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県立防衛幼年学校  作者: 茅野平兵朗
第4章 『桜花』大地に屹立ス!
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94 ルムルーモは舞い降りた!

「フン、フーフフフーフ、フーフフフーフ、フーフフフーフ、フーフフフー♪」


 ダウンウォッシュに前髪を揺らしながら、『ワルキューレの騎行』を口ずさむ竜洞家家令鳳翔絢の唇はアルカイックに歪んでいた。

 竜洞家の広大な芝生の裏庭を埋め尽くすように並んだ大型ティルトローター機は、その腹の中に大勢の兵士を飲み込んで、離陸の命令を今や遅しと待っている。


「Hjotoho!、Hjotoho!、Heiaha!、Heiaha♪」


 普段はクラシックな執事服で隠している豊かなボディライン。それを際立たせるように設えられた斑模様の迷彩服に身を包み、鳳翔絢はストップウォッチを手にして、タクティカルブーツのつま先でリズムを刻んでいた。


「少佐! 救出隊出撃準備完了! いつでもいけます!」

「ふふ、最短記録だぁねぇえ、上出来だぁよ! ご苦労さん、暁」


 ストップウォッチのボタンを押して鳳翔はニヤリと口角を吊り上げた。


「ありがとうございます少佐!」

「ねぇ、暁、強襲降下機材はぁ、どんなもんだぁい?」

「これまでの訓練では100%です! 転倒などの事故は皆無です! まさに今回の作戦のためのような機材ですね」

「だぁねぇ、ほんと、備えはしておくもんだぁねぇ」

「ええ、閣下がご存命の頃から、密かに地下格納庫を建造して、ティルトローター機やらラヴ(軽装甲車)やら揃えてましたから」


 鷹揚に頷いて鳳翔がヘルメットのアゴ紐を締める。


「じゃあ、行こうか!」

「あ、少佐、先行して制圧射撃を実施するガンシップに大音量スピーカーとコンポ、ショルティ指揮ウィーンフィルの65年版を用意しておきました」


 鳳翔に追従する暁がついでのようにした報告に、鳳翔は目を見開き破顔した。


「ぉぉおおおおおッ! それはいい、そぉれはぁ、私のぉいぃちばぁんのお気に入りさぁ! パーフェクトだ暁ぃ、お手柄だぁよ、勲章を申請してぇあげよぉ」

「感謝の極み!」


 鳳翔が暁の両手を握りブンブンと激しく振り回す。

 暁もまた破顔して鳳翔の両手を握り返す。


「私はねぇ、暁ぃ、キルゴア中佐の亡霊に取り憑かれているんだぁよ!」

「ははは、そんなこと言ったら、部隊全員そうですって」

「あはははぁ、そうだねぇ、そうだねぇ! じゃあ、身の程をわきまえず、攻め込んできた奴らにどこの誰様に手を出したのかを教育してあげよぉねぇ」

「了解であります! 莫大な授業料を請求してやりましょう!」


 そうして二人はティルトローター機の後部カーゴドアから乗り込み、既に積載されていたコンテナ状の構造物に設えられたハッチの中に入る。


「「「隊長!」」」「「「少佐!」」」


 鳳翔と暁を迎えたのは、頑丈そうな椅子にシートベルトで固縛された完全武装の兵士たちだった。

 二人は兵士たちと向き合うように配置されている椅子に腰掛け、シートベルトを留める。


「失礼します」


 背後から声をかけたティルトローター機の貨物クルーがシートベルトを締め上げた。


「ぐえ!」

「うぐぅ! おいおい、もうちょっと手加減してくれてぇもいいんじゃなぁいかぁい。そんな親の仇を絞め殺すみたいにしなくたってぇ……」

「卸下中にコンテナの中を跳ね回りたいのなら手加減いたしますが?」

「それはぁごめんだぁね、ミンチになってしまいたくないからぁねぇ」

「はい! 縛帯ヨシ! ハッチ閉鎖します!」

「ああ、ありがとう! お世話になるよ」

「了! ご武運を!」


 敬礼して貨物クルーがコンテナから退出しハッチを閉める。


「あー、あー、テステス、機長聞こえるかぁい」


 ヘルメットに付いたブームマイクで鳳翔がティルトローター機の機長に話しかける。


『はいはぁい! 感度良好であります』


 どこかオチャラケたような陽気な声がコンテナ内に流れる。


「でぇは、進発しようかねぇ!」

『了! ……ッえ? え? 少佐! あの、スパイナーとアルジェンテが乗ってきたって貨物室から言ってきたんだけどどうする?』


 竜洞家の飼い犬と梓の使い魔のサーベルタイガーの闖入にため息をついて鳳翔は苦笑いを浮かべる。


