若者の旅路②
「あー、陽気もいいし。最高な出だしじゃないか。」ミグは、荷台に寝転び、欠伸を噛み殺す。
「おい、狭いぞ。」本を開くマルが、嫌な顔をしてミグの尻を足で押しやる。
「喧嘩すんな。疲れるぞ?」御者台から、セドがのぞいて注意してきた。
「楽しみだなぁ。俺、領地と学園の間の街しか知らねぇから。旨いもん、食いてえなぁ。」ガインは能天気に話す。
「ヴぅ、食べ物の話は、や、やめでくれ…。」ジルは、後部で荷台から頭を出して、死にかけている。
隣国とをつなぐ本線の街道は、綺麗に整備され、道中の宿場町も多くの人に賑わい、物流も盛んになった。
だが、それに伴い、宿の宿泊費は高くなり、店先に並ぶ物は質も良いが値段も高い。つまり、高級志向、旅行者向けになってしまっていた。
しかし、数キロ外れた旧道では、多少の悪路を我慢すれば、手頃な値段で旅が出来る。
駆け出しの商人や、卸問屋の人間などは、旧道と本線を上手く使い分けている。
「しかし、幌馬車なんて思いもつかないよな。」ミグは、体を起こすと御者台の方の幕間から顔を出す。
「スチュアート。お前は、やっぱりすごいや。」御者台に座る老執事に笑顔を向ける。
「本来なら、坊っちゃま達をこんな幌馬車に乗せての旅路など、許される事ではないのですが。」三頭の馬を繰りながら、スチュアートは話す。
「いや、俺達の財布事情を考えれば妥当だよ。なにせ、ミグ一人で持つってんだから。」スチュアートの隣に座るセドは、地図を広げながら笑う。
「…けっ!そんな、余裕を言ってられるのも今の内だぞ?…スチュウ!本当に盗賊が出るのか?!」ミグは、不安気に確認する。
「そうですなぁ。今は、まだ明るいですし、ちらほらすれ違う商人の馬車もございます。狙うとしたら、夜。我々が夜営を組んでいる時でしょうな。」ことも無げに、スチュアートは言う。
「…俺、今の内に寝とくわ。」ミグは、頭を引っ込めた。
「荷物だけ先に隣国に送って、道中、街の者の姿で移動すればいいのですよ。」アリアが、とんでもない提案をしてきた。
「…アリア、そりゃ無理だよ。」ミグは、頭をふる。
「間には、検問がある。街の者の姿で、貴族の身分を提示してみろ。即刻、」ミグは、己の首を締めるジェスチャーをする。
はぁ、とため息をつくアリア。「そんな事、常識として解っていますよ。」アリアの目が、ミグを哀れに射る。「…ぐう。」
「荷物を減らす話をしているのです。考えてみてください。まず、向かう人数。それに付随する荷物。礼服。祝いの品として、各家々から預かって参るでしょう?それらを、屋敷の馬車に乗せるので?」ミグが普段使う一台では到底無理だ。
「俺ん家の馬車を」セドが言いかけたが、「馬車の数だけでなく、家紋が目を惹きます。」セドは、アリアの言葉に詰まる。
「確かに。旧道を行くとなると、伯爵家の紋章は足枷になりかねませんね。」トラブルの種になりそうだ。マルセルは、う~む、と唸る。
「じゃあ、俺達の侯爵家も、ヤバいのか。」ガインはジルの肩にもたれながら言う。
「かと言って、子爵家が、隣国に向かうなど“よっぽど”の事がない限り…。」マルは首を捻る。
「民は知らなくても、騎士や門番は各貴族の家紋を知っている可能性があるものな。」問題が次から次に出てくる。
「だから、街の者に変装して、着いた先で、お召し物を変えるのですよ。そうすれば、貴族を襲う無謀な輩からの襲撃は、減るでしょう。」と、アリアは言葉を区切るように話す。
「たとえ襲われたとしても、素人の町人相手と、貴族で剣の扱いを学んだ相手とでは、向こうの腹積もりも違うでしょう。」
「まぁ…、それも一理か…。」とマルセル。
「例えその案を採用したとして、隣国(向こう)で誰が俺達の荷物を受け取ってくれるんだ?」ジルがアリアにたずねる。
「私、隣国にお友達がいます。あらかじめ、伝えておきましょう。」そう言ってアリアは、ゆっくり頷く。
「まぁ、その友人が許可して下さったなら、アリアの案でいいんじゃないか?」ミグは簡単に決めて、今日のおやつのビスキュイに手を伸ばす。
「…俺、スチュウに相談したいんだけど。」ジルが何やら考えついたようだ。
「とりあえず、明日、式に出る為の礼服と、送る品を準備しよう。」セドが提案する。
「ああ、解った。」
「俺、父上に男鹿の頭を準備して貰おうかな?」
「…ガイン、それは止めといたら?」
「そうか?嬉しくないか?」そうしてワイワイし出す友人を横目に、またしてもミグは一人、ソファでおやつを楽しむのであった。




