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妹の補佐として望まれましたが、帝国では正妃として愛されるそうです  作者: おくら
序章

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2/23

帝国の皇太子殿下からプレゼントが届いたようです

 *******



しばらく日がたち、私たちの婚約は破棄され、新たに妹のシャーロットがルイ様の婚約者となったニュースは、新聞で公にされた。私の元へは詳細を聞きたいご令嬢方からのお茶会への誘いが増え、辟易としている。一方でシャーロットへもたくさんのお茶会の誘いが来ており、彼女は意気揚々と毎日違うドレスを身にまとってこれ見よがしに出かけている。

「良いのですか?お茶会お断りして。」

髪に櫛を通しながらセレナは尋ねる。侍女として、私をドレスアップさせる機会がないことに退屈しているようだ。

「私が行っても興味本位に話を聞かれるだけだわ。どうせシャーロットがすべてお話してしまっているもの。好機の目にさらされるのは嫌だし…。せっかく王妃教育の時間がないのだもの。好きな本でも読んでおきたいわ。」

最近読み始めた帝国で出版された物語。エスメラルダではあまり見かけない、女性が主役の冒険物語だ。帝国の文化的背景や、実際の都市が描かれていて興味深い。今までは自国の文化や政治等の本ばかり読んでいたが、時間ができた今、鮮やかな描写の美しい物語が心をほぐしてくれている。


 「そうですね…。エレノア様をうんと美しく仕上げてさしあげたいのは山々ですが、こればかりはエレノア様のされたいことをなさるのが一番ですものね…。あら…?」

 「どうしたの?」

 「この招待状、王家の紋が入っています。」

 「…断れないやつね。―――帝国の視察の方々が来られるそうだわ。…ただ、パートナーが必要だし、今の私では出席できないわね。…お兄様が学園から帰ってこられるなら頼んでみるけれど…。」

 兄は現在帝国の学園へ留学している為、すぐにはこちらへ帰ってこない。婚約破棄の話が公にされた際には、今読んでいる帝国の物語の一巻を送ってきてくれた。兄だけは私たち姉妹に公平で、手紙には「ルイ様は見る目がない」とだけ書いてあり、クスリと笑ってしまった。

 「出席できたとしたら、新しいドレスがほしいですね! エレノア様の黒髪を引き立てる美しいドレスが…!」

 「ふふ、お兄様に聞いてみるわね。」


 「その必要はないよ。」


 声のする方を振り向くと、私室のドアの横に、久しく見ていなかった兄の姿があった。美しいプラチナブロンドに、きりっとしたエメラルドグリーンの瞳。先ほどちょうど噂をしていた兄――ルチアーノである。


 「お兄様!どうして?」


 「その招待状、帝国の視察団が来るって書いてるだろう。使節団に学生代表として数名選ばれてね。俺の出身国というのと、もう一つ、あ――、どのみち連絡はくるだろうから目的は伏せるが、俺もその中の一人に入れていただいたんだよ。」

 「そ、そう。…久しぶりに会えてうれしいわ。お兄様が送ってくださった本、とっても面白くて…。書店に行って続きを買って読んでいるのよ。」

 「そりゃ良かった。とある方にお勧めされたんだよ。妹にどうかってね。」

 「そうなの…その方にお礼を言っておいてくださる? 本当に面白いわ。」

 「まあ、そのうち直接お礼を言えるさ…。さ、俺は父上に挨拶に行ってくる。大事な報告もあることだし。エレノア、その舞踏会、行く心づもりでいろよ。お前は必ず行かなきゃいけなくなる。ただしドレスは、新調しなくて大丈夫だから。」


