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第19話 事件です。第3節

「実はこれ。捏造疑惑、出てます」


 そう言って、一枚の写真を久兵衛がテーブルに置いた。

 今回の物的証拠となった『ブレーキ痕の写真』だ。

 正確には同様のモノである。証拠提出されたモノとは写した角度が違う。

 だが、さすが久兵衛だ。お宝をゲットしてきた。

 証拠品係の一人に大きな貸しがあり、すぐ返すという約束で拝借してきた。


「見て下さい。このブレーキ痕にはタイヤの溝がないんでさ」

 どれ?

 確かに、ブレーキ痕というのは、普通タイヤの溝の痕がつく。黒白黒白とストライプ状になっているのが普通だ。だが、これには白がない。単なる黒い線が、タイヤの幅に合わせて二本走っている。左一・二メートル右一メートルの長さだ。しかもよく見るとホンの少しハの字型に広がっている。まるでモップを水で濡らして、手書きで引いたような線だ。


「出たよ」

「こりゃガセ(ニセモノ)だ」

 大久保と井上があっさりと言い放った。


「見てすぐ分かるの?」と、房江。

「僕と井上さんがどれだけ実況見分してきたと思っているんですか。ブレーキ痕じゃありません。それにしても下手クソだなこれ。話になりませんよ。捏造です、ねつ・・・」

 大久保が言いかけて途中で固まった。


「ヤッター。物的証拠が崩れたってわけね。これで無実よ。やったわ!」

 房江が手を叩いて喜んだ。


 房江は半ばゲーム感覚に陥っていた。無理もないかもしれない。

 長いこと警察官の妻を務めて来たが、これほど具体的に捜査に触れたのは始めてだ。

 現役時代の井上が事件の詳細を口にしたことはない。

 当然だ。警察官には守秘義務がある。

 例え身内でも喋れない。家ではせいぜい人間関係の愚痴を漏らすぐらいだった。


 房江は、逆転無罪を引き当てワクワクしていた。

 が、みんなの様子がおかしい。一瞬にしてお通夜の様な顔つきだ。

「どうしたの? 逆転無罪じゃないの」


「逆だ」と、井上が言った。


「え、どういうこと」

「久兵衛、これ上告棄却されていたよな」

「ええ、それで実刑確定してます。それまでに二年掛かりました。最高裁から上告棄却の封書が届いた翌日に、夫は飛び降りてます」


 日本の裁判は三審制である。

 一審(地裁)から二審(高裁)へ上訴するのが『控訴』。

 二審(高裁)から三審(最高裁)へ上訴するのが『上告』だ。

 上告が棄却しりぞけたされたということはその上はもうない。


 つまり、裁判はやり尽くされた結果、この証拠は捏造ではない。

 とお墨付きが出たことになる。


 井上達にはそれがショックだった。

 こんなあからさまな捏造証拠を、なぜ裁判所が認定したのか?


 特に高裁が酷かった。

 高裁。つまり二審で、弁護側は交通事故鑑定人に依頼し様々な角度から事故を検証した。

『ブレーキ痕は捏造の疑惑あり』との解析書が作成された。

 それを受け、弁護側はその解析書と交通事故鑑定人の証人尋問を高裁に申請した。

 だが、どちらも却下され、僅か三十分で結審。

 要は「証拠は捏造ではない」と高裁はお墨付きを出した。


 その夜、被告・高木風輔は酒を浴びるほど程飲み、大いに荒れたらしい。


 最高裁も上告棄却なので「高裁と同じ意見である」と軽くあしらったに過ぎない。


 うまく、そつなく捏造された証拠ではない。あまりにも下手くそな捏造がそのまま司法で認定されている。ことは警察だけの問題ではない事が浮かび上がって来た。


 井上達は、自分達が思っていた以上の大きな何かが跳梁跋扈しているのを感じ、絶望感に襲われていた。改めて思った。

 裁判は真実を探す場所じゃない。決着をつける場所だ。


「ちょっと、どうしたのよ」


「俺達はせいぜい、警察の黒幕を炙り出すつもりでやってた。しかし、こんなあからさまな捏造で警察どころか、検察も、司法も、こぞって認めやがった。多分、これに関しては奴らガップリ組んでやがる。被告弁護側もやるだけやってドデカい壁にぶつかったんだ。家族による再審請求も通るかどうか分らんな。やぶ蛇どころじゃねえ。何が出て来たのか見当もつかねえ。こりゃ、旦那が自殺した気持ちも分からんではないな・・・」


