淑女の企み③
「では、こちらでお待ち下さいませ。」
案内されたサロンは、ポルタとはまた違った趣きのある、落ち着いた部屋だった。
馬車がリブリアに入国した後、そのまま王城まで進み、自分達五人は『姫の大切なご学友』と言う事でサロンに案内され、メイドがお茶とお菓子を運んできた後は自分たちのメイドを連れる事も出来ずに部屋に五人、置かれている。
「凄い。緻密な細工だわ。」部屋の中を見て回っていたベルは、暖炉の上に飾られた置物をしげしげと眺める。
「リブリアは四方を囲まれた国だけど、素晴らしい加工技術を持っているわね。」
その言葉に、アンナも「私の母も、リブリア製のジュエリーボックスを愛用しているわ。」と話に参加する。
「確か、ポルタにもリブリアの磁器を専門に扱う店があったわ。」
「あぁ、有名よね。あれも、姫様との御成婚を見込んでの出店だったはずだわ。」他にもリブリア製の品を扱う店が幾つかあったはずと、リジーも加わる。
「だから、リブリアの人に品を贈る際は、気を付けないとリブリア製の品を贈る事になるって、母が言ってたわよ。」なるほど、とリジー以外の四人は頷く。
「じゃあポルタは、やっぱり花?」パティは調度品に興味はなく、お茶請けでだされたお菓子をひょいと摘まむ。
「花や、果物ね。乾燥させたり、砂糖漬けにしたものが各国に輸出されてるかしら。」マリーが答える。
が、「パティ、食べて大丈夫?」と話からそれ、お菓子をつまむパティを心配しだす。
「?なんで?美味しいよ。皆の分はまだあるし。」
「…うん、何もなければいいのよ。」マリーは、歯切れの悪い返事をする。
「何?何か気になるの?」ベルが少し強ばった声で問う。
「えっと…父から聞いた事があって…。」「マリー、声を小さく。パティ、食べるの中止。皆、近づいて。」ベルは小声で指示を飛ばす。
直ぐ様、五人は円形を組むように座る。
対角に座ったアンナとベルは扇を五人の隙間を埋めるように拡げる。傍目からは、ただ、令嬢達が車座になってお喋りをしているだけに見える。
ベルの目線に促され、マリーは話し出す。けれど、口元は笑みを浮かべたまま動かない。
「…父の話じゃ、海の向こうの国では気に入った女性の食べ物に、睡眠薬を入れて眠った女性を男が連れかえってしまう話があるって。」
「…まさか…。」五人の目が、テーブルに注ぐ。
パティは、口を押さえる。
「!!食べちゃった…!」顔も青ざめている。
「パティ、味や匂いに異変は感じなかった?」アンナも口元は笑みのまま、パティに問う。
「…多分。何もなかったと思うんだけど…。」手で押さえながら、パティはモゴモゴと答えた。
リジーは、残っていた一口サイズのタルトを摘まむと反対の手で隠すように鼻に近づけ、匂いを嗅ぐ。
「どう?」パティは恐る恐る聞くが、「無味無臭の薬もあるからね。しばらく、口にいれずに様子をみましょう。」
リジーはタルトを皿に戻すと、胸元を飾るブローチを外す。そして、カメオの部分をスライドさせると、「一応、これ。」と小さな丸薬を取り出し、素早くパティに渡す。
「万が一、眠くなったら、それ飲んで。」
「解った…。」パティはリジーから丸薬を受けとると、自身のペンダントトップを開く。
そこに丸薬を仕舞うと、「あぁ、私、なにしてんだろう。」と、パティはしょげてしまった。
「実戦と練習じゃあ、勝手が違うわよ。実際、私達も失念していたもの。」ベルは、パティを慰めながら話す。やはり、口元は動かない。
彼女達は、気づいていた。この部屋の異質さに。
五人は、案内された道順、入城する際に見た、城の形状。そして、部屋の窓から見える風景等、ツブさに観察し、頭の中で簡易的に立体にモデリング出来る様に躾されていた。
でないと、いくら上位貴族の令嬢とはいえ国の姫様の側においそれと宛がう事は出来ない。
万が一の時には、彼女達は肉の壁になって、姫様を守らねばならないからだ。
「パティは運動は得意だけど、素直過ぎて、危ういわ。」アンナは、扇子を仰いでパティに風を送り、気を静めるようサポートする。
暫く考えていたベルが「そうね、チャンスと捉えましょ。」と話す。
「私達もお菓子を食べる振りをしましょ。で、パティが寝たら、私達も寝た振りをするの。」ベルは、ピンクのマカロンを摘まむ。
「あたし、実験台ってことぉ?」パティも落ち着きを取り戻し、口の動きと言葉が違う話し方をする。
「何にもなければ、それでよし。万が一、眠り薬が入っていたら、反撃の準備ってだけよ。」と、リジー。
「私、不安だわ。」マリーは不安げに眉を寄せる。「大丈夫よ、マリー。私、きっと眠くならないわよ。思い過ごしよ。」パティがマリーを慰めるが、「違うわ、パティ。もし、本当に薬が入っていたとしても、パティなら気づかないんじゃないかって…。」ため息交じりでマリーは言ったが、パティは渋い顔をするしかなかった。