 それだけいうと颯爽と部屋を去る。

「ルチアーノ様、なんだか意味深でしたね。」

「そう、ね。まあ…お兄様が仰るならそうしておきましょうか…。舞踏会までまだ日にちもあるし、私は本をゆっくり読んで過ごすことにするわ。」


 *******



「おねえさま、ご覧になって! ルイ様からの贈り物よ! わたくしに!」

 舞踏会を間近に控えたある日、上機嫌に踊るシャーロットの声が廊下に響いた。

 「そんなに大きな声を出すのははしたなくてよ。舞踏会のドレスが届いたのではない?」

 「ふふ、そうなの。舞踏会では婚約者として帝国の方々にご挨拶するのですって!だからとびきりきれいなドレスを贈ってくださる約束をしていたの!先ほど使者の方が来て、わたくしにって!」

 ぴょんぴょんと跳ね回る妹を見て、そうか、この子もどなたからかの特別なプレゼントがほしかったのね。ずっと。私がもらうサックスブルーとゴールドのドレスを、うらやましく思っていたのだわ。


 「エレノア、お前にお客様だ。」

 硬い表情の父が、私に声をかける。先ほどまでぴょんぴょん跳ねていたたシャーロットは、不思議そうに私を見る。

 

 通された客間は、空気が張り詰めていた。

 「お、来たな。エレノア、こちらは―――」

 「帝国使節団のイヴァン・ノクスです。お見知りおきを。本日は我が国の皇太子、カイゼル様より遣わされ、エレノア嬢へお届け物に参りました。」

 兄の横に座っていた青年は、わざとらしく恭しいお辞儀をする。薄灰色の髪を一つに束ね、糸のように細い目を柔らかく細め、穏やかな笑みを浮かべている。しかし、不思議とその表情からは感情が読み取れない。

 「帝国の…」

 ハッとして、最上級の深いカーテシーをする。

 「お初にお目にかかります。エレノア・ランカスターと申します。」

 意図は分からないが兄の反応を見るに、エスメラルダへ帰ってきた「目的」とやらの一部なのだろうか。

 「美しいカーテシーですね。さすがと言うべきか…。あぁ、こちらが、我が主からのお届け物です。」

 机に置かれた大小様々な箱が五箱ほど。そのどれもが美しい包装に包まれている。ひときわ美しい大きな箱は、品の良い銀色の包装に、鮮やかなグリーンのリボンが結ばれている。

 「皇太子様が、私に何の贈り物でしょうか…。全く身に覚えがなく…。」

 「父上、エレノアに話は通しておくと仰いましたよね。」

 「それはだな…。」

 兄の鋭い視線にたじろぐ父。

 「まあまあまあ! ランカスター公爵からお話された場合、何かしらの意図、が挟まる可能性がありますから、せっかくですし、私から直接話をさせていただいたほうがよろしいかと。」

 イヴァン様は先ほどからの笑みをさらに深めた。

 「父上…この話は我が家だけでどうにかなる話ではないでしょう…。」

 兄は情けないと言わんばかりだ。

 「エレノア、イヴァン様は皇太子殿下が信頼を置いている側近の方だ。信用しろ。そして、これからイヴァン様が説明することをよく聞くこと。これはお前にとってもいい話だと思う。お前はこの家から――いや、この国から離れるべきだ。」



*******


 「さて、エレノア嬢。これまでの会話を聞いて、あなたは現状をどう判断されますか?」


 イヴァン様が静かに問う。そうね、あまり考えないようにはしていたけれど、このタイミング、贈り物の大きさ、父のうろたえる姿、兄の言葉―――。


 「私に、舞踏会へカイゼル様のパートナーとして出席してほしい、という事ですよね…。」

 「実に惜しい! もちろん、パートナーとして出席していただきます。ただし、『婚約者』としてです。」

 イヴァン様の笑みが、さらに深くなる。


 「失礼だが! エレノアではなく、シャーロットの間違いでは…。エレノアは先日王子より婚約破棄されたばかりです。」

 「いいや、私は殿下からしっかりと『ランカスター家の黒髪の長女、エレノア嬢を望む』と聞いてます。お言葉だが、先ほど見たもう一人は、お世辞にも教養があるとは思えませんね。」