 房江は、井上がなにを言っているのかよく理解できなかった。

「待ってよ。証拠が捏造されているんでしょ。やっちゃ駄目な事なんでしょ。あんた許さないでしょ、こういう事は絶対に」


 ねえ・・・ねえってば。と、房江は井上の肩を揺らした。激しく揺らした。

 井上は揺さぶられながらも、黙っている。


「大久保君。どうなの?これ。やっちゃいけないんでしょ。こういうことは」

 今度は大久保の肩を掴んで揺らす。が、大久保も黙っている。一向に反応しない。


 房江は、井上と大久保の異様な雰囲気から察して、

「もしかして、やったことあるの? やったことあるの? あんた達・・・」


 二人は答えなかった。

 その沈黙が、何より雄弁だった。


「私が聞いているのは、証拠の捏造だよ!」

 信じられない思いで二人を見た。


「奥さん、それ以上は・・・」

 久兵衛がうつむいたまま一言発した。


「どうなってんの・・・警察って・・・」


 警察は証拠の捏造をしない。

 なんてことは房江だって思ってはいない。冤罪事件だって山ほどある。しかし、そんな事をするのは出世欲に取りつかれた、一部の警官が手を染めることだと思っていた。


 出世なんか諦めていた自分の旦那には、縁のないことだと思っていた。


 房江は恐怖すら感じた。

 井上と大久保が信じられなくなったのではない。この二人は真面目で誠実だ。それは房江が一番よく知っている。だが、この二人を以てしても、このような不正を拒む事は出来ないんだ。そう実感した。


 この二人が断れないなら、警察官は、ほぼ全員、不正に手を染めているかもしれない。やらされているかもしれない。そう感じた。自分が思っているほど綺麗事が通用する世界ではない。

 改めて警察組織に恐怖をおぼえた。


 沈黙が続いた。


「ここまでだな。投了だ。これ以上の火遊びは危険だ・・・」

 井上の声は、やけに静かだった。


「駄目です。今回ばかりは目を瞑れません!」

 大久保が吐露した。


「何を言ってるんだ。破滅するかも知れんぞ。それに涼子ちゃんに何と言う。動くとなれば、何はともあれ彼女に話を聞かなきゃならん。彼女が相談に来たならまだしも、大きなお世話かも知れないじゃないか」


「大きなお世話で結構です」

「じゃあ、何をする? 君に一体、何が出来るんだよ」


 何も出来ませんよ!

「何も出来ませんでしたよ。今までは・・・でも、もう嫌だ。たくさんだ。俺、やめます、この仕事。警察やめます。何が出来るか分かりませんが、涼子さんに話を聞いて、弁護士にも相談して、黒幕でもなんでもいい。引きずりだしてやる。再審請求が叶わなくても、国賠訴訟がある。国家的詐欺だ、殺人だ、こんなもの、許してたまるか」


 ――あいつらは、涼子さんの太陽を奪ったんだ!


 大久保は、ポケットから憲法冊子を取り出し、喉が破れんばかりに読み上げた。


 日本国憲法第十七条――。

 何人も公務員の不法行為により、損害を受けたときは、法律の定めるところにより、国又は公共団体に、その賠償を求めることができるううううう!!!



 国賠訴訟とは国家賠償法請求訴訟のことだ。

 袴田事件再審請求や大川原化工機事件などが、近年でも世間を騒がしている。

 憲法十七条を具体化する法律として国家賠償法がある。



 あっはははは、あっはははは、あっはははは、ふわっははははは!


 井上が大笑いを始めた。ひとしきり笑った。

 そして、

「おい、坂本竜馬。生きてたか!・・・よしのった。勝海舟ものった」

「井上さん・・・」

「但し、やめるな。やめたら中の事が分からなくなる。俺は引退した身だ。よし、先ずは俺が動く。何かあったら後は頼むぞ。日本の大掃除だ!」

「何かって?」

「知らんよ。何が起きるかなんて。こんな事やったことはないからな。何も起きないかも知れんが、国家権力の非道さは君もよく知ってるだろ。覚悟がいるぞ」

「はい。あるのは覚悟だけです」

「じゃあ、まずは涼子ちゃんに話を聞きに行こう」


 とうとう、触れてはいけないものに手を出した。

 房江は、ゴクっと固唾を呑んだ。


 *   *   *


 木造二階立てアパート。二階の角部屋。

 そこが涼子たち親子の住まいだった。

 2DKの間取りは親子三人にとって決して広いとは言えない。

 井上と房江、大久保と久兵衛の四人は、まずは涼子の話を伺おうと訪ねて来ていた。


 二つある六畳間の一つ。

 リビング用の六畳間では、ローテーブルを囲んで、涼子と大久保と井上と房江の四人が神妙な顔をして座っている。


 となりの、子供達の机がある六畳間では、結花が画用紙に、クレヨンで久兵衛の似顔絵を描いている。久兵衛は結花の正面であぐらをかいて座っている。

「また子守りか」と、久兵衛が漏らす。

「動いちゃダメよ」

 結花は真剣な顔で言った。

 絵のモデルは動いてはいけないという事を最近知ったのだ。

「はいはい」

 この部屋にいるのは二人だけだ。


 翔太は、台所にある冷蔵庫から牛乳を取り出しコップに注いでいる。


 はじめに、大きなお世話だとは思いますが。

 と涼子に向かって、三人は深々と頭を下げ挨拶をした。

 それから話を切り出した。大久保たちは先日の自分達の見解を涼子に説明した。


 旦那さんは無実ではないか?

