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十年間の「お飾り妻」、本日をもちまして退職いたします。

作者:月雅
最終エピソード掲載日:2026/03/04
十年間で一度も読まれなかった帳簿がある。 公爵家の全収支、交易先との契約条件、使用人の配置、社交季の根回し。それを記録し、管理し、運用していたのは、夫に「いてもいなくても同じ」と笑われた妻だった。

リーゼロッテは二十二歳で政略結婚し、三十二歳で離縁届を出した。 理由は明確で、手続きは完璧で、感情は一切込めなかった。 机の上に革装の引き継ぎ資料を置き、慰謝料の額を一銭の誤差もなく算出し、国境を越えた。退職届のように。

夫は振り返らなかった。 けれど数週間後、公爵家のあらゆる歯車が止まり始める。

国境の向こうで待っていたのは、五年前から彼女の仕事ぶりを見ていたという隣国の商会主だった。 差し出されたのは雇用契約書。対等な条件。明文化された権利と義務。 曖昧な善意なのか、それとも計算なのか。彼の本心が読めないまま、リーゼロッテは新しい帳簿を開く。

数字は正直だ。けれど、人の感情には行も列もない。 十年間封じてきたものに名前をつける日は来るのだろうか。
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