 「…皇太子殿下の、婚約者…。」

 「ええ、それも、正妃にと。」

 「そ、そんな。願ってもないお話ではありますが、私でそんな大役務まるでしょうか…。」


 帝国の皇太子、カイゼル様とは幼いころ一度だけお会いしたことがあるだけだ。ルイ様との婚約が成立する前、王城で一度だけ。


 「エレノアはどうしたい?」

 「お兄様…。」

 セレナにも聞かれた、『私はどうしたいか』。

 今まで自分で道を決めたことがない。

 「正直、婚約破棄が公になった今、エレノア嬢の婚約者はなかなか決まりませんよ。王妃教育を受けた公爵家の娘を、一介の貴族が貰うには荷が重すぎる。殿下は無理強いするなと仰ってましたが、かなり本気と見える。試しにその包み、開けてみていただけますか?」


 テーブルの上に置かれた、美しい箱を渡される。

 「すてきな、箱ですね…。」

 「包装紙からリボンまで、殿下があなたにと、選ばれてました。」

 美しい銀色と、鮮やかなグリーンのリボン。

 記憶の中の、皇太子殿下の姿が瞼に思い出される。私と同じ黒髪で、親近感を覚えた。けれど、意志の強い美しいシルバーの瞳。

 「シルバーの、包装紙とグリーンの…。」

 「エレノア、自分が思っているより、カイゼル殿下はお前を望んでるのがわかるだろ?」

 「こじらせすぎていて、私は心配ですがね。」

 兄とイヴァン様が目を見合わせる。

 肌ざわりの良いリボンをほどき、箱を開ける。


 「わ…、きれい…。」

 箱から出てきたのは、おそらくドレスだろう。

 銀糸でおられた美しい生地に、アクセントに黒いリボンが施されている。生地はとても上質で、今まで着てきたドレスのどれよりも高価なものであることが見て取れる。

 「殿下のお色なんですけど、着ていただけます?」

 「あ、えっ…、これを、私に…?」


 「おそらくサイズもぴったりに仕立てておりますので、舞踏会当日はこれを身にまとっていただきたい。そのほかの箱にも、エレノア嬢への贈り物がたくさん入っておりますので…。とりあえず、婚約のお返事は殿下へ直接お伝えください。」

 イヴァン様の早口は、他が入る隙を与えてくれなかった。

 「明日は俺が会場まで連れていく。そのあとはカイゼル殿下とお会いするから。セレナに美しく仕上げてもらえ。」

 兄は優しく微笑んだ。

 「かしこ…まりました…。」



 それでは、とイヴァン様はあっという間に去ってしまい、客室に残された私は、まるで夢を見ていたような不思議な感覚でぼうっとしてしまっている。

 「夢じゃ、ないのよね…。」

 「残念ながらな。俺は婚約の話を伝えに帰ってきたんだ。もちろん使節団の学生代表ではあるが。父上からエレノアへしっかり話をしてもらう予定だったんだが…。父上、だからシャーロットばかり可愛がるのはやめろと何度も伝えただろ。」

 父はバツが悪そうだ。

 「しかし…現にルイ様はエレノアではなくシャーロットに惹かれたと…。」

 「カイゼル殿下はルイ様とは違う。あの方は国をしっかり考えてらっしゃる方だ。安らぎや、可愛さだけで判断していない。エレノアの魅力をしっかりと分かってらっしゃる。」

 「…そう、か…。エレノア、すまない…。」

「い、いいえ。まさかこんなお話が来るとは思わず…。お兄様、私はカイゼル殿下とお会いしたのは一度しかないの。どうしてこんなタイミングで…。」

 「その話は、カイゼル殿下に直接聞くといい。さ、セレナと舞踏会の衣装の打ち合わせをしておいで。」

5/27 抜けていた文章がありましたので追加しました。お兄様の登場がバッサリ抜け落ちておりました…。

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