 トラックは止まっていたのではないか?

 取り分け証拠は捏造の可能性が高い。と


「大きなお世話です!」


 涼子が激しく突っぱねた。こんな涼子は始めて見た。三人とも言葉を失った。


 そして絞り出すように、

「もう子供達を巻き込みたくないんです」

 そう言って、涼子はぽつりぽつりと語り始めた。


 *


 当時、結花は小さかったのであまり覚えてはいない。

 問題は翔太だった。

 事件の証言をしたい翔太と、子供を事件から遠ざけたい涼子と、追い詰められていく被告人の風輔は、家庭内で軋轢を生んでいく。


 例の高裁での証拠捏造の申請が却下されたその日、風輔は酒をあびるほど飲んで帰宅した。

 俺は無実だ。

 と家の中で転がり回わった。それに翔太も同調した。

「かあちゃん、とうちゃんは無実だ。トラックは止まっていたんだ」

 翔太はこと有るごとに涼子にも訴えた。


 涼子は正直分からなくなっていた。夫も子供も信じたい。当然、はじめは信じていたが裁判が進むうちに何が真実なのか分からなくなっていった。とにかく、もうこれ以上は翔太を巻き込みたくない。という思いに駆られ、


「あんたはもう黙っていなさい!」


 翔太に怒鳴った。


 すると風輔が、

「おい、どういうことだ。翔太が言ってる事は本当だぞ。俺は無実だ。なあ、翔太。なんだ黙ってろって。どういうことだよ。え、どういうことだよ」

 風輔は涼子に詰め寄りつかみ掛かった。


 涼子はおびえ切った目で、風輔を見るしかなかった。


「なんだその目は。お前も俺を疑っているのか。疑っているのかよ!」

 風輔は、涼子の頬を打った。

 乾いた音が部屋に響いた。

 ふざけるなっと言って、もう一度振りかぶった。


 翔太が風輔に飛びついた。

「とうちゃん、やめろ、やめろ!」


 風輔はハッと我に返り、

「何をやってんだ俺は。何をやってんだ俺は!・・・すまん、すまん、すまん」

 と泣き崩れた。


 涼子も翔太も泣いた。

 小さい結花も隣の部屋で泣き出した。

 風輔が涼子に手をあげたのは後にも先にもこれ一回だが、この一回は家族全員の心に深い痛手として刻まれた。身も心もすべてがボロボロの状態だった。今にも家庭が崩壊しそうだった。


