若者の旅路③
婚約式は二日後。五人の若者と、老執事は、森の中にいた。
「あ~…。ベッドで寝たいよう。」ミグは、焚き火の横に座りながら愚痴る。
「いやはや、大変な目に会いましたな。」老執事、スチュアートは、焚き火にかけた鍋の中をかき混ぜながら話す。
「スチュウが道を間違えたからじゃないか?」ミグは、恨めしげに執事をみるが、「仕方ないだろ、ミグ。」「そうだぜ、不可抗力だ。」マルとセドが、馬を連れて戻ってきた。
「こいつ達も、水浴びが気持ち良かったみたいだ。ほら、ミグ。お前も行ってこい。」二人は、馬を洗うついでに自分達も洗ったようだ。
「…ガインとジルが戻ってからいく。」ミグは、不貞腐れながら答えた。
最初は順調に行っていた。
多少、寂れた宿場町とはいえ、充分な食事と宿を取ることができた。
安くあげるため大部屋で寝る事もあったが、子供の時から共に過ごしてきた仲の五人は、執事がいようと気にする事なく眠る事ができた。
屋台の食事も、親の目を盗んで街にくり出していた頃から口にしていたので抵抗もない。その土地ならではの食事や、土産ものを楽しんだ最高の旅路だった。
しかし、途中の別れ道で土砂崩れに合い、迂回した先で盗賊に襲われ、逃げた先が今、この森である。
「明後日にゃ、婚約式だってのに。俺達は、未だ森の中だ…。」
「おい、そうしょげるな、ミグ。」ガインとジルが木々を掻き分け帰ってきた。
「どうだった?」セドが、厳しい顔でたずねる。
「バッチリ。」ガインは、ニカッと笑うと「こいつ、ほんとに恐ろしいやつだよ。」と、ジルの背中をバンバン叩いた。
「い、痛いっ、止めろっガイン!」ジルは、身体をひねって逃げる。
「よし、ミグ!今の内に」
「わーってるよ!ガイン!ジル!川に行くぞ!」セドが言い終わる前に、ミグは手拭いを持つと川に向かって歩きだした。
「…やれやれ。」セドは、ため息をつきながら川に向かう三人の背中を見送る。
「セド坊っちゃまも、苦労が絶えませんな。」スチュアートは、笑いを含む優しい声でセドを労う。
「全く、スチュウも人が悪いや。」
セドは笑いながら肩をすくめると、「マルセル!何か食べ物がないか辺りを見よう。」と、声をかけて行った。
パチパチと、木が小さくはぜる。
「おおっ、川魚がいるぞ!」ガインは、腰布一枚で川を覗く。
「けど、釣具がないぞ?」ミグは、上着を脱ぎながら答えた。
「そーだな…。あ、あれ、いいんじゃないか?」ガインは、言うが早いか、川辺に生えていた若い竹の幹を、短刀で切り込み、折った。小枝と葉を落とすと、小さな竹槍を作る。
「よし、一丁試してみるか。」ガインは岩影に隠れ、魚影めがけて…一突きっ。引き上げた竹槍の先に、20センチ弱のヤマメがピクピクと貫かれていた。
「おー、さすがガイン。」ミグは、素直に褒める。
「ミグ、そこのフキの葉を取ってくれ。のっけるから。」ガインは、魚を外すと、次の獲物を狙う。ミグは、大きなフキの葉を切りとると、先ほどのヤマメを葉の上に乗せた。
「っと、ほら!二匹目っ!」
「おぉ!ガイン、お前、ほんとにすげぇや。」ミグはキャッキャと喜ぶ。
しばらく、川魚を捕るのに熱中していたが、ふいに「あれ?ジルは?」と、ミグ。
「あそこ。」ガインが指さした先。
少し離れた川下の真ん中でジルがこちらに背を向け、肩まで水に浸かっていた。
「おーい、ジル。あまり行くと、深溝に嵌まるぞ。」ミグが声をかけると、ジルは振り返らずに片手をあげて応えた。
「…あいつ、上がってこねぇぞ?」
「あ?…ミグ、野暮は止めろ。」ガインは、岩の上から遠目でジルを確認した後、「自然現象だ。」
「どっちの。」
「うーん、俺達、ずっと同室でったからなぁ。」
「よし、それ以上は聞かない。」ミグは、ひょいひょいと岩の上を飛びながら川上に移動し、水浴びをした。
「うわっ!旨い!」
「ほんとに。スチュウ、凄いな。」休憩時に使う為にと持ってきていた木のジョッキに、執事が作ったスープが注がれている。
「干し肉、すげぇな。」ガインは、しげしげとジョッキの中を見つめる。
「マルセル坊っちゃまとセド坊っちゃまが、具材を採ってきて下さったおかげです。」執事は、スプーンで茸をすくう。
「以前、スチュウがくれた図鑑に載っていたからね。」マルセルは、焚き火で焼いた川魚を食べながら答えた。
「マルの知識がなかったら、俺じゃ毒キノコと見分けがつかんからな。」セドが笑う。
「はぁ、食った食った。」ミグは、小さなゲップをすると「で、スチュウ。次はどうする?」と、執事を見る。
「そうですなぁ…。」老執事は、魚の身をほぐしながらしばらく考えた後、「川を使いますかな。」
「?魚を捕るのか?」ガインは楽しそうに反応したが、「違うぞ、ガイン。」と、マルセル。
「忘れたのか。前に道のりを調べていた時。」ガイン以外の三人は思い当たったようだ。
「けれど、船なんかないぞ?」セドが話す。
「それは、お任せ下さいませ。」執事はひげについた魚の身を取りながら答えた。




