淑女の企み②
昨日、熱く約束を交わした五人の淑女達は、リジーの屋敷に集まっていた。
「まずは、情報よ。情報を制するものは世界を制するのよ。」リジーがノートとペンを持ってくる。「まず一つ。“式に出る貴族の情報”よ。」「そんなの、沢山あるわよ。」パティが早速泣き言を言った。「慌てないで。単純な話よ。いくら、姫様の御婚約式とは言え、国中の貴族が行くわけないじゃない。」リジーは、すらすらとペンを走らせる。「このポルタ国からは、国王様、お妃様に加え、宰相、つまりアンナのお父上ね。が、行かれるわよね?」「そうね。」と、アンナ。「でも、私の父上は行かないわ。文官長だもの。」「確かに、離れられないわね。」マリーがうなずく。「マリー、貴方のお父上は?」今度はアンナがたずねる。「宮廷医師だからね。国王に就いて離れられないわ。」マリーが肩をすくめる。「私の父も行かないわ。庭を放っては行けないもの。」と、パティ。「あの広い宮廷の庭を管理なさるんですものね。私なら、すぐに枯らしちゃうわ。」ベルは、クッションに倒れこむ。「中央公園と、国営美術館の中庭も、パティのお父上のお仕事でしょ?」「父だけじゃなくて、何十人って職人さんがあっての仕事よ。」パティは謙遜しながらも、嬉しそうにはにかむ。「ベルは?」リジーが話を戻す。「父の代わりに兄が行くわ。」ベルはクッションから身を起こす。「父は…もう永くないもの。」「ベル…。」部屋がしんみりと暗くなる。「だから、私、自分で決めるのよ。」ベルは、まっすぐと背を伸ばす。「…ベル、強いわ。」アンナは涙をハンカチで拭う。「やだ、泣かないで。私は、騎士の家に産まれたのだもの。母も兄も、万事の時は覚悟してるの。もちろん、私も。」そういうベルに、パティは抱きつく。「…私、ベルに元気を送るわ。」「ありがとう、パティ。大丈夫よ。」ベルは、パティをなだめると、リジーに向き合う。「重要なポストに就いても、全員が向かうわけではないの。代理を立てたとしても、貴族登録されている家のうち、一握りだわ。」ベルが話す。リジーが頷いた。「それは、他の国においても言える事だと思うの。」リジーは、テーブルいっぱいに、地図を広げる。「わぁ、国の地図だあ。」「リジー、これ、国家機密の部類じゃない?」マリーがたずねる。「これは、私が独自に作ったの。色んな文献や資料を繋ぎ合わせてね。」「すごいわ、リジー。」アンナも感嘆の声をあげる。「ただ、バレたら即刻、お縄につかなきゃならないから、皆、内緒にしてね。」リジーは言いながら、古い紙の束を地図上に広げる。「…これは、」ベルは言葉を飲み込む。「…我が家の機密事項よ。」
地図上に広げられ、国境で分けられた書類は、各国の上位貴族を記したもの。「…ほんとに、バレたら私達、全員首が飛ぶわ。」
隣国リブリアは、北に大きな山脈を担ぐように広がっている。その南に、ポルタ国が位置し、東にはポルタとも繋がるような形で細長い国、バラキアが海沿いを走る。そして、西には深い森林が国境となるアルノア国が鎮座する。
「今回の婚約式には、アルノア、バラキアからもいらっしゃるはずよ。」リジーは、沢山のメモが記入されたノートをめくる。「でも、言って“御婚約式”でしょ?そんなに沢山の偉い貴族が来るかしら。」パティとマリーは、共に首をかしげる。「下見ですよ。」アンナは、古い紙を一枚一枚、丁寧に読みながら話す。「正式にご結婚となったその日、国をあげて祝うでしょ?」三年前に、王女の従姉妹が山向こうの国に嫁がれた。その時は彼女達が赴く事はなかったが、伝え聞いた話では、城から真っ直ぐ教会まで、人が途切れる事なく沿道に集まり、昼夜お祭り騒ぎだったという。それが、王女の結婚となると「想像もつかないわ。」とマリー。「でもまぁ、通常ではないって事よね。」「そう、その通常でないを隠れ蓑にして、私達の結婚を決められかねないのよ。」リジーは、ペン先をマリーにズバリ、と向ける。「もちろん、ちゃんと相手に愛があって、思いやりを持っての結婚なら、拒否しなくていいのよ。」リジーは続ける。「けれど、ポルタやリブリアの為に、アルノアやバラキアへ嫁ぐなんて」「まっぴらごめんだわ。」とアンナ。「情報はちょっと古いけど、名前と爵位。似顔絵まで書いてあるコレは、私達の武器になるわ。」リジーは、紙の束を持つ。「ただ、持ち出しや、複写は出来ないから。頭に叩きこんで。」「「えぇー!!」」マリーとパティは、悲鳴を上げた。
数日後、各家々に王宮から正式に通達が届いた。それは、王族と共に馬車を連ねて向かうというもの。周りは、騎士が囲い、きっちりと送り、連れて帰ると言う内容である。それは、安全、安心を謳っているように見えて、“籠の鳥”を思わせた。