 *


「もう思い出したくないんです。これ以上はほっといて頂けないでしょうか」

 涼子は、大久保と井上夫婦にそう言って顔を伏せた。


「ごめんね。出過ぎた真似だったよ」

 房江はそう答えるのがやっとだった。

 大久保と井上は固まったまま身動きも出来なくなってしまっていた。


 台所では、翔太が牛乳の入ったコップを握りしめ、

 大人達の会話をこっそり聞いていた。


 *   *   *


 のどかな昼下がりだった。

 ぽかぽか陽気で、事件も無い。

 ずーっと、こんな平和な日々が続けばいいのにと思わざるを得ない、昼下がりだ。


 交番の奥の部屋。

 大久保と井上が向かい合って、のり弁とシャケ弁をいつもの様に食べている。

 が、いつもと雰囲気が違う。ギスギスとして、乾いた空気が漂っている。


 つい先日は、涼子の夫の無実を晴らし、警察のどす黒い闇を暴いてやろうと息巻いていた。

 二人は坂本竜馬と勝海舟として手を取り、まさに、

 日本を今一度せんたくいたし申候。

 と誓い。いざ出陣した。

 そして、涼子の自宅に向かったのである。


 が、涼子に、大きなお世話です。

 と跳ねのけられ、手も足も出なくなってしまった自分達が情けなかった。

 腹が立って仕方がなかった。その怒りの矛先が見つからない。


 井上は大久保に対して、

「情けない」

 と、一言。シャケを口に運びながら射貫くような視線を送った。


 大久保もチラッと井上を見返して、

「そっちこそ」

 と、顎をしゃくった。


 井上がボソボソとした口調で嫌味ったらしくつぶやいた。

「大きなお世話するんじゃなかったのかよ」

 大久保も吐き捨てるように、ボソっとつぶやく。

「したかったですよ。でも、ほっとけって言うんだから仕方ないでしょ」


 あんときはカッコよかったけどな。と、井上。

「日本国憲法第十七条! なんて、張り上げちゃってな」


 大久保はムッとした。

「誰かさんも・・・なにかあったら後は頼むぞ。日本の大掃除だ!って、カッコよかったですよね。なにかありましたかあ? なにもなさそうですな? ははは」

 力なく笑ってフライを一口くちにした。

 井上もかなりムッときた。


「くそ~、この坂本駄馬が! 駄馬、駄馬、坂本駄馬」

「はあ、そっちこそ、負け海舟! 負け、負け、負け海舟う」


 見苦しい。の極みである。


 この、大のおとな二人は、自分達の無力さを、お互いに擦り付け合う事でなんとか溜飲を下げているのだ。


 井上が思わず言った。

「男らしくないよ君は。竜馬を語る資格はないな」

「僕はね、竜馬より男らしいところがあるんですよ」

「どこがだ」


 大久保は腕を組んだ。

「涼子さんに面と向かって、結婚して下さい。って言いました。直接ですよ直接」

「・・・ところが、竜馬はどうですか?おりょうさんに直接プロポーズしていません。おりょうさんを横に置いたままで、子分の藤兵衛に向かって、こう言ったんですよ」


 おれは、このおりょうさんを好きらしい。きっと、嫁にするつもりじゃ。

 先方はどうかわからんが、お前からもよく頼んでおいてくれ 

(司馬遼太郎「竜馬がゆく・文藝春秋」より引用)


 あくまでも、小説『竜馬がゆく』のワンシーンである。

 司馬遼太郎の演出だと思われるが、大久保は、それを史実だと信じて疑っていない。


「これだけは解せませんな僕は。面と向かって言わないんだもの。おりょうさんに。照れ臭かったのかなあ、さすがの竜馬も。ビシッとストレートに行きましたからね。こっちは。男らしく」

 と、勝ち誇ったような顔をする。


「だったら男らしく、子供達にも言ったらどうなんだ」

「え・・・」

「お母さんと結婚させて下さいって、はっきり言えよ」

 大久保は面食らった。


 以前、翔太に引導を渡された事は井上にも伝えてある。

 が、その上でこの人は突撃しろと煽ってきた。

 玉砕を恐れず突っ込んで見ろ。と言っているのだ。


 いつまでもこの状態をずるずると引きずっていてはいかん。

 と自分でも思っていたところだ。頭では充分理解できる。

 だが、まだその時機ではない。機は熟していないんだ。と、自分を誤魔化していた。


「怖いんだろ。怖いんだろ。あの子達に向き合うのが。それのどこが男らしいんだ・・・」

「普通ならお嬢さんを下さいって言うもんだが、君の場合は、子供達に言わなきゃならんだろうが。えっ! お母さんと結婚させて下さいってな!」

 井上の言葉は、大久保の胸に突き刺さった。


 が、その時、


 ガチャッとドアが開いた。

 翔太が入って来た。

 横にあるパイプ椅子を出してチョコンと座った。

 大久保と井上は呆気にとられた。

 聞かれたか? と思った。


「僕もこの春で六年生になりました。そろそろだと思っていました。そして、おじさん達は、少しは見込みのある大人のようですね」


 翔太はこの時を待っていた。

 父親の無実を聞き入れてくれる大人がようやく現れた。と思ったからだ。

 しかもあれだけ憎んでいた警察の中に現れた。機は熟した。そんな想いだった。

 さらに言うと、「そろそろだと思っていました」という翔太の言葉には深い意味がある。

 というのも、自分にもそろそろ実力が備わって来たという自負が生じてきていたからだ。


 実力とは何ぞや。


 大人達に自分の意見を認めさせる実力の事だ。

 日頃の訓練を通してその実力は養われた。訓練はどこで積んできたのか?

