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妹の補佐として望まれましたが、帝国では正妃として愛されるそうです  作者: おくら
序章

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3/23

私の色ではなかったようです

「エレノア様…すごい、です。」

セレナとプレゼントの箱を開封しはじめて、お互いにため息が止まらなかった。

「そうね…。公爵家といえども、ここまでの高級品はなかなかお目にかかれないわ…。」

「このドレス、本当に美しいです。エレノア様なら絶対にお似合いになると思います…。アクセントの黒いリボンも、エレノア様の黒髪とも合いますし、なにより皇太子殿下の御髪の色も黒なのですよね…? お二人が並んだ姿、きっと美しいですよ…。」

 なぜかセレナの瞳がうるんでいる。

 箱に入っていたドレスだけでなく、アクセサリーに靴、すべてが一級品でそろえられている。イヴァン様がお話していた時にうっかりスルーしてしまったが、すべてにカイゼル様の色が添えられている。

 「本当に、私のことを…?」



 「おねえさま!ずるいわ!」


 バンとドアが開き、シャーロットが涙を流しながら大声を出す。

 「シャーロット、あなた淑女として―――」

 「またおねえさまはそんなことを言うのね! それに何!帝国の皇太子さまから求婚!? そのドレス、私がルイ様からいただいた物より高級品じゃない! …どうしておねえさまはいつも…!」

 「シャーロット!」

 「もういいわ!」


 シャーロットは涙を流して部屋を出て行ってしまった。たまに出る、私をうらやむ癇癪。大体そういう日は部屋にこもってしまうのだ。

 「エレノア様…。」

 「いいのよ。いつものこと。シャーロットも王妃になるのだから、あの癇癪はどうにかしなければならないけれど…。私が何を言っても、シャーロットには伝わらないのよ。」


 そろそろあの子も自分で解決する術を見つけなければならない。

 王妃教育もまだ始まっていないそうだし、舞踏会までに最低でも学んでおかなければ、ルイ様の婚約者として満足な挨拶もできないだろうに。

 嫌いにはなれない、素直すぎる妹を憂いはするけれど、舞踏会でカイゼル殿下のパートナーを勤め上げるためにも、今一度帝国の情勢や政治の勉強もしておかなければ。

「髪型やお化粧はセレナにすべてお任せするわ。婚約のお返事はさておき、とにかく当日カイゼル様に恥をかかせない様にしておかなくては。」

「かしこまりました! どなたよりも美しく仕上げます!」

 セレナは得意そうに袖をまくりあげ、意外とたくましい腕の筋肉を見せながら胸を叩いた。


*******



「そう、帝国はやはり経済的にも女性が自立し始めているのね。」

こんなこともあろうかと、と兄は帝国の新聞記事を何か月分も持ち帰ってくれていた。一つ一つ読みふけり、帝国の経済の発達に、エスメラルダ国との差を大きく感じる。我が国では、貴族女性は政治の道具。家と家の繋がりを作るための存在という意味合いが大きい。帝国には女性当主も出てきており、女学校まであるのだそうだ。

 我が国では学校は男性が行くもので、私のように家で家庭教師を雇い基礎的な知識から王妃教育まで受けられる者もいれば、そもそも女性にそこまでの知識を求められていないので、妹のように教育より人脈づくりを優先される者もいる。


「帝国の女性は強いよ。学園にも女性がいるが、彼女たちの賢さには驚く。正直彼女たちがシャーロットと話したらびっくりするだろうな。エレノアは、心配ないと思うが。」

「素敵ね、女性が活躍するなんて。お兄様からいただいたあの本も、女性が主人公だったわ。女性が冒険するなんて、私たちの国では考えられないもの。」


 クッキーをつまみながら、兄とお茶をする。

 兄はあれ以来、婚約の件を話さない。詳しくは本人としてほしいと一貫した態度だ。


「実はあの本、カイゼル殿下から進められたんだ。エレノアに、って。」

「え?」

「婚約破棄の件、カイゼル殿下にも伝わっていてな。あまり詳しく言えなかったんだが、カイゼル殿下も俺が留学している学園に通っているんだ。それで、エレノアならきっと読んでくれるからって。」

