殿下と婚約するようです 3
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「いいじゃない、この形似合うと思うわ!」
何度目かの着替えに、もうすでに疲れ果てている。
「そう、かしら…」
「こちらのドレスは帝国で最近出たばかりの形です。」
仕立の女性がホホホ、と笑いながら得意そうに話している。
「パニエをはかないのですね~、王国ではふんわりとしたドレスが主流ですけど、こういうシュっとしたラインのものは、スレンダーなエレノア様によくお似合いですね。」
「…そうですね、こういった形のものは初めて試します。カイゼル殿下は軍服ですし、甘い雰囲気よりこういう流れる形のドレスの方が並んだ時にお綺麗かも」
裾の広がりがないIラインのドレスは、中にパニエやワイヤーを入れないので着心地がかなり楽だった。その代わり、体のラインを拾うので恥ずかしい。
「な、なんかこれ…ちょっと恥ずかしいわ。腰のラインが丸見えなんだもの…。」
「おねえさまはスタイルがいいんだから、少しくらいいいじゃない。」
「殿方は喜びそうですよ~」
「…腰のラインの部分は、フリルを入れてもらって、少し隠しましょう。基本のドレスの型はこちらで。あまり主張しすぎると、カイゼル殿下がこのドレスを着せてくれなくなりそうです。」
セレナがそう言うと、シャーロットとリリアは「あぁ…」と小さくつぶやく。フリルが入るのなら、少し着やすいのは確かだろう。
「こちらもお似合いだと思いますよ~」
背中が大きく開いたドレスを持つリリアは、ひどく楽しそうだ。
「それは少し…大胆すぎない?」
「そうねぇ…着てみるだけでも、着てみましょうよ!」
抵抗はあるが、実際に人前で着るわけではないとシャーロットに説得されて着せられる。
「やっぱり恥ずかしいわ…。」
「うーん、そうだおねえさま、こっちに座って。髪を結ってみましょう。」
シャーロットに促されて、鏡の前の椅子に腰かける。
セレナとリリアは、一緒に最終的な色や形を相談している。
「実はこういうの、ひそかに憧れていたのよ。」
「?」
「子供のころ、おねえさまとこうやって一緒にドレスを選んだり、髪を結ったり。そういうのに憧れていたの。――何度か部屋に行こうとしたんだけれど、お母さまに、おねえさまは忙しいからって止められて。」
「シャーロット…。」
「ドレスを仕立に行ったときに、これをおねえさまに色違いで仕立ててっておねだりしたこともあったのよ?でもお母さまは、『今のエレノアには必要ないから』って。――だから、今日はすごく楽しい。幸せになってね、おねえさま。」
シャーロットの言葉が、じんわりと温かく広がっていく。ああ、この子がそんな風に思ってくれるなんて――。
「ありがとう、シャーロット。」
「ふふ、ほら、こういう髪型は?編み込んでアップにするの。思い切って上げてしまった方が、いやらしさがなくて綺麗だわ。」
「本当、…でもやっぱり、背中が出るのは恥ずかしいわ。」
くすりと笑うと、シャーロットも楽しそうに笑った。
「せっかくだから、アクセサリーも作りましょう。」
「大丈夫かしら、予算は――。」
「ご主人様からは十分頂いておりますので、大丈夫だと思いますよ。」
にっこりとセレナは微笑む。
「リボンに小さな宝石をあつらうのも素敵だと思いません?」
リリアが提案したリボンは、深緑のリボンに、小さな宝石のビーズを縫い付けたものだった。
「控え目で素敵ね。……あ、そうだ。シャーロット、私とお揃いで、作らない?」
「え?」
「私たち、髪の色は似てないけれど、瞳は同じでしょう?緑のリボンに、シャーロットはルイ殿下の色を、私はカイゼル様の色の宝石をあしらうのはどうかしら…?」
「っ―――作りましょう、…嬉しいわ…」
嬉しそうに微笑んだシャーロットに、自然と笑みがこぼれた。
今まで姉らしいことは何もできていなかったかもしれないけれど、お揃いが欲しかったあの時の妹は少しでも救われただろうか――。
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「…持っていく荷物、そんなに必要かしら。」
あれから衣装が仕立上がり、荷造りを始めた。
エレノアは何箱もある大きなケースにドレスや下着やナイトドレス、化粧道具…ありとあらゆるものを詰めていく。
「何を仰いますか!必要です!到着したその日から、ご挨拶だのお披露目だの婚約発表だの…きっと忙しい日々が続きますよ!買い物する暇も無いと思います…。私も帝国側の侍女と打ち合わせしなければいけませんし…備えあれば憂いありです」
「そういうものなのね…」
あちらこちらに散らばる荷物を見て、本棚に目を向ける。
「あ、この詩集も持って行ってもいいかしら?」
「……エレノア様の荷物は本しかありませんが。」
「必要でしょう?まだ読んでいない帝国の歴史書もあるし、この詩集は子供の頃からお気に入りなの。他にも……持っていく本はたくさんあるわ。」
目に入った古びた本は、父からもらった夫婦の指南書だ。あれから開いてはいない。けれど、穏やかな気持ちでこの本を開く日が来るかもしれない。荷物の中に、そっと忍ばせた。
「おねえさま、殿下からお手紙が来たそうだわ。」
開いていたドアの間からシャーロットが顔を出す。
「あら!ほんとう?」
「お父様が書斎に来るように、って。」
「わかったわ、ありがとう。」
「…とうとうね、おねえさま、私あのリボン、大事にするわね。」
「そうね…。私も大切にするわ。」
寂しそうなシャーロットの手を握り、笑いかける。
私の手をきゅっと握り返して、シャーロットは困ったようにくしゃりと笑った。
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