淑女の企み①
五人の淑女達は、日々鬱々とした気持ちで、学園での時を過ごしていた。
そんな折、「君たちも、御婚約式に向かうのだろう。」と、声をかけてきた人がいた。
五人は、中庭の東屋でランチを取っていた。そこに、会う約束もなく、いきなり話しかけてきた数人の男子生徒。上級生だ。
「君たち、昨年まで王女の学友兼お目付け役だった子達だろ?」「なら、絶対に招待されてるよね?」
今しがたまで、楽しくお喋りして口に運んでいたサンドイッチが、急に砂になる。
「ねぇ、無視しないでさぁ。」肩を触りにきた手を避けながら、「あら、確か、ロバート子爵の息子さんでいらしたかしら。」リジーは、扇子を取り出し口元を隠しながら相手に身体を向ける。「こちらは、バーリリオ商会の御次男様ですわね。」アンナは、綺麗に洗われた真っ白のハンカチで口を拭うと一瞥もなく言い当てる。「ランドール男爵の御子息もいらっしゃるわ。賑やかねぇ。」パティもにっこりしながら紅茶を飲む。
「私達が、誰か解っていての、行動で間違いありませんわね?」ベルは、優雅に立ち上がり、合い対峙する。
「…いや…。ちょっと、態度が悪かった。非礼を詫びよう。」さすがに、先輩風を吹かすだけで怯む相手ではないと感じた子爵子息は、「来月、リブリア国で行われる御婚約式の事を、教えて頂きたく、声をかけたのだ。」一応、言葉では謝った後だが、いくら学園内で自分が先輩だからといっても、図々しい事には変わりない。
「こちらから、貴殿方にお話する事はございませんが?」ベルは、冷たい瞳で男達を見つめる。「…いや、その。」三人の男達はその瞳に気圧されながらも、「貴女方は、婚約者がいない。なら、私達が一緒に行って、エスコートをして差し上げよ」「「「「「結構よっ!」」」」」五人の淑女達は、見事なまでに息ぴったり。その声圧に、先輩方はビリビリと脳を揺らされ、ふらふらしている。「皆、帰りましょ。」一人静かにランチをバスケットに片付けていたマリーの合図で、五人はさっさと東屋を後にした。「お、おい、話は…。」終わってないと言いたげにふらつきなが追ってきていたが、途中、他の生徒の目もあり、踵を返して行った。
「最悪だわ。」「離れていても、私達を振り回すのね。」「もー、勘弁ならないわ。」「愛想がつきました。」五人の淑女は学園から帰る道中、アンナの家に寄り、今日の出来事を愚痴っていた。「お父様も、“前向きに捉えなさい”とか言っちゃってさ。」「私の父も、同じような感じだったわ。」「私も。母が浮かれちゃってた。」アンナの部屋。父と母が留守の今だけ、五人は誰にも聞かれずに愚痴を言える。ひとときの安らぎ。
「私、親にも、国にもがっかりしちゃったなぁ…。」パティはテーブル突っ伏して、ポツリと言った。その小さな呟きは、他の四人も同じく胸の内にあった言葉だった。暗く、静まる部屋。
「…前向きに捉えなさい、か。」リジーは、父の言葉を復唱する。「なにが?」マリーがたずねる。「私、“前向きに捉えて”、この国を出ていくわ!」リジーは、力強く言いきった。「まあ、リジー!亡命でもする気?!」「そんな!そんな危険な事!」「悲しくなるようなこと、言わないで!」「…具体的には?」他の三人が悲痛な声を上げる中、ベルは冷静にたずねる。リジーは、ニヤリと笑うと「正式に、国を出るのよ。」
その言葉に、ベルもニヤリと笑う。彼女も、一つの案として考えていたようだ。その様子に、はっと気づいたアンナは、「私もノるわ。」と、真剣な眼差しで二人を見る。マリーとパティは、顔を合わせると、「大丈夫ね?」「大丈夫だわっ!」と言い合うと、「「私達もっ!」」と、宣言した。
「いつもの調子ね。」「私達らしいわ。」「なんだか楽しくなってきたわ。」「ワクワクするわ!」キャッキャとはしゃぐ、リジー、ベル、マリー、パティ。「そうねぇ。」と、静かにアンナが話す。「あまり、人を舐めた態度を取るものじゃないわよねぇ。」すぐさま四人は、口を閉ざす。これは、本気だ。本気の時のアンナだ。
「…とりあえず、隣国に向かう日までに、計画と準備をしなきゃ!」と、リジーは切り替える。「私達なら出来るわ!」「「「「おおっ!」」」」五人は小さく拳を上げた。




