101 El paso adelante al infierno.
お待たせいたしました。
「おおッ!」
ス○ー・ウォーズだ! ストー○トルーパーだ!
と、いう叫びを俺は飲み込む。
いや、だってそうだろう? 断然こっちのほうがかっこいいからな。
「ん? どうした竜洞。ああ、この鎧か。こいつはな、17式歩兵装甲だ。対IELFHM戦装備の中核をなす装備だ。奴らの体液は猛毒だからな、これ無しでは奴らとの白兵戦は不可能だ」
なるほどこれが対IELFHM戦装備というやつか。どうやら、俺がこれからロボで戦う相手は、有毒な体液を持つ生き物のようだ。
「そしてこれが、17式12.7ミリ装甲歩兵小銃だ。口径こそブローニングM2と同じだが段違いの威力の弾体を発射することが可能だ」
長門教官が野分軍曹から、SFチックなかっこいい銃を受け取り、槓桿を引いてみせる。
排莢口から見える弾は、つい昨日俺たち“失われた分隊”が射撃訓練でさんざんぶっ放した5.56ミリ小銃弾の数倍はあろうかというばかでかさだった。
「17式装甲歩兵小銃はな、奴らに効果的なダメージを与えるために、大口径化、高初速化が図られた弾丸の連続発射に耐えうる構造になっている。当然、反動もそれなりで、重量も相当だ。生身でこれを撃てる人類を私は一人しか知らない。この小銃で戦闘するための装備がこの17式歩兵装甲というわけだ。ちなみに絢……もとい、鳳翔少佐……ああ今は戦時昇進して中佐か、やつが指揮するルムルーモも、この装備で滑走路に展開している。ちなみに私も現役復帰並びに三階級特進で陸軍歩兵大佐だ」
って、いるのかよそれを生身で撃てる人類が! いや、それよりも、鳳翔さんたちがこの鎧着て専用銃を装備してるって! 一体何と戦うつもりだった竜洞家! いや、IELFHMとかいう有毒体液の連中なんだろうが……。
ってか、三階級特進ってありえないだろ! 戦死したって二階級特進止まりだろ!
「竜洞、あまり時間がないが質問を許可するぞ」
長門教官がいたずらっぽく微笑む。
「はあ……、と、いうか何からツッコんだらいいのやら……」
溜息しか出ねえ。ツッコミどころが満載すぎるだろ!
「ま、そうだろうな。三階級特進なんて、建国以来1人しかいないからな」
いたのかよッ! そんな常識はずれがあんた以外に!
心の中で俺がそう叫んだその時、長門教官と特殊部隊の方々が踵を鳴らして姿勢を正す。
「践祚され、帝国陸海軍大佐から帝国陸海軍大将に昇進、帝国陸海軍の最高指揮官たる大元帥に就かれた昭和の大帝陛下だけだ」
って、それ特例中の特例やん!