「はは、機長、同乗させてやってくれるかぁい」

『了! 積載量にはかなり余裕があるから大丈夫。前の型だったら乗せてあげられなかったよ、重量オーバーで』

「すまないね機長。その子達も坊ちゃまとお嬢様が心配でしょうがないんだぁよ」

『オーケーオーケー、では、一番機、進発する!』

「ルムルーモ出撃ッ!」


 鳳翔の声とともにエンジンが回転数を上げ、くノ一部隊月光(ルムルーモ)を乗せたティルトローター機が次々と離陸してゆく。


『アテンションプリーズ、毎度ヘルズエアラインにご搭乗いただき、誠にありがとうございます』


 陽気なティルトローター機の機長の声がコンテナ内に流れる。


『当機は只今竜洞家ヘリポートを定刻通り離陸、約3分の飛行で皆様を砲煙弾雨の巷へ卸下いたしまぁす。非常に短い時間ではございますが快適な空の旅をお楽しみくださいませ』


 この機長のアナウンスはしょっちゅう訓練でティルトローター機に搭乗している隊員たちにとって、毎度毎度のことなのだろう。あちこちからクスクスと笑いが漏れ聞こえる。

 そんな彼女たちを見回し、安堵したように鳳翔は口角を上げる。久しぶりの実戦への恐怖が見て取れなかったからだ。

 そして、大きく息を吸い込む。


「諸君! 我々の任務は何だ!」


 鳳翔が隊員たちに声を張り上げ問いかけた。それは、いつもののんびりとした声音でなく、まさに軍人の見本のような声だった。


「「「「殲滅! 殲滅! 殲滅! 殲ッ滅ッ!」」」」


 声を揃え、隊員たちが叫ぶ。


「そうだ殲滅だ。一匹残らずの殲滅だ! 竜洞家に集る蛆虫共をこの世から殲滅し尽くすのが我々の存在意義だッ! 我々の血の最後の一滴まであの方に捧げると誓った日のことを思い出せ!」

「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!」

「ルムルゥーモ! いぐぞッ!」「応ッ!」「いぐぞッ!」「応ッ!」「いぐぞッ!」「応ッ!」


 コンテナ内のテンションは今や、爆発寸前にまで張り詰めた。


『機長より隊長へ、ガンシップが制圧射撃を開始する。爾後、当機は予定通り超超低空で侵入する! 降下1分前』

「機長へ、音楽を鳴らせ!」

『了! ガンシップ、音楽の再生を開始、制圧射撃を開始した。降下30秒前!』


 鳳翔たちを外界から隔てているコンテナの壁を伝って、機銃の掃射音やロケット弾の爆発音とともに『ワルキューレの騎行』が漏れ聞こえてくる。


『抽出傘開傘! 降下用意!』

「了ッ! 総員安全姿勢を取れ! 衝撃に備えろッ!」

『ヨーソロー、ヨーソロー! 降下5秒前! 3、2、1ッ! コンテナロック解除! 降下! 降下! 降下ッ!』


 ガクン! と、後ろに引っ張られるような軽い衝撃に続いて、一瞬の浮遊感。そして、ガツン! という、地面に叩きつけられる衝撃。床下から聞こえるガリガリという滑擦音。鳳翔たちは上下左右に揺さぶられる。

 わずか数秒のことだが。コンテナの中の鳳翔たちにはその何十倍もの時間に感じられる。

 やがてコンテナが停止する。


「一番機降着成功!」

『二番機降着成功!』

『三番機降着成功!』

『四番機降着成功!』


 鳳翔の無線機のスピーカーから他の小隊のコンテナの降着成功を伝える声が聞こえる。


「了、縛帯開放! 各機ハッチ開け! 攻撃を開始する」

『『『了解!』』』 

「コンテナ後方確認ヨシ! 敵影ナシ! 後方ハッチ開け!」

「ハッチオープン! 総員卸下! コンテナ展開!」


 コンテナの両サイドが左右に開き、防弾のバリケードになる。

 敵にしてみたら驚愕であろう、目と鼻の先に小銃陣地ができてしまったのだから。


「敵、組織的反撃を実施せず、制圧可能!」

「着け剣ッ!」

「「「「「「着け剣ヨシッ!」」」」」

「突撃準備ぃッ!」

「「「「「「突撃準備ヨシッ!」」」」」

「突撃! 前にいィッ!」

「「「「「「「「ぅおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」」」」」」」」


 こうして、ルムルーモは戦場に舞い降りたのだった。

毎度ご愛読誠にありがとうございます。

並びにブクマご評価もまた、ありがとうございます。

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