 吉田先生との会話の中でだった。

 吉田が『勝負』と呼んでいたあの大人びたやり取りは、翔太にとっては『訓練』だった。


 事故当時、警察や周辺の大人達は誰一人として、自分の話を聞き入れなかった。

 その悔しさは翔太の心に深く刻まれた。


 5年生の二学期に転校してきて担任の吉田先生と話をしていると、

 ある日、吉田先生が「一本とられたよ」と言った。

 この時、翔太の中で自然発生的に「訓練開始」のゴングが鳴った。

 一本じゃ足りない。百本とってやるんだ。

 そう決意し、見事半年で百本とることが出来た。


 吉田先生はいい先生だ。何も知らず翔太の訓練に付き合ってくれていた。

 だが、そんな吉田には悪いが、翔太は先生に好意を抱く暇すらなかった。

 唯必死で、一本、一本を積み重ねることに集中した。そしてやり遂げた。

 結果、実力が備わったという自負が沸き上がっていた。



 翔太はパイプ椅子に座ったまま、胸を張ってきっぱりと、

「とうちゃんは無実です」

 と言った。


 大人二人にしてみれば、たった今、この子には聞かれたくない話をわめき散らしていたところだ。大久保は青ざめている。

 井上が聞いた。

「翔太君。おじさん達の話をいつから聞いていた?」

「はあ?なにも」

 翔太はキョトンとしている。


「ほ、ほんとうか? き、きみは噓をつくのが得意だからな。ああ、いやなんでもない」

 大久保は引きつり過ぎて、余計なことまで口走ってしまった。


「しつこいなあ。僕の話は聞いてくれないの? とうちゃんは無実なんです」


 どうやら、プロポーズの件はバレてないようだ。

 大久保はとりあえずホッとした。

 大久保が涼子に惚れていることは周知の事実だったが、まだこれだけは子供たちにバレたく無かった。子供達には、ちゃんと自分からお伺いを立ててけじめをつけたかった。この思いだけは強かった。


 で、翔太の話だが、そんなもの、はいそうですか。とは行かない。

 つい先日、涼子に、子供達を巻き込みたくない。と言われたばかりである。


 井上がふと気づいた。

「待て、学校はどうした? 学校は」

「今日は創立記念日なので半日で終わりました」


 ドアがまた開き、結花が顔を出した。

「お兄ちゃん、まだ?」

「ユカちゃんもいるのか!」

 大久保と井上は揃って驚いた。


「ユカ、待ってろって言っただろ。お兄ちゃんは大事な話があるんだ」

「大事な話って、いいか翔太君。子供がするような話ではないんだぞ」

 大久保がたしなめた。

「だからユカには聞かせられないんだ」

「坊主。お前も立派な子供なんだぞ」

 井上もたしなめた。


「じゃあ、おじさん達は立派な大人なのかよ」

「うっ・・・それを今悔やんでいるところだったんだよ」

 井上は、たった今、見苦しく罵りあっていた自分達の姿を思い出した。


「ほら見ろ。立派な大人でもないくせに、子供には、立派な大人になれって言うんだよな」


 大久保はカチンときた。口の減らないガキだと思った。

「コラッ! 子供のくせにそんな口利くんじゃない」

「やはりそうか。いつまでたっても警察はダメだな。善良な市民の話を一度も聞こうとしないじゃないか!」


「こ・の・く・に・に・せ・い・ぎ・は・な・い・ん・で・す・か」

 翔太が足をバタバタさせながら、大声で駄々を捏ねるように言った。


「分かった。分かった。分かった。とりあえず改めてって事にしよう。ユカちゃんもいる事だし・・・今日のところはお引き取り願えないでしょうか?」

 大久保、今度は平身低頭になってしまった。揉み手も出た。


 ドアがまた開いて、今度は久兵衛が顔を出した。

「ユカちゃん、まだ?」

「久兵衛!」

 今度はお前か。お前はそこで何やっているんだ。

 と井上に詰められる久兵衛。

「さっき、そこで二人に捕まって今から公園で遊ぶんでさ・・・まったくもう・・・」

 一応は迷惑そうな顔をしている。


 翔太は舌打ちをして、

「ちぇ。今日のところはってか・・・仕方がない。改めてって事にしてやる。みんな行くぞ」

 と、声を掛けた。すると、

「へい、親分」

 結花と久兵衛が揃って返事した。

 どうやらすでにお約束が出来上がっているようだ。


 大久保は交番の前に立ち、久兵衛と翔太と結花の三人が、手を繋いで帰っていくのを見送った。

(なんであの二人あんなにキュウさんになついているんだ)

 と思っていると、井上が言った。

「久兵衛はな、孫が出来たみたいに思っているんだぞ。最近、公園であの三人が一緒にいるところをよく見かけるよ。あいつも独り身だから、孫には縁がないと思っていたんだ。そこにあんな可愛いのがなついてみろ。分かってやれよ」


 すると、結花が振り返って、一人で大久保のもとに走り寄って来た。

「おじさん。おかあちゃんの誕生日知ってる?」

「いや・・・」

「明日だよ。じゃあね」

 と、言い残して去った。


 え、あ、そう・・・誕生日、明日なの。

 え、どうしよう、プレゼント買ってないぞ。

 え、ユカちゃんが教えてくれたぞ。こいつはポイント高いぞ。やったぞ。やったぞ。

 まてまて、プレゼントは? どうしよう、どうしよう。

 と、プチパニックを起こす、大久保であった。


 *   *   *


 次の日、大久保はいつもの様に弁当を買いに来ていた。

 弁当を受け取った後に、小さな包みを涼子に渡して言った。

「これ、誕生日のプレゼントです。昨日ユカちゃんから聞きまして、ユカちゃんから」

 結花ちゃんアピールは、しっかりとやった方がいいと思った。


「あら、やるじゃん。大久保君、そういうの大事だよ」

 そばにいた房江がそう言ってくれた。


 涼子も嬉しそうに受け取って、開けていいですか? と聞いてきた。

「もちろん」

 中身はピンクのバンダナだ。


「涼子さん、三角頭巾を日替わりで色を変えているじゃないですか。今までピンク色のを見た事がなかったので似合うのではないかと思って・・・是非、今度してみて下さい」

 大久保はそう言い残して立ち去った。

 歩いて帰っていると、しばらくして後ろから声がした。


「大久保さ~ん」

 と、涼子が走って追いかけて来た。

「大久保さん。これ、私、頭に巻けないかも・・・」


 話を聞いてみると、

 三角頭巾にはそれぞれ意味があるとのこと。

 曜日で色が決まっているのだと言う。どういうことか?