「ああ、ちなみにだが、生存中に二階級特進したものは健軍以来10人ほどだが、貴様の父上もその中のひとりだ。二階級特進を二度されたのは後にも先にも貴様の父上だけだ」
おい、なにげにすげえな、てめえの親父は。二階級特進二回なんて……竜洞生徒よぉ。
「で、だ、時間までに我々と貴様がこれから一方的に殲滅する予定のIELFHMについてレクチャーする。ああ、更にちなみにだが、私は貴様の直属の上官ということになる。私が死亡したり指揮不能な事態には朝霧大尉がその次は野分曹長だ。本戦闘における貴様の白戦機を中心とした陸海軍合同の臨時編成の戦隊を『臨編装甲歩兵戦闘団』と呼称することになってな、その団長に任命されたってわけだ」
おいおい、さりげなく朝霧さんと野分さんも昇進してるぞ。
「え? 陸奥中佐じゃないんですか?」
「やっぱりそう思うよな。あいつが、この零式に一番長く携わってるからな。あいつは、今回はあそこで戦闘の推移を観察し情報を流すオペレーターの統括が任務だ。将来的には装甲歩兵戦闘団を擁する強襲揚陸艦の艦長様だからな。その予行演習だ」
予行って……今回、その謎敵対生物に負けることは折り込んでないのかよ。
「ああ、今回の戦闘では敗北は許されていない。なぜなら、貴様の駆る零式は対IELFHM決戦兵器だからだ。決戦兵器が敗北するわけがないだろう?」
「はあ……」
俺は、溜息とともに同意とも否定とも取れる生返事を返した。
「……っと、もう時間がないな、IELFHMについてはまた後でだ。行け! コックピットで太刀浦がジリジリしてる」
「はいッ!」
敬礼をする。長門教官の答礼を待って、俺は踵を返し敬礼をしてラッタルを駆け上がる。
「竜洞! 教え忘れていたが、戦場では敬礼は省略だ。誰が指揮官が丸わかりだからな」
「了解!」
首だけで振り返り、俺は頷く。
「了だけでいいぞ!」
長門教官の表情はすでにわからなかった。その頭部はすっぽりとフルフェイスのヘルメットで覆われていたからだ。
(うん、やっぱりあっちのほうがかっこいいな)
これから乗り込むロボを見上げる。
対して俺がこれから纏うのは歩兵装甲とは名ばかりのロボットだ。
「待ちくたびれたんだな、竜洞くん。さ、こっちへ」
「兄様、梓は準備万端、もういつでもイける。兄様の好きなときにイって」
うん、梓、言ってえいることに間違いはないが、表現方法に難があるから後でお話をしような。
「うしッ! じゃあ、いこうか」
梓が待つコックピットに体を滑り込ませ、太刀浦からヘルメットを受け取る。
ほらな、手袋をしてなくて正解だ。
ヘルメット顎紐を締め、手袋を履く。
『あー、テステス。竜洞くん聞こえるかな?』
ヘルメットのスピーカーが太刀浦の耳障りな声で俺の鼓膜を震わせる。
やつはヘッドフォンとマイクが一緒についたテレビの人がするようなやつを頭につけていた。
「ああ、よく聞こえる」
『むう、兄様の初めてを圭輔に奪われた。不覚』
うん、梓、後でお話しような。
梓へのお説教案件が増える。
それにしても、ヘッドフォン越しの梓の声は、相変わらず神様に愛されたカナリアのような声を仏頂な口調で台無しにしている。
だが、耳元で囁かれているような、なんか新鮮な感覚に首筋がじんわりとする。
『竜洞くん、このヘルメットは本来的にはとても便利な機能が詰まっているんだけど、今回は照準器以外の機能は全部オフにしてあるんだな』
『ああ、そっちのほうが助かるな』
使えない便利機能は無いよりも厄介だからな。
『その代わり、兄様のサポートは梓が全部やる。兄様は敵を倒すことにだけ集中すればいい』
「ああ、助かるよ梓。よろしく頼む」
『む、頼まれた。全幅の信頼を寄せるといい』
俺と梓の会話の間に、俺を操縦席に固縛した太刀浦が起動前のチェックリストを読み上げ、確認してゆく。
『チェックオールグリーン! 起動準備完了! コックピット閉鎖! 閉鎖ヨシ! 機付き員退避! じゃあ、竜洞くんまた後で……なんだな。梓ちゃん、起動手順はハの1番、正規起動なんだな。僕は特等席に移動するんだな』
