殿下と婚約するようです 4
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書斎へ行くと、珍しく扉が開いていた。
「エレノアです。お父様、お呼びでしょうか。」
「入りなさい」
中に入ろうとすると、見慣れた顔が目に入る。
「イヴァン様」
「久方ぶりですね~。お元気そうで何よりです。殿下からのお手紙をお届けに参りました。」
「ご公務の方は落ち着かれたのですか?」
「俺はね。殿下はまだ少しやることがあるからと、今日は来られなくて…。すごく悔しがってた。」
面白がったような言い方のイヴァン様に、肩の力が少し抜ける。
「カイゼル殿下から、明後日に迎えに上がるとの連絡だ。準備はできているか。」
「明後日!…今荷物は整理しておりますので、間に合うと思います。」
「急で申し訳ないね。とにかく大至急で仕事を終わらせた結果だ。…使節団全体としての仕事はまだ少しあるから、他の団員やルチアーノはもう少しエスメラルダに滞在することになる。とにかくエレノア嬢の考えが変わらない内に早連れて帰りたい、って殿下が仰るもんだから…。」
「…まあ!…ふふ、変わることなんてないのに…」
思わず笑ってしまうと、父の視線が刺さった。少し驚いたような顔をしている。
「…お父様?」
「…――いや、…そんな風に笑うのだと、思っただけだ。」
少しはしゃぎすぎてしまっただろうか、父はすっと目をそらした。
「はい、これは殿下からエレノア嬢への手紙。多分同じような内容だとは思う。――中身は見ていないので、安心してください」
楽しそうにウインクをするイヴァン様に、再び笑いが漏れてしまった。
「ありがとうございます――。」
「それと、ええと、セレナさんにこれを。彼女も侍女として着いてくるんだったよね? 用意しておいてほしいものとか、今後のちょっとした予定とか。そういうのを入れているから。」
「…ご親切にありがとうございます。」
イヴァン様から、セレナ宛の封書を預かる。どこか分厚く感じるが気のせいだろう。
「エレノア嬢が帝国で困ってはいけないからね。ある程度分かっていた方がいいだろう?帝国でもあらかた準備はしているけれどね。」
「セレナが張りきって準備をしていたので、助かります。」
「じゃあ、申し訳ないんだけどこれで俺はお暇するよ。早く帰らないと殿下がいじけてしまうから。」
イヴァン様は飄々と去っていき、部屋には父と私の二人だけになった。
「――エレノア」
「はい」
「しっかり準備をしていきなさい。」
「…かしこまりました。」
部屋に戻りセレナへイヴァン様から渡された手紙を渡す。
「…なるほど、わかりました。…私も他に準備がありますので、一旦失礼しますね。エレノア様はゆっくりなさっていてください。」
「えぇ、ありがとう。私のほうも少し荷物を準備しておくわね。」
「かしこまりました。…後ほどお茶をお持ちしますので、休みながらでお願いしますね。」
「ふふ、わかったわ。」
自分も忙しいのに、私のことも心配してくれるのだから、セレナは本当にできた侍女だ。
ベッドに腰かけ、カイゼル様からの手紙を開いた。
几帳面そうな美しい字が並んでいる。
何とか使節団の仕事が一段落したこと、明後日出立ができそうであること。
それから、
「―――会えない間、君のことを想いながら過ごしていた。明後日を楽しみにしている。」
少し照れながら書いたのだろうか、先日と同じように最後の一文は走り書きで書かれていた。
「…私も、楽しみです…」
手紙をそっと胸に当てて、カイゼル様と会える日を待ち遠しく思うのだった。
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出立までの間、夕食や軽食には王国風の味付けや伝統料理、我が家でよく食べていたスープ等がよく出た。セレナは、「料理長なりのお見送りですね」と笑っていた。
「昨日も今日も、とても懐かしい食事ばかりで…とても美味しかったわ。ありがとうね。」
料理長へお礼を言うと、彼は一瞬瞳をゆるめた。
「こちらこそ、お嬢様にはお世話になって―――。どうか、どうかお幸せに…」
思えば、子供の頃から王妃教育がひときわ厳しかった日は、いつもきまってお茶の時間に少し豪華なお茶菓子やケーキが出されていたように思う。
きっと彼なりに考えてくれていたのだとわかり、心がじんわりと温かくなった。
「…使用人たちは、陰ながらエレノア様のことをよく心配しておりました。」
湯あみを終え、髪にブラシを通しながらセレナがそっと教えてくれた。
「そうだったのね。…自分ばかりが大変だと思っていて、気づけていなかったのね。」
「いいえ、エレノア様は本当に頑張ってらっしゃいました。――…明日は出発ですので、本は読まずに早めにお休みしましょうね。」
「…わかったわ、ありがとう、セレナ」




