若者の旅路①
短編読み切りで書いていたシリーズものですが、ちょっと続き物にしてみます。面白いと思っていただければ幸いです。
「俺、ぜってー酔う。」すでに青い顔色のジルが、地図を見ながら宣言した。
「止めろよ、行く前から!」ミグが悲痛な叫びを上げる。
「仕方ねぇだろ。見ろよ、この道。グネグネしやがって。馬車だろうと、馬だろうと、俺は酔う!」どんな自信なのか、ジルは胸を張る。
「このルート、昔は川を下って行ったらしいけど。」マルセルは、過去の資料から隣国リブリアに通じる道を模索していた。
「国道は、他の招待された貴族らで混むこと間違いないからな。多少、険しくても余裕を持って行きたいところだが。」セドはうーん、と悩みながら地図を眺める。
「ジルは酔うし、マルは馬に乗れねぇし。やっぱり、お前一人で行って来いよ。ミグ。」ガインは、アリアが持ってきてくれたチェリーパイの一切れを、素手で持って口に運ぶ。
「おい、一度決めた事だろう!騎士になろうかって男が、今さら何言ってやがる!最後まで、やり通せよな!」
ミグの剣幕に、「あ、あぁ、すまん。」ガインはたじたじと謝った。
「ったく。」と怒るミグに、頭に?が乗っているガイン。
「いつも通りだな。」「ああ、いつも通りだ。」セド、ジル、マルの三人は、互いに確認しあう。
発端は、先日、ミグの家に届いた王家からの手紙。
王の娘、ティタニア,ポルテッシオ第二王女が、昨年、隣国のリブリアに第三王子の婚約者として輿入れされた。
そして、今回。
夏の長期休暇に執り行われる二人の御婚約式に、ミグの家が招待されたのだ。
「くそう!親父が、腰を痛めてなけりゃ!」ミグは、空を蹴る。
「なぁ、セドの家には来なかったのか?」ガインがセドに聞く。
「ん?招待状か?我が家は、この地を離れられん。」セドは、腕を組み、地図を見たまま応える。
「王も隣国に向かわれる。その際、王に代わり、指揮をとるのが我が家の仕事なんだ。」
「じゃあ、お前は行けないんじゃないのか?」
「いや?兄貴達もいるからな。末っ子の俺は、ある程度自由なのさ。」セドは、肩をすくめる。
「マルは?」ガインは、次の相手のマルに尋ねる。
「俺ん家は子爵家だから、そもそも招待が来ない。だから、行かなくていいんだ。だけど、」そこでマルは言葉を区切り、ミグを見る。
その視線にミグは「なんだよ?」と返す。マルは、はぁ。と、わざとらしいため息をついて「お仕えする伯爵家の御子息様が、どーーしてもって言うからなぁ。」
「あっ!あっ!いいのか?そんなこと言って。」ミグは口を尖らせて喚く。
「しっかり、お給金は頂きます。」
「くうっ…。なんて酷い参謀だ!守銭奴め!」
「やめろ、マルセル。ミゲルをからかうな。単純なんだから。」セドは、マルセルを諌めるふりして、ミグを落とす。「きぃぃ!」ミグが奇声を上げていると、部屋のドアがノックされる。
「はい、どうぞ。」家の人間であるミグが応答せず、ジルが応えた。
「坊っちゃん、少しよろしいですか?」ドアが開いて立っていたのは、乳母のアリア。それと、「なんだ?スチュアート。アリアに無理難題を押しつけられたか?」執事のスチュアート(御年62歳)が、アリアの横に姿勢正しく立っていた。
「?どうした?」静かに立っている老執事に、再び問いかける。
「…坊っちゃん、誠に勝手ながら、お暇を頂く事になりました。」老執事は、恭しく腰を曲げる。
「えぇー!!それは…え、父上と母上には、伝えたのかい?!」衝撃に度肝を抜かれたミグ。
「はい、私の我が儘でございますが、御館様、奥方様ともにお許しを頂いております。」
「えー、そうなのかぁ…。」ミグは、ガックリと肩を落とす。
「寂しくなるなぁ、スチュウ。」セドが話に加わる。
「俺、スチュウが作ってくれた木剣、まだ大切にしてるんだぜ?」と、ジル。
「スチュウ。離れる前に、リブに塗るソースのレシピ、教えてくれな。」ガインは、涙目でメモを持つ。
「スチュウ。あなたには本の中だけでない、実体験の大切さを教わりました。ほんとにありがとう。」と、マルはスチュアートの手を両手で包む。
「…あれ?俺は?」四人の後ろでうろうろする屋敷の長男を無視し、アリアが口を開く。
「坊っちゃま方。隣国へ向かわれるのでしょう?」
「あー、うん。父の代わりにな。」ミグは、興味なく応える。
「でしたら、スチュアートを連れていけばよろしいかと。」
「えぇ?!」五人は、アリアを見つめる。
「連れていけばよろしいのですよ。ついでに。」アリアは、同じ事を言う。
「…いや、ついでって。」ミグは、まごまごと他の四人を見る。
「道中に、スチュウの家族が住んでいる街があるのか?」セドがたずねる。
「まあそんなところです。なので隣国に向かいがてら、このジジイを運んでいただきたいのですよ。」アリアは、言葉悪く頼んできた。スチュアートも、ゆっくりと頭を下げる。
「そんな、頭を上げてくれ。スチュウ。」セドが老執事の肩に手を置く。「俺達に、否やはないよ。」と、ジル。「スチュウが居てくれた方が、俺達も安心だよ。」ガインは、ニッカリと笑う。「無事、送り届けると約束しますよ。」マルはアリアに向かって話す。
「だろ?ミゲル!」四人は、振り返ってミグを見る。
「…お、」
「?どうした?」
「俺が!決める話なのにっ!どーーして!君たちが先に!応えるのか!!」真っ赤な顔で鼻の穴を膨らまして叫ぶミグを、「「「「だって、決まってるだろ?」」」」と、四人は冷静に答えた。
言わずとも、お前の答えは決まっている。
俺達は、知っている。
四人は、濁りのない瞳てミグを見つめる。
「…ぐう…、解ったよ…。一緒に行こう…。」ミグは、空気の抜けた人形みたいにしぼんで、ソファに座った。
「俄然、楽しみになってきたな!」
「ガイン、お前、スチュウの料理が目当てだろ?」
「俺も行った事のない道だから不安だったが、スチュウ、君なら解るかい?」「ええ、解りますとも。セドリック坊ちゃま。」
「心強いですね!」ミグ以外は、賑やかに話しだす。
「…くすん、俺、可哀想…。」ミグは、ソファに埋もれて寝ることにした。
ご指摘を頂き、少し、改行してみました。
ちょっと、読みやすくなったでしょうか?