『了! ハの1番で起動、爾後、射出機不使用にて進発する。兄様、準備よろし?』
「オーケー、いつでもやってくれ」
心の中で右手を左手にバシバシと打ち付ける。
『竜洞、聞こえるか? オクレ』
そこへ、長門教官殿の凛としたアルトが聞こえてくる。
「感度良好。オクレ」
こう返しておきゃいいだろう。確か元の世界で松雪に借りた自衛隊物の戦記劇画でこんなやり取りしてたはずだ。
『通信試験ヨシ、竜洞機へ、現時点をもって貴機とその搭乗員は本職の指揮下に入る。竜洞機後席、データリンクはできているか』
『データリンク試験……ヨシ、中央統合作戦司令部データベースとリンクした。アンノウン、現在当基地上空3000メートル、落下傘状のものを展開し減速。降着まで2分』
『ヨシ、これより貴機を04と呼称する。04は直ちに起動。甲装備にて進発し滑走路陸側に移動、指示を待て』
「了! 04起動後直ちに進発する。梓、甲装備ってなんだ?」
『兄様、すでに用意されている。甲装備とはすなわち、対強装甲大型IELFHM装備のこと。いわゆる戦車級IELFHMに対抗する兵器のことを指す』
『04、IELFHMは歩兵級、戦車級、要塞級に大別される。我々装甲歩兵が相手をするのは歩兵級と呼称されるもので貴様の相手は戦車級、要塞級だ。数は多くないが強力な装甲と破壊力抜群の火器で我々人類のあらゆる軍隊を蹂躙してきた実績がある』
ってマジかよ。勝てんのかよそんなのに。
『白兵戦闘機は、そいつらをぶっ飛ばすために20年の歳月をかけ開発された。貴様には今日、初めて人類が、奴らに勝利したという栄誉を受けることが予定されている。夢々敗北などすることがないことを要望する。これは、全人類から貴様へのオーダーだ!』
重いッ! 重すぎる! この世界の人類が何億人いるか知らんが全人類からの命令なんてクッソ重すぎる!
「だけどなぁ……」
『兄様……やるしかない。やつらなど、兄様なら指先一本で畳んでのしイカ』
おいおい、俺は怪○くんかよ……っって、こっちにもあったのかよ○物くん。
『起動手順ハの1番実施。予備電源投入、投入ヨシ。補助動力点火。筒内圧上昇。サブフライホイール接続。サブフライホイール回転開始。5千、5千5百……1万5千……主反応炉点火。イグニッション! メインフライホイール始動を確認! 回転数上昇、6千、9千、1万3千……。メンテナンス、電源ケーブルパージ! 零式白兵戦闘機起動!』
『こちら管制室陸奥、零式白戦機の起動を確認。臨編戦闘団へ白戦機の指揮権を移譲するオクレ』
苦虫を噛み潰したような陸奥中佐の声がヘッドフォンから聞こえる。
『了! 臨編装甲歩兵戦闘団、団司令より管制室。指揮権を謹んで受領するオワリ』
『おぼえてなさい延』
『ボヤくなよ、陸戦経験はこのなかじゃあ、あたしと絢がダントツなんだ。こんどこそオワリ』
『了! オワリ! クッソ』
俺みたいな下っ端が聞いちゃいけないような会話で陸奥中佐と長門教官の通話が終わる。
「04起動。進発する。ええと、甲装備ってのはどこだ梓」
『右手のガンラックに掛けてあるのがそう』
頭を右に振る。
ロボの格納台の右手にそれはあった。
直方体に引き金と握る場所を取って付けたようなんとも不格好な塊が鎮座している。
『零式装甲歩兵突撃銃。これから貴様が一番良く使用する火器だ。普通の歩兵小銃よりも……な。執れ』
長門教官に促され、零式アサルトライフルを手に取る……いや、とったのはロボだがな。
それはずしりと頼もしく重かった。
ああ、これが地獄へのパスポートってやつか。黒くてかたいパスポートってやつか。
元の世界で、施設の同年代のやつがよく聞いていた古い和製ロックの歌詞が脳裏をよぎった。
それが、俺が生まれるずっとずっと前に作られた古いアクション映画のタイトルだって教えてくれたのは、元の世界の太刀浦だった。
「04出撃する」
『了! 零式白戦機出撃!』
梓が復唱する。俺はゆっくりと頭を上げる。そうして、前を見据えて地獄への一歩を踏み出したのだった。
毎度ご愛読誠にありがとうございます。
並びにブクマご評価もまた、ありがとうございます。




