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[最速の今] -空白の時を埋めるため、僕らの無謀が『加速』する-  作者: Pe.com
中学3年生編

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9/9

第8話 連戦連夜(3)

招集所に着き、試合開始を待つ。

ここに立つと、心臓の鼓動がより強く、速くなるのを感じる。

(大丈夫だ、大丈夫……)

自分に言い聞かせ、震えを抑え込む。これは緊張か、はたまた高揚か。自分でも判別がつかなかった。


招集が終わり、メインブロックのトラックへ。スタートラインに立つ。

隣のレーンには、一番のライバル・河野。

こいつに勝ちたい。こいつに勝たなきゃ、この先の道はない。

会場が静まり、自分の鼓動だけが耳元で鳴り響く。吐き気がするほどの恐怖すら、今の俺には勝利への原動力でしかなかった。

開戦の合図は、そんな俺の感情を置き去りにして、ただ孤空を切り裂いた。


全員が、1500m先にあるゴールを目指して一斉に走り出す。

最初の一周は、ほぼ全員がオーバーペース。けれど、今日の俺には「河野に勝つ」という明確な標的がある。

先頭には出ず、集団の後方でじっと機を窺う。


先頭が400mを通過。74秒。やはりこの組の選手たちが狙うペースより明らかに速すぎる。

(俺の理想は77秒前後だ)

少しの焦りを、深呼吸でひそめる。

河野は先頭付近を走っている。あいつらしい、攻めの走りだ。


三周目。全体に疲れが見え始め、ペースが落ちてくる。

俺は冷静にレースを進めていた。二周目の400mは84秒。先頭のペースはさらに落ちている。

序盤を控えめで入った分、俺にはまだ、脚が残っている。

勝負を決めるなら、今しかない。


俺は少しずつギアを上げる。

一人、二人、三人。前を走る選手を次々と抜き去っていく。

抜き去るたびに体が熱を帯び、さらにペースが上がる。

気づけば、俺は河野のすぐ後ろまで迫っていた。


残りはあと300m。

河野の背中が、すぐそこにある。「勝てる!」

疲労で悲鳴を上げる足にもう一度力を込め、地面を一段と強く蹴った。

ラスト100m、ついに河野の横に並び立ち、一気に抜き去る。

(よっしゃ! 河野に勝てる!)

心の中で勝利を確信し、震えた。


だが、河野は俺が追い抜くのを見るや否や、これまでにない力強さでラストスパートをかけた。

残り30m。河野が猛然と俺を抜き返し、そのままゴールラインを駆け抜けた。


河野のタイムは5分11秒。俺は5分12秒だった。

河野も俺も、特大の自己ベストだ。

けれど、俺の心に喜びはなかった。ずっと追ってきた河野の背中を、一度は捉えながら、最後の一歩で逃してしまったのだから。


いや、この結果でよかったのだろう。

俺はこの試合で、誰かに勝つ喜びと、自分より強い相手に挑むことの「本質」を知ることができたのだから。

薄暮の中に消えていくライバルの背中を見つめながら、俺は次の一歩を、もっと強く踏み出すことを誓った。

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