第7話 連戦連夜(2)
今日の大会には、同じ800mに河野も出場している。もともと短距離走で速かった彼にとって、1500mより短いこの距離は得意種目なのだろう。記録だけでなく、順位にも期待がかかる。
そして、河野のレースが始まった。
予想通り、スピードのある河野は序盤から先頭に食いつく。ラスト300m付近までは粘り強く先頭をキープしていたが、終盤、流石にペースが落ちた。
だが、結果は8人中4位。タイムは2分27秒。
1500mの記録と比較すれば、彼の凄まじい進化は明らかだった。
速くなっているのは、決して俺だけではない。また少し、河野の背中が遠くなった気がした。
レース後、河野、佐伯と合流した。
佐伯は足を痛めているため欠場、花咲は家庭の事情で今日は不在だ。
そのまま三人で駅へ向かう道中、俺はふと前回の大会で佐伯たちが話していた内容を思い出した。
「なあ佐伯。前、この県には圧倒的に速い同級生が四人いるって言ってただろ。浅葱、玖珂、美上……あとの一人は誰なんだ?」
俺が尋ねると、佐伯は少し視線を泳がせた。
「ああ……そんな話もしてたな。いや、そいつなんだけど、二年の五月以来、試合で見かけてないんだよね。一年のときは本当の意味で負けなしだったんだけど」
佐伯はうつむきながら続ける。
「怪我とか病気とか、陸上をやめたとか……みんな好き勝手な噂を言ってるよ」
「佐伯はその人がどうなったのか、知らないのか?」
河野が口を挟むと、佐伯は少し強い口調で返した。
「……正直、誰よりも知ってる。でも、そんな言いふらしていいもんじゃない」
あまり良くない空気を感じ、俺と河野は口を閉じた。
おそらく、佐伯とその人物との間には、深い関係があるのだろう。それを知ろうとする権利は、今の俺たちにはなかった。
無言の俺たちの帰り道、雨水だけが静かに鳴っていた。
一週間後。
今日は二度目の1500m。前回の雨とは打って変わり、雲一つない青天だ。
歩いているだけで汗が止まらないほどの猛暑。今日は俺、河野、花咲、佐伯の全員が出場する。
組分けは資格記録順。俺と河野が同じ組なのはもちろんだが、今回は花咲と佐伯までもが同じ組に入った。先輩・後輩対決となる、なかなか興味深い組み合わせだ。
今回、中学生の有力選手は少ないが、高校生の強者が数名出場している。
その中でも、高校一年生の**望月迅**という選手は頭一つ抜けていた。1500mの自己ベストは3分54秒。
そう考えると、玖珂や浅葱の自己ベストがどれほど異常なことかも同時に理解できた。
試合開始二時間前。河野とアップのためにサブトラックへ向かうと、そこには誰かと親しげに会話する佐伯の姿があった。
「河野、あれ誰か知ってる?」
「見たことも聞いたことも……」
(まあ、いいか……)
今は試合に集中すべきだ。今日は河野と同じ組で走れる。少しでも食いつきたい。
今の俺にとって、まず越えるべき目標は河野だ。
彼にずっと勝てないようでは、自分の思い描く「自分」にはなれない。
「河野に勝つ」
炎天下、俺はそのことを心に深く決意し、アップを終えた。