 まさかだ。私の知らない間にカイゼル殿下からすでにいただきものをしていたなんて。

「そうだったの…。素敵な方、ね。」

「いやいや、普通女性に本のプレゼントはないだろう。…まあ、エレノアが気に入ってくれてよかった。ぜひ、明日の舞踏会で直接お礼を言うといい。」

「…カイゼル殿下が学園に、ということは、先日のイヴァン様もお兄様のご学友なの?」

「学友かどうかは置いておいて…。まあ、そんな感じだよ。学園の話はカイゼル殿下からも聞くといい。さあ、俺はシャーロットの様子も見てくるよ。」

「ありがとう、お兄様。よろしくね。」

兄の役目さ、と、私の頭をポンと叩いて、兄はシャーロットの元へ行った。こういう時、兄は昔からいつも私にもシャーロットにも気を使ってくれている。


「…私も、もう少し頑張ろうかしら…。」


 傍にある新聞を手に取ろうとするも、いつの間にか部屋へ入ってきていたセレナに奪われた。

「エレノア様!だめですよ! 明日は本番なのですから、今日は無理せずです。お肌もピカピカにして差し上げたいし、万全の状態で挑みましょう!」

にこりと微笑むセレナに何も言えず、言う通りに磨かれるのであった。


*******



「すごい、私じゃないみたい。」

「誰が何と言おうと、エレノア・ランカスター様です! それにしてもすごいですね、サイズがピッタリなのもそうですが、お色も素材も形も、本当にエレノア様によくお似合いです…。」


 鏡に映る自分は、不思議なくらいしっくりきている。胸元が開いたドレスではなく、シンプルな黒いレースで首元まで隠し、すっきりとしたドレス。あんなに高級な生地だなんだとドキドキしていたけれど、今までのゴールドやブルーと違い、本当に「しっくり」きているのだ。贈られた宝石は透き通ったエメラルドグリーンに、漆黒のリボンがあしらえてある。これが本当に不思議なのだけれど、鏡で見ると私の瞳の色そのものだった。

 髪はサイドへ流し、邪魔にならない程度に結わいてくれた。アクセサリーも統一されていて、洗練された美しさがある。


 「カイゼル殿下は、エレノア様の色を、よくご存じなのですね。」

 「私の…色。」

 「そうです!銀糸といっても明るさも様々ありましょう? エレノア様の雰囲気や肌の色、瞳の色、髪の色に合わせて一番美しく見える色を、カイゼル殿下はご存じだと思います。ゴールドだって本当は、エレノア様に似合うゴールドもあるのです。ブルーだって…。」

 「…そうね、セレナ、ありがとう。美しくしてくれて。」

 「いいえ、エレノア様は、いつだって美しいのです!」


 これならば、カイゼル様に見せても恥ずかしくはない出来だと、思う。

 

 「エレノア、準備はできたか。」

 「はい、」

 外から兄がノックし、返事を聞くとドアを開ける。


 「おお、いいじゃないか。よく似合ってる。」

 「ありがとう、ございます。なんだか自分じゃないみたいで。」

 「ルチアーノ様、もっとほめてくださいな! ドレスのサイズもぴったりで、驚きました。色も形もこんなにエレノア様に似合うなんて!」

 「そ、そうだな。サイズ…やはりピッタリだったのか。」

 セレナの圧に押されたのか、兄はたじろいでいた。

 「お兄様も、素敵です。」

 「そうか? まあ、今回は使節団としてだから、華美にはしていないが…何でも着こなせるからな、俺は。」

 緊張を紛らわせようとしているのだろうか、兄のやさしさにホッとする。



 「おねえさま…。」

 「シャーロット。すごくきれいだわ。」

 「ありがとう…。おねえさまも、きれいよ…。」


 少しふてくされた顔の妹は、お世辞ではなく本当に美しかった。ルイ王子からのプレゼントであろうシャンパンゴールドのドレスには、白いレースがあちこちにちりばめられている。胸元には美しいサックスブルーの装飾が差し色に使われており、紛うことなく、王子の婚約者である。


 「そうね、ルイ様はずっと、シャーロットを想っていたのね。」

 「エレノア」


 彼の色を身にまとう妹を見て、先ほどのセレナの言葉の真意に気づいてしまった。今まで私に贈られていたドレスや装飾品たちは、私に選んだものではなかったのかもしれない。何をどう着ても似合わないと感じてしまっていた。肌の色、髪の色、雰囲気、すべてにおいて、「シャーロットの色」だったのだ。


 「今になって気づいたわ。そうね、最初からそうだったのだわ。」

 「おねえさま…?」

 「シャーロット、今日は帝国使節団の方と挨拶されるのでしょう。基本のカーテシーを美しく、いつものように飛び跳ねない事、わからない話には「わからない」と言わず、ルイ殿下のお話をしっかりと聞くのよ。」

 「わ、わかっているわ!おねえさまに言われなくても!おねえさまこそ、皇太子殿下にがっかりされないようにね!」


 フン、といつもの調子を取り戻して先に発った妹を見て、なんだか心のつかえがとれたように感じる。


 「エレノア、大丈夫か。」

 「ええ、大丈夫。帝国の話題を振られてもしっかりと答えられそうだわ。」

 「エレノア様、そういう意味ではないと…思うのですが…。でも、エレノア様は努力されてましたもの。私は見てました。大丈夫です! 帰ったらたくさんお話してくださいね。」


 お気をつけて、と見送られ、私と兄は王城へと向かう馬車へ乗り込むのだった――。


 

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