 *

 元々は亡くなった夫・風輔が曜日オンチであったことから始まった。

「今日は何曜日だっけ?」と、風輔はよく聞いてきた。

 涼子が工夫して、お弁当と水筒を包むバンダナを曜日毎に色分けした。

 お弁当と水筒は、トラックの運転中に助手席に置いてあるので、一目瞭然で曜日が分かる。

 風輔の仕事は休日が不規則だった。


 日曜日は真っ赤な太陽から   赤

 月曜日は真っ白なお月様から  白

 火曜日は日曜で赤を使ったので オレンジ

 水曜日は文字通り       水色

 木曜日はこれも文字通り    グリーン

 金曜日は金に似た色で     黄色

 土曜日はシックな       ブラウン


 これが、バンダナの曜日ルールだった。

 風輔が亡くなった後も涼子はこのルールが抜けきらず、

 包むお弁当を作らなくなったので、三角頭巾として頭に巻きだした。

 今日は木曜日なのでグリーンだ。


 大久保は申し訳なさそうに、

「そんな理由があったんですか。すいません、そうとは知らず余計な事をしてしまって」


「いえ、余計な事なんかじゃありません。私、嬉しいですよ、これ。有難う御座います。ただ、頭に巻いたところを見たいとおっしゃったので、私の事情を正直に話した方がいいと思ったんです。今のところは各曜日で色が決まっているんです。ごめんなさい。でも、他にも使い道はあるので、使わせて頂きますよ。有難う御座います」


