殿下と婚約するようです 2
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カイゼル様に返事をしてから2,3日ほど経ち、お父様の執務室に呼び出された。きっと王家からの承諾が得られ、父にも話が伝わったのだろう。
執務室の扉をノックすると、入りなさい、と声が聞こえる。
「――お父様、お呼びになりましたか?」
「…掛けなさい。」
中に入ると、父と母が珍しく揃っている。
2人の向かいに座ると、父は咳ばらいをした。
「…カイゼル殿下から話は聞いた。求婚を快諾したそうだな。」
「…はい。」
「あなたで大丈夫なの?――帝国の王妃だなんて…。ルイ殿下にも愛想を尽かされたというのに…。カイゼル殿下に恥をかかせるなんて、あってはならないのよ?」
母の眉間には深くしわがよっている。
「…カイゼル様は、私に選択する権利を与えてくれました。私が決めればいいと。…私はカイゼル様の隣に居たいと、思っています。」
「帝国からの正式な話となれば、こちらは聞くしかない。帝国でも妃教育を受け、励みなさい、――くれぐれも殿下に恥をかかせることのないよう、我が家の汚点にならぬよう心掛けろ。」
「―――もちろんです。」
父と母の言葉は、じわじわと心を刺すようで手の先が冷え感覚がなくなっていく。私を嫌っているわけではない。私はただ、家の存続のために必要な駒なのだ。きっとそれは、シャーロットもお兄様も。
「これを持っていきなさい。」
父に差し出されたのは、一冊の本だった。
「夫婦の、指南書ですか。」
「こういった勉強はまだしていないだろう。…しっかり学んでおきなさい。」
かなり古い本に見える。きっとこの家に昔からある本なのだろう。ところどころに折り目が付いていて、読み込まれた形跡があった。
「くれぐれも、殿方に恥をかかせてはいけません。教育は大事だけれど、それを殿方の前でひけらかすことは恥です。カイゼル殿下を支えなさい。それが妻の、王妃の務めですからね。」
「―――はい…。」
「持参金が必要ないと聞いているが、輿入れに必要なものは我が家から出す。きちんと用意をしておけ。帝国への出発については、また殿下から連絡があるだろう。」
「かしこまりました。」
執務室を出ると、セレナが心配そうに待っていた。
「エレノア様…?」
ぽろりと、我慢していたものがこぼれる。
「…一言でいいのよ。たった一言で良かったの。」
ぐっと下唇を噛む。
「――…『幸せに』って、言ってほしかったな…。」
ぎゅっとセレナに抱きしめられた。
「幸せに、なりましょうね―――。」
セレナの温かい体温に、冷え切った手に熱が戻っていくのを感じた。
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あれからカイゼル様から、自分も公務を終わらせるために少し時間が必要だから、その間に準備を、と手紙がきた。1か月ほどかかってしまうらしく、その間はいつ会えるかわからないのだそうだ。帝国の使節で来ているのだから当然だろう。これまで私の時間に合わせてくれていたのだと気づく。
「あ…」
手紙の最後に「早く君を連れて帰りたい」と走り書きで書いてあり、くすりと笑みが漏れた。
「エレノア様、よろしいですか?」
「なあに?」
「今日は仕立の方を呼んでおりますので、ドレスを作りましょう。何着ほど用意しますか?」
「そうね――何着くらい作っておいたらいいのかしら…。カイゼル様から頂いたドレスと、この間既製品の簡素なものも買ったし…。2着くらいでいいかしら?」
「2着で足りるわけないじゃない!」
セレナの後ろから、シャーロットが声を張り上げながら顔を出した。
「シャーロット?」
「私も同席させてもらうわ。この間帝国の流行も教えたじゃない!おねえさまとセレナだけだったら、無難なドレスを作って終わりそうだわ…。国王陛下への挨拶とかお茶会とか色々あるでしょう?もっと作っておかなきゃ!リリアも連れてきたから、存分に選びましょう!」
リリアはシャーロットの侍女だ。ふんわりとした雰囲気で、ドレスやアクセサリーの流行にも長けているので、シャーロットとの相性が良いようだ。
「リリア、同席するのはいいけれど、あまりエレノア様の負担にならないようにね。」
「わかっておりますよ~。帝国の流行のドレスを仕立てる機会なんて中々ないですから、ぜひぜひシャーロット様にも見ていただきたいのです。エレノア様にお似合いの形も試してみたいですし」
「でもあまりお金を使いすぎるのも良くないでしょう?」
「今までプレゼントで頂いたドレスくらいしかないじゃない。ルイ殿下から頂いたものはもう着れないのだし、チャリティーに出すとして…。それを除いたら私のドレスの5分の1にも満たないのよ?今までドレスの仕立にお金を使っていないのだから、少しくらい多めに使ってもいいのよ。」
そういう問題なのだろうか…。ただ、シャーロットがここまでしてくれる事に嬉しさを感じる。
「…良いのがあれば、仕立てるから…。」
「それじゃあ、こちら流行のドレスの型のパンフレットお渡ししときますね~」
リリアがすっと冊子を差し出し、受け取るがその重さに驚いた。
これ…全て試すわけではないわよね?
冊子のページの数に、今日の拘束時間の長さが想像できてしまい、一抹の不安を感じた――。




