10月13日
ごめんなさい。あのあと、どうやって家まで帰ったのか、ハンバーグが和風だったのか洋風だったのか…思い出せません。
そんなことより、あの事……なんて話したらいいんだろう。
とりあえず。
「優人……こっち来て」
優人を手招きする。
「えー、やだー!ママ、こないだカンチョーしたときおケツ鉄だったー!指折れたー!だから嫌いー!!」
「あはははははは。なにそれ」
「あはは。これからケツ鉄マグマって呼ぶね!」
「優人………ありがとね」
「えっ?!……???」
優人はあまりにも意外で、ビクッとして驚いている。
驚かせてしまいました。(笑)
「あはははは!違う違う。いつもありがとってこと」
「う……うん……」
なんか引いています。いや、違うか…私に嫌われなきゃいけないのに、私が笑っているから困っているようです。
「もういいよ。ごめんね優人、全部聞いちゃったんだ…公園で、優人が私に嫌われようとしてるってこと」
「え?」
「あはははは。びっくりした?私もびっくりしたよ。まさか優人、病気のこと知ってたなんて……ママもパパも一生懸命隠してたんだけどな」
「え?ウソ!違う違う!僕はママが嫌いなんだよ!ママも僕が嫌いなんだよ!」
「あはははは、まだ言ってる。もういいんだよ無理しなくても」
優人は頭の中で、心の中で、何かが駆け巡っているように混乱していて、それを抑え込むなんて無理なんだけど、その無理を何とか抑え込もうとしている最中だと思います。
少し待ちます。
この時の時間は、よく覚えていません。一瞬だった気もするし。「いつまでも待とう」なんて思ったような気もします。
「ごめんなさい……」
「あははは、なんで優人があやまるのよ。悪いのは隠してたママの方でしょ。ははは」
「確かにそれはそう。あはははは」
少し落ち着いてきたのかな?落ち着くために笑っているのかな?あいかわらず、優人の笑顔は私を幸せにします。
「あはははは」
「あはははは」
優人は眉毛の下がった笑顔で笑っています。そういう笑い方なのは完全に私からの遺伝です。なので私も、眉毛の下がった笑顔で笑っています。
「ごめんね、今まで黙っていて……もう無理しなくていいからね。ママはもう泣かないから。ママは強くなったんだから!ははは」
「えーウソだ~ぁ」
「本当だよ。ママはロボギガマンの次に最強なんだから」
「わー!ロボギガマンの次に最強ってことは最強じゃん」
「そう!最強……って、あれ?ちょっと待って…ロボギガマンの次ってことは最強じゃないじゃん。あはははは」
「確かにそれはそう。あはははは」
「優人……ありがとね。ママのこと守ってくれて」
膝をつき、同じ目線になって、優人の頭をなでています。
「う…うん……」
「優人は強いんだね。ロボギガマンとママの次に最強だね」
「あ!最強じゃない最強のやつだ!」
「あはははは、そうだね」
「あはははは」
「もう最強いっぱいだね。パパも最強?」
「パパも最強!」
「あはははは」
「あはははは」
景色がぼんやりとして見えます。
ああ、太陽ってこんなに白かったっけ?
我が家の窓から入る優しい光に包まれています。
「あ!優人!優人!庭に鳥がいるよ」
「たまに来てるよ」
「そうなんだ、気づかなかった。かわいいね」
「うん」
「……………」
何も知らなかった2日前の朝が懐かしいようです。遠い昔のように感じます。
その分、終わりの時が近づいたような、その時が来る準備が始まったような、「あの頃は…」なんて思ってしまい、過去がどうしようもなく大切になっていくことが怖いような……。負けないけどね。
「庭にエサになる虫がいるのかな?」
「来年もきっとかわいいよね」
そうやって、優人は私のことばっかり考えるんです。
「ふふふ……そうだね」
「うん!かわいいから鳥も最強!」
「なにそれ。あははははは」
「みんな最強だよ!虫も最強なんだよ!」
「食べられちゃうのに?」
「あはははははははは」
「あはははははははは」
「あはははは、ママ………」
「あはは、何?」
「死んじゃってごめんなさい」
「……いいよ、死んじゃっても。優人は何も悪くないから。大好きだよ!」
「あはははは!僕も!僕も大好き!!あはははははは」
「あはははははははは」
「あはははははははは」
「今まで無理させてごめんなさい。ママは優人のことずっとずっと大好きだから。宇宙が終わるまでずっとずっと!」
「宇宙ーーーっ!ママすごーーい!やっぱりマグマデビルみたーーい!あははははははは!」
「あはははは!」
優人が私の頭をなでてくれています。
私の頭をなでながら、小さな声で言いました。
「大丈夫。僕が死んじゃっても、ロボギガマンが守ってくれる」
6か月後、優人は死にました。