「はい、そうですね。使って頂けたら嬉しいです」

 そう言って、大久保は、静かに歩いていった。


 涼子は、その後姿を見ながら、胸が締め付けられるような想いがこみあげてきた。

 *

 そして次の日。

 涼子は黄色い三角頭巾を頭に巻き、昨日のプレゼントのピンクを、首に巻いて働いていた。

「早速、使わせて頂いております」

 弁当を渡されながら、大久保は、お礼を言われた。


 嬉しかった。

 お、お首に俺のピンクが・・・可愛いい。

「涼子さん、似合いますよ。ソレ。僕の目に狂いはなかった。いいです。いいです」

 と、はしゃいでいたら、

「お・ま・わ・り・さん」

 と言って、派手な格好の女の子が大久保の腕にしがみついてきた。


 見ると、車塚のキャバクラ『ローズヒップ』の満里奈だった。

「もう、最近全然お店来てくれないじゃない。どうしたの?」

「わ、満里奈。よせ、よせ・・・」

 大久保は、満里奈の手を振りほどこうとした。


 涼子が、満里奈ちゃん? と声を掛けた。

「あれ、みなみさん?・・・お昼も働いているって言っていたのは、ここだったの?」

 涼子と満里奈は、店が隣同士でちょっとした知り合いだったのだ。

 みなみ、は――涼子の源氏名だ。


 満里奈は大久保の腕にしがみつきながら、

「あ、分かった。最近うちに来てくれないと思ったら、みなみさんのお店に鞍替えしたな・・・この浮気者~」

 甘ったるい声を出してきた。


「何を言ってるんだ、お前・・・よせ」

「ねえ、みなみさん。このお巡りさんエッチだよね。身体検査されてない?私なんか毎晩されてた時あったわよね・・・」

 満里奈が大久保をキュッとつねった。


「や、やめてくれ。頼む、頼む・・・」

「また来てね。身体検査しに。待ってるからね・・・バイバイ」

 と言って、満里奈は行ってしまった。


 大久保は涼子に向かって、

「あ、いや、これは、あの、その・・・」

 と、言葉にならず、しどろもどろになってしまった。


「大久保さん、そう言えば今日は唐揚げのサービスがありました」


 そう言って、涼子は厨房から揚げたての唐揚げを、菜箸に刺して持ってきた。

 大久保はなにがなんだか訳が分からず、とりあえず手に持ってた弁当の蓋を開け、

 その中に入れてもらおうとした。


「何やっているんですか?口開けて下さい・・・はい」

 といい、涼子は大久保の口の中に、アツアツの唐揚げを突っ込んだ。


 ――あちっ、あちあちあちっ。


「毎度有難う御座いました」

 と言って、プンっと涼子は店の奥に引っ込んでしまった。


 房江はその様子を一部始終見ていて、

「うん、順調、順調」

 と、つぶやいた。


 *   *   *


 ブランコに並んで座っている二人。

 大久保と翔太だ。

 公園にやって来ていた。


 この日、大久保は非番だったので私服で来ていた。

 パッと見には父親と息子が遊んでいる様に見える。

 が、会話の中身はそうではない。


 トラックは止まっていた。

 乗っていた本人が言うんだから間違いない。


「あのな、正直に言うが、お母さんから君を巻き込むなって言われているんだ」


 ――巻き込んだのはそっちじゃないか。

「警察が噓をついてとうちゃんを死なせたんだぞ。おじさんだってそう思ってるんだろう。だから、かあちゃんに、それを言いに来たじゃないか。」


「聞いていたのか。だったらお母さんが苦しんでいるのは分かってるだろう」


 ――おじさんにかあちゃんの本当の苦しさが分かるのかよ。

「とうちゃんが死んでからどんだけかあちゃんが苦しんできたか、知ってるのかよ!」

 翔太は、うつむいた。


 ――とうちゃんが信じられなくなっているんだぞ。


 大久保はハッとした。


「それが一番苦しいんだ。一番つらいんだ。だからこそ、とうちゃんの無実を晴らさないとかあちゃんがダメになっちゃうんだ。ダメになりそうな、かあちゃんを何回も見てきたよ。それを必死で隠して、必死で頑張って、子供の為に一生懸命働いてるんだぞ。うちのかあちゃんは!」


「そのかあちゃんを守ってくれって、僕はとうちゃんに頼まれた。はじめ何のことだか分かんなかった。・・・翔太、勉強しろ、勉強しろって、言ってた。とうちゃんバカだからこんな目にあった。勉強してかあちゃん守ってくれよって」


「とうちゃん・・・」

「とうちゃん・・・」


 翔太の涙が止まらなくなった。


 ブランコの鎖を、ぎゅっと握り締めた。

 大久保は、何も言えなかった。


 *   *   *


 大久保は自転車に乗ってパトロールに回っていた。

 公園の横を通り掛かったとき、ふと自転車を止めた。

 見ると、砂場に結花と久兵衛がいた。

 ベンチには翔太と涼子が座っている。

 四人が公園にいた。涼子は真っ赤な三角頭巾をしていた。


 そうか、今日は日曜日だ。赤い三角頭巾は日曜日の色だ。

 大久保はしばらく四人を眺めていた。声を掛ける必要はないと思った。

 ほのぼのとして見ていた。久兵衛じいちゃんも悪くないな。と思った。

 そして、また自転車をこぎだした。



 パトロールを済ませ交番に戻り報告書を作成していた。

 机に座って仕事をしていると、先程公園にいた涼子が翔太と結花を連れ、血相を変えて飛び込んできた。


「大久保さん! 久兵衛さんが逮捕されちゃった」

「えっ!」

「公園で遊んでいたら、いきなり私服の刑事さんがやって来て、逮捕して連れて行っちゃった・・・どうして・・・」


 涼子は今にも泣きそうな顔だ。

 翔太と結花も動揺している。


 今度は房江が走ってやって来た。


「大久保君。うちの旦那がパクられた!」

「はあ?」


 房江の話によると、

 自宅に刑事がやって来て、井上は『窃盗の共謀共同正犯』の容疑で逮捕され、あっという間に連行されたという事だ。

 共謀共同正犯とは、簡単に言うと、犯罪を裏で操って自分でやらずに他人にやらせた。

 という罪である。


 例の捏造証拠である『ブレーキ痕の写真』を、

 久兵衛が盗んだとでっち上げ、しかも裏で糸を引いたのは井上である。

 と、これもでっち上げたみたいだ。

 まあでも、裏で糸を引いたというのは、そう外れてはない見方ではある。


 ただ、久兵衛はちょっと拝借してすぐ証拠品係に返している。

 確かに昔は空き巣の常習犯だったが、今更窃盗なんて言われる筋合いはない。


 証拠品係が裏切って久兵衛のことをちくったのだ。

 この証拠品係はある事件の証拠となる押収物の『現金』に手を付けていた。警察ではよくある話だ。それが発覚した時に、大目に見てもらう代わりに久兵衛の首を差し出した。

 久兵衛と井上の関係をよく知っている警察は、井上のことも当然疑った。


 今回の黒幕は、久兵衛と井上が白バイ事件に関心を持って嗅ぎまわった事が、よほど気に喰わなかったと見える。どんな罪でもでっち上げ二人を逮捕したに違いない。


 それにしても警察は恥知らずな事をやる。

 井上が現役時代は、久兵衛が情報を集め、井上が事件解決の糸口を掴むことがしょっちゅうあったではないか。何度もそれで表彰を出してきたではないか。あの二人には相当世話になってきたのが実情ではないか。


