでロボットダンスをしています。

 ロボットダンスは、人間がロボットのような動きをすることろが、面白味なんだと思うのですが…とにかく、ロボットのロボギガマンがロボットダンスをしていて、そのエンディングはちびっ子たちに大人気らしいです。


 私とロボットダンス。その1対1の時間が流れます。


「…………」


 こんな幸せなことはない。


 指定のバス停まで歩いていく。

 バスが来る。


 バスのドアが開く前に、

「ロケットーーーーーーーーー…」

 と言っています。

 おそらくドアが開くのと同時に「パーーンチ!」と言って乗り込むのでしょう。

 なかなか開かない。

「ォォーー~~……」

 開きました。

「--……   (パンチ)

 ギリギリの息の「パンチ」で乗り込んだ。


 ロケットパンチの予備がそんなにうれしいんだね。バスの中から、笑顔で私に手を振ってくれました。



 バスが行ってしまった。優人が行ってしまった。追うように風が吹く。

「弱いなあ」

 優人が目の前にいない。それだけで震えてしまう。


 私はあまりに弱い。


 前日の雨のせいで気温が低く、風が冷たかったんです。薄手の上着を通り抜ける風のせいで震えていたんです。

 そうです。これは言い訳です。

 言い訳を言わせてください。


 風が吹いていたんです。





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