後編
息が止まった。
——やっぱり。
私は笑われていた。
わがままも、照れも、揺れも、全部。
戻ってきたキリアンが、私の頬に手を伸ばす。
私はその温かさが、怖くなり、その手を振り払った。
「触らないで」
「セレス?」
「あなたの遊びに付き合うほど、私、安くありませんの」
数日後。
学園の裏で、私は聞いてしまった。
赤い髪の留学生カトリーヌと、キリアンの会話。
そして、彼の低い声。
「……もうすぐ終わらせる。あいつはもう、俺がいないとダメな体質になっている」
目の前が暗くなる。
終わらせる。
ダメな体質。
それが何を指すかなんて、私にもわかる。
私は、その場で決めた。
破滅させるのは、この男。
翌朝。彼は菓子店の包みを持ってきた。
私が「食べてみたい」と言った、あの菓子だ。
「セレス、今日は中庭で——」
「もう結構ですわ」
私は包みを払い落とした。
床に散らばる、色鮮やかな菓子。
「私を甘やかして依存させて、最後に捨てる。そういう趣味なんでしょう?」
「待て、それは——」
「黙って!」
私は言い切った。
「捨てられる前に、私が捨てます。最低な嘘つき」
踵を返した時、背後で彼の息が詰まる音がした。
でも私は振り返らない。振り返ったら、崩れる。
三日後。
屋敷の扉が叩き割られそうな勢いで開いた。
「セレス!」
ボロボロのキリアンが立っていた。
完璧な髪も、完璧な礼もない。息が切れて、目が赤い。
「帰って」
「帰れない」
彼は、私の前で膝をついた。
「……あの日の言葉の続きを聞いてくれ」
震える声で、彼は言った。
「終わらせるのは、嘘告白だ」
「……え?」
「本当の婚約を申し込む。そう言った。君を依存させたいなんて本気じゃない。……俺の方が、君なしじゃ生きられなくなった」
言葉が、胸に刺さる。
私の計画の刃が、全部、自分に返ってくる。
「セレス。君のわがままが嬉しかった。君が俺を頼ってくれてる気がして」
彼は顔を歪めて言う。
「でも、君を不安にさせた。最悪だ。……だから、罰を受けたのも当然だ」
彼は私の手を取って、額に押し当てた。
「捨てないでくれ。君に捨てられたら、俺は本当に破滅する」
——タイトル回収。ここで来ますわね。
私は震える息を吐いた。
「……あなた、最低ですわ」
「知ってる」
「私まで道連れにしないで」
指先が熱い。
私は、彼の頬を両手で包んで、言った。
「……わがまま、まだ残っていますの」
「全部叶える」
「じゃあ最初の一つ」
私は少しだけ意地悪に笑う。
「二度と、私を試さないで」
キリアンの瞳がほどけた。
「誓う。……次は最初から、正式に言う」
そして彼は、懐から小さな箱を取り出した。
「セレスティーヌ。俺と婚約してほしい」
「……仕方ありませんわね」
私の『破滅させる計画』は、ここで完全に潰えた。
代わりに、彼の『破滅覚悟』が、私を捕まえた。
「あなたを破滅させないために、私が面倒を見て差し上げます」
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