「くそー。俺、ちょっと行ってきます。署長に掛け合ってやる!」

 大久保は怒りが込み上げ、走って交番を飛び出した。

 房江が大久保の後を追いかけた。


「待ちなさい!」

 房江が大久保を呼び止め、すぐそこにある欅の木の裏に引っ張って隠れた。


「そこで、うちの旦那から伝言。動くなって。どうせこんなのは見せしめだから、長くは拘束できないはず。やはり得体の知れない大きな力が暗躍しているって。下手に動くと、涼子ちゃんに迷惑を掛ける事になるかも知れないって」

「そうですか。井上さんがそう言うなら・・・」

 大久保は少し落ち着きを取り戻した。


「私が・・・何ですか?」


 涼子が翔太と結花を連れて立っていた。


「どういうことでしょうか? 私がなにか関係しているのでしょうか? 一体なんのことでしょうか? すいません教えてください!」


 涼子は必死になって問い掛けた。

 思い当たる節などはない。

 だが、知らないうちに他人に迷惑を掛ける事を起こしてしまったのか?

 こういう時の涼子は過剰な反応を示す。

 涼子の様子に、大久保と房江はたじろいだ。

 不味いことを聞かれてしまった。と思った。


「ちょっと待って下さい。翔太! 今度は何やったの?」

 涼子が翔太を詰めだした。

「あんた、久兵衛さんに何か、けしかけたんでしょ。」

「そうでしょ! またなんかやったんでしょ!」

 翔太の肩を押さえて揺すっている。


 大久保はそれを見て直感した。


 ――この人は、旦那さんだけじゃない。翔太君も信じられなくなっている。


 今度は何やったの。何やったの!

 涼子が翔太に右手を振り上げた。


 ガッと、大久保がその手を掴んで止めた。


「涼子さん。あんた間違っている。間違っているよ」

「なんですか」

「翔太君はそんな事、していない」

「なんで分かるんですか。この子はいつも人様にご迷惑を掛けて」

「いえ、久兵衛さんがそんな事させないんです」


 大久保は、掴んでいた涼子の手をゆっくり下げて、離した。


「久兵衛さんは僕と違って、けしかけられて簡単に乗るような人じゃありません。仮に、翔太君にそんなことをされても、見抜いてしまうでしょう。警察が逮捕しに来るような事なら尚更です。必ず翔太君を止めます。そんなことはありえません」


「なんで言い切れるんですか。久兵衛さんが翔太の何を分かっていると言うんですか」


「久兵衛さんはこの子たちを孫みたいに思っています。涼子さんと一緒で事件なんかに巻き込みたくはないんですよ。あなたと同じ思いです」


「翔太のことを知らないからそんなことを言えるんです。私はこの子の親です。親だから分かることがあるんです。責任があるんです。やっていい事と悪い事を、教える責任があるんです。大久保さんは私の苦労なんか知らないから言えるんです」


「僕は知らないかもしれない。だけど、この子はよく知ってる」


 翔太は黙っている。


「言ってる意味が分かりません。私には。失礼します」


 そう言って、涼子は翔太と結花を連れて帰って行った。

 房江は、涼子達の帰っていく姿を不思議そうに見つめた。


「帰っちゃった。どうしちゃったのかしら。涼子ちゃん」

「帰ったというより、逃げてしまった。と言った方があっているのかもしれませんがね。言い方が悪いかなあ。そうだな・・・自己防衛本能が働いた。とでも言うべきかな?」

「どういうことよ?」


 大久保は、今感じている涼子に対する見解を房江に説明した。

 たどたどしい説明であった。

 自分でもはっきりしているわけではないが、今までの涼子の行動や、先日の翔太との公園での話などから、何となく浮かび上がってきた感覚を房江に説明してみた。

 涼子の異様な反応には、房江もなにかあると感じたので、合点がいった。


「う~ん・・・なんか分かる気がするよ。似たようなことを私も感じたからね」

「どうしたものですかね・・・」

「はあ、決まってるじゃないか。こういう時はね、とことん突っ込むんだよ」

「でも、大きなお世話って言われちゃいますよ」

「情けないね。あんた、あの娘の事が好きじゃないのかい」

「好きですよ。もちろん」

「もう、最近ウザいね。口ばっかりなんだから、あんたは」

「なんだかな。どうすればいいんですかね。僕は」

「面倒くさいね。全部引き受けるんだよ。一切合切全部。警察まで辞めようとして一度やろうとしたじゃないか。あの時を思い出しな」

「でも、大きなお世話って言われたんですよ」

「いいかい。今やらなきゃならないのは、大きなお世話じゃないのさ」

「じゃあ、なんですか?」


「大き過ぎるお世話だよ!」


 大久保は、思わず息を飲んだ。



 第19話 終


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